「トランプ有罪」なら一躍、共和党の大統領候補に!? アメリカ版”ひろゆき”・ラマスワミ氏の華麗なる経歴

2024年のアメリカ大統領選挙に向け、“トランプ流”の型破りな政策で注目度が急上昇中のビベック・ラマスワミ氏。討論会では他の大統領候補者たちを次々と論破し、話題となっている同氏だが、トランプ元大統領の裁判の結果しだいでは思わぬ躍進があるかもしれない。
「FBIは廃止」「気候変動はホラ話」「ウクライナのロシア占領地域はロシアにくれてやる」など、過激で矛盾だらけの公約をぶち上げながらも、その強力な論破術で他の異論をことごとく粉砕する“アメリカのひろゆき”こと、ラマスワミ共和党候補。米中央政界ではほとんど知名度がなかったにもかかわらず、その強弁ぶりにライバル候補が次々と反論したところ、返り討ちにあって大炎上したことから逆にメディアの注目を集め、いまではペンス元大統領をしのぐ5%台の支持率で、共和党の大統領予備選の4番手につけるまでに赤丸急上昇している。
ラマスワミ氏(写真/AFLO)
その政策内容がトランプ氏と類似しており、右派支持層から「若手のトランプ」と目されていることも人気の原因といえるだろう。移民政策でいえば、トランプ氏は移民の制限を唱えながら、実際には2016年の選挙戦で、マンハッタンのトランプ・タワー建設に東欧から大量の移民労働者をH-1Bビザで入国させていた矛盾を暴露されている。前編で紹介したように、ラマスワミ氏も同じくH-1Bビザで自分が経営する製薬会社を肥え太らせる行為をしていたわけで、この一点からも「若手トランプ」と言ってよい。他にもメキシコからの不法移民や麻薬流入には容赦なく、気候変動論はまやかしだから化石燃料はガンガン使う、など、トランプまがいの過激な政策が目白押しだ。陰謀論的思考も共通していて、「ワシントンには『闇の政府』や『顔がない行政政府』があり、実権力を握っている」「9・11の事件について米国政府は何かを隠している」など、日本のオカルト雑誌「ムー」もビックリの怪しげな説を吹聴しているのだ。
また、トランプ氏とラマスワミ氏には億万長者という共通点もある。ラマスワミ自身は「両親は40年前に移民してきた一文無しのインド移民」と語っているが、彼の実家はインド南部ケララ州の富裕なバラモン(インド・カスト最高位の司祭階級)で、額面通りには受け取れない。ふたりに違いがあるとすれば、ビジネスセンスかもしれない。破産を4回も経験したトランプ氏と違い、ラマスワミ氏のビジネスは順風満帆そのもので、その商才は誰もが認めるところだ。
トランプ元大統領
大学時代からベンチャー企業を立ち上げていたラマスワミ氏がバイオテクノロジー企業ロイバント・サイエンシズ(Roivant Sciences)を設立したのは2014年、29歳のときのことだ。頭のroiは、return on investment (投資収益率)からとったとされる。登記はタックス・ヘイブン(租税回避地)として名高いバミューダで、資金は彼自身も務めたことのあるヘッジファンド会社QVTから1億ドルの調達に成功している。ロイバントの顧問にはダッシェル元上院民主党院内総務を筆頭に、民主・共和両党の名だたる政治家が名を連ね、ハーバード、イエールの威光をフルに発揮させたとはいえ、20代の無名経営者のスタート・アップとしては異例の成功と言ってもよい。ラマスワミ氏の独創的なところは、製薬ベンチャー業界に新たなビジネスモデルを導入したことにある。新薬開発には一般的におよそ26億ドル(約3800億円)かかるうえ、3相に分けて行われる臨床試験は90%が失敗するとされる。ラマスワミ氏は、まず大手製薬会社が所有する特許の中で、臨床試験の失敗などで採算上、放棄同然の特許を物色し、二束三文で回収する。そして、ロイバントの子会社が新たな方法でこれを再開発するという期待と情報で投資家を集め、臨床試験の前に新規株式を公開し、上昇のタイミングで売却するというものだ。
たとえば2015年、彼はロイバントの子会社アクソバント・サイエンシズを設立し、大手製薬会社からアルツハイマー治療薬インテピルジンの特許を500万ドルで購入している。新しい臨床試験をする前に新規株式公開(IPO)を行うと、そのメディア戦略の巧みさも手伝ってか、アクソバント社の市場価値は30億ドル(4300億円)に急騰し、ラワミスワミ氏は一躍ウォール街の寵児となった。しかも、その後、臨床試験に失敗したものの、ダメージは子会社に限定され、彼自身は損失を潜り抜けた格好になっている。この用意周到さは日本の若手起業家にはなかなかないものだ。
実業家としてのラマスワミ氏は日本企業にもその触手を伸ばしている。世界最大のIT系投資ファンドも運営する孫正義氏にプレゼンし、ロイバントに11億ドルもの投資を引き出すことに成功したのはその典型だ。その交渉では孫正義氏がプレゼンの席で好んで使うとされる、「金の卵を産むガチョウ」や「一角獣が右肩上がりに上昇するイラスト」などがフル活用されたという(ニューヨーク・タイムズ、2023/6/23)。また、2019年にはロイバントの子会社でも有望な5社を大日本住友製薬(現、住友ファーマ)に30億ドルで売却している。このM&Aでラマスワミ氏の翌年のキャピタルゲインは1億7400万ドル(約240億円)にもなり、欧米メディアでも大きな話題になったほどだ(フィナンシャル・タイムズ、2023/8/26)。
最新の世論調査によれば、ラワミスワミ氏は第2回目の討論で集中砲火を浴びて全米の注目を集めたことも手伝って、共和党候補としては前述したようにトランプ氏、デサンティス氏、ヘイリー氏に次ぐ第4位に食い込んでいる。とはいえ、共和党支持者の過半数以上がトランプ氏支持の傾向は今後も手堅く、常識的に考えれば、ラワスワミ氏が共和党候補になる確率は絶望的に低い。だが、ここでワイルド・カードが一枚ある。ラワスワミ氏の政策はトランプ支持者をそのままガッツリつかめる内容だということだ。討論会で「トランプ氏が有罪になったら、大統領としてあなたは彼に恩赦を与えるか」という司会者の質問に、ただラワミスワミ候補だけが即挙手をし、「イエス!」と明言したのだ。トランプ氏をめぐる刑事訴訟は現在、主要なものだけでも4件の審理が同時進行しており、ひとつでも初審有罪となれば、穏健な保守層を中心にトランプ離れが起きてもおかしくない。トランプ有罪の有事のときこそ、俺の出番だ――。トランプ氏を彷彿とさせる炎上覚悟の過激な言動ぶりを見るにつけ、ラワスワミ候補がそう密かに計算しているように思えてならない。取材・文/小西克哉 写真 shutterstock