「今すぐ逃げること!」NHKの“絶叫アナ”こと山内泉アナが貫いた「言葉で命を守る」姿勢。元NHKの大御所アナ加賀美幸子は放送をどう見たか?

元旦に起きた石川県輪島市の東北東30km付近を震源とするマグニチュード7.6の令和6年能登半島地震。いまだ余震が続き、各地の道路が分断され、被災した人々への救援物資の搬送もままならない状況が続いている。地震発生当時、「今すぐ逃げること!」「テレビを見ていないで急いで逃げてください!」と絶叫中継したNHK・山内泉アナは「ニュース7」の花形アナウンサーだった。
1月1日16時6分頃、NHKは、サッカー日本代表の中継番組から緊急地震速報に切り替わり、石川県の中継画面と共に山内泉アナウンサーが登場。「緊急地震速報です。揺れているのが確認できました。石川県の皆さん、テーブルや机の下に隠れてください」と低く落ち着いた声で呼びかけた。揺れがいったんおさまった直後、津波警報が出ると声のトーンが変わり「津波警報です! すぐに逃げて下さい!」と視聴者に強い口調で呼びかけた。その後、大津波警報が発令されるとさらに語調は強まり「大津波警報が出ました! 今すぐ逃げること! 高いところに逃げること!」と発信した。
山内泉アナウンサー(NHKより)
中継を見ていた視聴者からは、「ものすごい緊迫感でさすがプロだと思いました」(都内・70代女性)、「あの迫力ならさすがに家を出ます。命を守る呼びかけでした」(都内・60代女性)と絶賛の声とともに、いっぽうで9歳男児の母親は「息子が怖がり“ウチには津波こないかな”と夜もなかなか寝つけないほどでした。ちょっと叫びすぎだったかも」(都内・40代女性)といった声もあった。SNSでも山内アナは“絶叫アナ”と呼ばれ話題を呼んだ。山内泉アナといえば現在「NHKニュース7」の金曜から日祝のサブキャスターを務めるメインアナ。「女子アナウォッチャー」の丸山大次郎氏は言う。「NHKアナは入局後、たいてい初任地は地方局に行くことになりますが、山内アナは2017年の入局後、金沢放送局勤務になりました。1年目はラジオの気象やニュースを担当し、甲子園石川県大会の実況でも絶叫していました。初任地への思いもあったでしょうし、また、災害報道こそNHKの面目躍如でしょう。今回のあの中継は山内アナだからこその素晴らしい呼びかけでした」
慶応大学時代の山内アナ(慶応塾生新聞HPより)」
金沢放送局で3年間勤務した後、東京アナウンス室勤務になった。「2021年に東京アナウンス室勤務になってすぐに『NHKニュースおはよう日本』のキャスターを担当しました。共演した高瀬耕造アナから『本当に入局3年目?』と驚かれたという落ち着きぶりを発揮していました。その後、『ニュースウォッチ9』のメインキャスターに大抜擢され、上品でキリっとしたクールなルックスと的確なアナウンスが評判でした。井上あさひアナのような落ち着きが感じられて、キャスター向きの逸材といった印象でした」(大山氏)
「2023年3月いっぱいで『ニュースウォッチ9』を降板後すぐに『NHKニュース7』の金曜・日祝のサブキャスターに就任しました。知的でクールな印象ですが、『あさイチ』でブルゾンちえみと共演したときにはCA風のメイクや立ち座りの所作などを披露し、ノリのいい一面も披露。ほがらかな笑顔も多く見せる気さくさもあります」(同前)そんな山内アナだからこそ“絶叫アナウンス”の声と緊迫した表情には迫力があった。その背景にはNHKの災害報道へのこんな方針があるからだという。「NHKのアナウンス室は東日本大震災以降、災害時の呼びかけ内容を深く検証し改善してきたと言われています。ふだんは冷静沈着なアナウンサーが強く呼びかける手法は聞く側に有事を感じさせます」(同前)NHKアナはどんな教育を受けてきたか。1963年にNHKに入局し女性初の「理事待遇エグゼクティブアナウンサー」を務め、2000年に定年退職し、それ以降もフリーアナとして精力的に活動する加賀美幸子氏に聞いた。「私は1963年に入局以降は一貫して東京アナウンス室勤務でした。私が1980年から1985年に『NHKニュース7』のキャスターを勤めていた際もさまざまな緊急速報をしてきました。特に緊急速報時はディレクターが隣に座り、次から次へと飛び込んでくる新情報を焦ることなく静かに重く伝えるのです。有事において冷静さを欠くことなく的確に伝えるには、日頃からの読書はもちろん、言葉の基本を学ぶこと、日々の発声や朗読で自己研鑽を繰り返すことに他なりません」
加賀美幸子元アナ(NHKより)
今回の緊急地震速報のほとんど全てを聴いていたという加賀美さん。こんな感想も話した。「多くのアナウンサーが状況説明をしていましたが、自分の目で見たことを、出過ぎず、足りなすぎず、胸に届く手法で的確に伝えていました。感情を抑えながら、しかし内容はしっかりと強く伝えることが基本ですが、大変なことの前では、伝える側の感情が見える瞬間、その人の思いが出ることもあり…しかしそれこそがアナウンサーの個性であると私は感じています。放送で救える命があります。皆さんなりの自然な中継だと、また、皆さんのふだんの勉強の結果が出ていたと思いました」また、加賀美さんによれば「放送後には必ず反省会をする」と言う。「今回の報道の在り方、伝え方にも反省はあり、とことん話し合うはずです。そして次の放送をよりよく改善していくのです」情報の伝達を担うアナウンサーたちには今後も災害放送への強い思いを持ち続けてほしい。※「集英社オンライン」では、能登半島地震について情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:shueisha.online.news@gmail.comX(Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班