[社説]性犯罪規定見直し 同意なし許さぬ社会に

法制審議会の部会が、性犯罪の処罰要件を明確化する刑法改正の要綱案をまとめた。
見直しに大きな影響を与えたのは、実名で被害を訴えてきた当事者や性暴力は許さないとの意思を示してきたフラワーデモなどの活動だ。
同意のない性行為は犯罪である、という認識を社会で共有する契機としなければならない。
要綱案の柱は、強制性交罪などの処罰要件の改正である。現行法の「暴行・脅迫」といった要件を、「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」に改めた。
要因となる行為・状態も具体的に例示。「暴行・脅迫」に加え、「アルコール・薬物の摂取」「恐怖・驚愕(きょうがく)」「上司・部下といった関係による影響力」など8項目を挙げた。
法務省は当初、要件を「拒絶困難」にさせた場合としていた。だが拒絶義務を課すかのようだとする批判を受け、「同意しない意思」に修正された経緯がある。
刑法見直しを求めるきっかけとなったのは、2019年に相次いだ性犯罪事件の無罪判決だ。女性の同意がないにもかかわらず、男性が合意があったと思い込んだから無罪という理不尽なものだった。
現行の要件は曖昧で、捜査機関や裁判所によって運用にばらつきがあることが指摘されている。
もちろん冤罪(えんざい)はあってはならないが、現行規定で有罪とされるべきなのにならなかった行為に対する適切な処罰は必要である。
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改正要綱案には、性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げることも盛り込まれ、わいせつ目的で金銭提供を約束するなどして子どもを手なずける「グルーミング」も新たに罪に問えるようにした。

SNSなどを介した子どもへの被害など最近の傾向を重く見てのことだろう。
さらに公訴時効の見直しも明記。強制性交罪では現行10年が15年に延長され、被害時に18歳未満なら18歳になるまで時効が進まない。
ただ公訴時効については不十分だとする声が上がっている。
当事者団体が20年に実施した調査では、性被害と認識できるまで20年以上かかったと言う人が少なくなかった。
特に幼い頃の被害は、犯罪だと気付くのに時間を要する。被害者の中には何年もたって記憶がフラッシュバックしたり、自分を責めたりする人もいる。その特殊性を考えれば、さらなる延長も検討すべきである。
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沈黙を選ばず、声を上げた人を支え、社会を変えていく-。19年4月に始まったフラワーデモは、女性たちが性暴力に声を上げるうねりをつくった。
当事者団体のメンバーは、要綱案にある「同意しない意思」という文言を、社会へのメッセージと評価する。
政府は今通常国会に改正案を提出する方針だ。
同意のない性行為を許さない社会に向け、性教育の充実や啓発など法改正以外にも取り組まなければならない課題は多い。