「原付」は小型でコスパも高く、通勤や通学、買い物などの移動手段として親しまれてきたコミューターです。前回の「前編」では、その原付が2025年の10月末で新車販売が終了し、125ccクラスのモデルを出力制限して販売する可能性が高いことをお伝えしました。
「後編」の今回は、原付が125cc版になった場合に考えられるメリット・デメリットのほか、中古車市場で出回る旧50cc原付の動向や、EVをはじめとしたガソリンエンジン以外のコミューターについて解説します。
■出力を下げても125cc化すればメリットはある
現在の原付は小さな50ccのエンジンを常に目いっぱい回して出力を稼いでいますが、125ccになればトルクも太くなって乗りやすくなります。また、回転数も抑えられるため、ピストンやギアといったエンジン内部の機械的な消耗も少なくなりますが、もともと125cc用に作られているものをディチューンするため寿命はさらに延びるはずです。
125ccの車体は50ccよりも重くて大きいですが、トルクが太ければ走行に大きな支障はなく、車体の安定性は高くなるため悪路や横風の影響も受けにくくなります。そのほか、シート下やグローブボックスといった収納スペースも拡大します。デメリットは女性や高齢者などには少し重く感じることや、一まわり広めの駐輪スペースが必要になることでしょう。
そのほか、世界中で売られている125ccと車体やパーツの大半を共有するというスケールメリットにより価格も抑えられる可能性があります。現在の原付スクーターの新車価格は18~22万円ほどですが、125ccクラスでは22万円くらいの廉価モデルもあり、出力を下げた原付版はさらに価格が低く設定されるかもしれません。
また、タイヤやエアクリーナー、ブレーキパッドなどの消耗品や、社外製パーツも共有化されて入手しやすくなるはずです。
■具体的にどんなモデルが発売される?
かつては地味で実用的なイメージだった125ccですが、現在はスクーターを中心に人気も高まりました。今や250ccクラスに匹敵する質感や装備を備え、バイク好きを十分に満足させるモデルも発売されています。
ただし、これらのモデルは原付の二倍以上の価格で車格も大きなものがほとんどです。バイクのことはあまり知らず、原付を単なる「生活の足」と考えている大多数の既存ユーザー向けとしては100~110ccクラスのスクーターが有力でしょう。
日本人からすると110ccは中途半端な排気量に思えますが、今やバイク大国となったインドやインドネシアでは日本の原付に相当するカテゴリーです。そのため、豪華な装備や質感よりもコスパと実用性が重視され、車体も小柄で軽量という特長を持っています。
メーカーは既存の原付に一番近い110ccスクーターをディチューンして販売をスタートさせ、「新規格原付」の人気次第では、若者向けに上級モデルや趣味性の高いミッション車をラインナップに加えていくかもしれません。
■既存の50cc原付はどうなる?
メーカーが原付を新車で販売できなくなっても、現在乗っている人はそのまま乗り続けることができ、しばらくは中古車市場にも数多く出回るはずです。しかし、特定の車種は市場価値が上がる可能性もあります。
コロナ禍ではバイクブームになりましたが、それ以前から絶版旧車の中古車価格は高騰しており、中には新車販売価格の10倍以上するモデルも珍しくありません。これは中・大型車に限ったことではなく、「NSR50」や「モンキー」などの原付も驚くほど高くなっています。
125ccサイズの原付が主流になれば、今後は二度と発売されない50ccの希少性は高まります。すべてのモデルではないとしても、パワフルな2ストエンジン車や、かわいらしいデザインで女性に人気のある「Vino」などは中古車価格が上昇するかもしれません。
原付スクーターは下取り・買取では査定がつかないことがほとんどですが、置き場所があるなら手放すのは少し様子を見た方がよいかもしれません。また、駐輪スペースに余裕がなかったり、現行車で欲しいモデルがある人は早めに手を打っておくべきでしょう。
■コミューターとして存続する原付と、電動という選択肢
原付の125cc化は今までさまざまな有識者による討論が行われてきましたが、警察庁も2023年10月に有識者検討会を開催し、年内に提言をまとめたのち、法令改正を目指すようです。
無事に125cc化すれば日本だけのガラパゴス規格からは脱却できますが、排ガスを出すガソリンエンジンに対する規制は厳しくなる一方なので、これで一件落着にはならないかもしれません。
一日に数キロ程度の移動で利用する原付の代わりになる乗り物としては、電動自転車やEVバイクのほか、2023年7月の法改正で特定小型原動機付自転車の「電動キックボード」も追加されました。
電動二輪には充電に要する時間やインフラの問題などがあるため、すべての人が代替えできるものではありませんが、現時点ではユーザーが使い方や環境によって選択することになるようです。
また、カーボンニュートラルを達成するパワートレインはEVだけでなく、既存のガソリンエンジン技術を活かした水素や合成燃料も登場しています。近い将来、原付を含めたバイクにも実用化されればユーザーの選択肢はさらに広がるはずです。
津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら