ブログやSNSでドラマの感想や情報を発信して人気を博している、蓮花茶(@lotusteajikkyou)さん。
2023年10月スタートのテレビドラマ『下剋上球児』(TBS系)の見どころを連載していきます。
教師という職業に、教員免許という資格が必要なのは間違いない。
だが、教員免許を持たなくても、大人として子どもたちに対してどうあるべきなのかが問われた回だったと思う。
南雲脩司(鈴木亮平)の壮絶な過去が担当弁護士の榊原(伊勢志摩)にぼつぼつと語られ始めた。
両親から捨てられ生活もままならない幼い南雲を救ったのは教師の寿(渋川清彦)だった。寿は自宅に南雲を住まわせて、『生活する』ことを教えてくれた。
おそらく、担任の仕事の範疇から逸脱していると思う。でも寿にとっては教師としてだけではなく、大人として、社会から見捨てられた子供が一人でしっかり生きていけるように育てたかったのではないか。
中学を卒業してすぐ働くと言った南雲に、高校への進学を勧めたのも寿だ。進学した南雲はそこで賀門監督(松平健)と出会い、野球部に入ることになる。
南雲の境遇はまさに、姉と祖母のために働かねばならない根室知廣(兵頭功海)とほぼ同じだった。なぜ南雲があそこまで根室を必死で支えたのか、これが答え合わせだった。
南雲が根室をなんとしても野球を続けさせようとしたときには、きっと、彼を救ってくれた寿や賀門のことが頭にあったに違いない。
2話で根室が南雲からグローブをもらったとき、恐縮する根室に南雲が言った「大人になってから誰かになにか返せばいいんだよ」というセリフは、まさに南雲自身の実感だったのだろう。
無免許のまま教師になった南雲が配属先で出会ったのは、問題児の越前恵美(新井美羽)だった。罪悪感ゆえに早く教師を辞めようと思っていた南雲だからこそ、恵美に体当たりで関わっていくことができたのは皮肉である。
だが、根室の時と同じく、南雲の中に寿がしてくれたことがちゃんと根付いていたからこそ、道を踏み外しそうになっている恵美のことを見捨てられなかったのではないか。
「子供はある日突然変わります」
南雲は確かに教職免許を持っていない。だが、子どもたちに手を差し伸べること自体は、教職免許のあるなしは関係ないのかもしれない。
まさにそんな南雲との対比になるような塩尻(町田啓太)という監督を、犬塚樹生(小日向文世)がまた勝手に連れてくる。塩尻は生徒たちを数値でしか見ず、さっさと見切りをつけてスカウトに力を入れるべきだと山住香南子(黒木華)に告げる。
結局、塩尻は誰もスカウトすることができず、犬塚にクビにされてしまったが、キャラクターとしては初登場時に犬塚にかき氷作ってマンゴーのせているなど、ドライで合理的というよりどこか憎めない面白みのあるキャラで、深刻になりがちな雰囲気を救っていたと思う。
そして、根室が電車で寝過ごして車庫に行ってしまい、行方不明事件を起こしたあと、根室を始め、越山の部員たちとOBの日沖壮磨(菅生新樹)が南雲の家に押しかけて来る。
南雲の無免許教師の件が発覚してから他人から心無いことを言われるようになっていたにもかかわらず、部員たちはそんな話を一切南雲にはしない。
ただ野球部が強くなった話を楽しそうに口々に南雲に報告する。
若者たちが食事をもりもり食べながら、わいわい野球の話をする楽しい空間。南雲の目から自然に涙がこぼれていた。
もしかすると、まさにこの瞬間、南雲は自分のしたことを今までで一番後悔したのではないか。彼らの優しさという大事なものを傷つけたことに。
そして視聴者としても、何度目かの「教員免許があれば…」と涙ぐむことになったのである。
「ザン校ザン校」と揶揄されている子どもたちは、決して駄目な子どもたちではない。可能性をたくさん秘めた存在だ。
むしろ大人の方が既成概念に囚われて、本質を見失っていることがあるかもしれない。
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[文・構成/grape編集部]