「この対空砲使えないでしょ…」一転、もはや防空の要に! 「ゲパルト」はウクライナでなぜ成功したのか

2024年に入り、ウクライナへ新たな「ゲパルト」自走対空砲が供給されました。誕生から50年以上も経過した旧式兵器が好まれる理由はどこにあるのでしょうか。
2024年1月3日、ドイツはウクライナへの支援として、新たに「ゲパルト」自走対空砲3両と、対空機関砲用砲弾3万発を送ったと発表しました。同車両はウクライナがロシアの侵攻を受けた直後、2022年4月に50両がされたのを皮切りに、ドイツ以外の国からも含め、何度か引き渡されています。
「この対空砲使えないでしょ…」一転、もはや防空の要に! 「ゲ…の画像はこちら >>ゲパルト自走対空砲(画像:KMW)。
実は、ウクライナとロシアの戦いが始まるまで、同車両は時代遅れの兵器とみなされていました。1973年に配備が開始されたもので、基本設計は50年以上前の車両です。ドイツでは2010年に退役しており、当初はドイツがウクライナ支援をアピールするための供与といわれたことも。
しかし実戦投入されると、その評価は覆ることになります。一体なぜだったのでしょうか。
ゲパルトは元々、低空で飛ぶ攻撃ヘリや攻撃機などから、戦車や装甲車を主体とする機甲部隊を守る近接対空防御用の車両として登場。開発に際し当時西ドイツ軍の主力戦車だった「レオパルト1」の車体を流用しています。
ただ、時代が進むと攻撃ヘリの対地ミサイルも射程が伸び、ゲパルトが装備する35mm高射機関砲の有効射程5.5kmよりはるかに遠くから狙われるようになってしまい、役割を果たせなくなります。
そのため、ウクライナは最初からゲパルトを車両の護衛や対ヘリコプター用には使う気はなく、ドローンのような無人機の迎撃に使うことを計画します。
もともと、ウクライナに供与される以前から、ゲパルトのドローンに対しての有効性は高いと予想されていました。2022年にサッカーW杯を開催したカタールも、テロリストによるドローン攻撃の対策用としてゲパルトを購入したこともあるほどです。
しかし、シリア内戦やナゴルノ・カラバフ紛争など、ロシアによるウクライナ侵攻以前の紛争では、ドローンによる攻撃や偵察は頻繁に行われるようになったものの、それに対抗するために対空自走砲を大規模に運用するようなことはなく、実戦での実力は未知数でした。
そうした中でウクライナの戦場に投入されたゲパルトは、予想に反して、ドローンや亜音速で飛ぶ巡航ミサイルを相手に迎撃能力の高さを発揮します。
特にドローンなかでも、ロシアがイランから輸入した自爆ドローン「シャヘド」や、そのロシア版の「ゲラン2」、同じくロシア製自爆ドローンの「ランセット」など、自爆攻撃目的のドローンに対しての有効性が証明されます。その理由としては、低空を低速で進入する自爆ドローンが、たまたまゲパルトの設計思想に合う相手だったという話や、そもそも偵察用ドローンよりも目標が大きく、機関砲の弾を当てやすいといった話があります。
そして、なんといっても機関砲の弾を使っての迎撃であるため、ミサイルなどで迎撃するよりも圧倒的にコストパフォーマンスがいいことが魅力です。
たとえば、ウクライナに供与されている「パトリオット」地対空ミサイルは1発3~4億円がかかります。それに対してドローンは安価なものだと数万円程度、35mm機関砲の弾も1発数万円といわれており、安価なドローンを相手にするのに有効な手段となっています。
ウクライナ大統領府のミハイロ・ポドリャク顧問も、自爆ドローン相手にはゲパルトのほか、小型ミサイルで迎撃する対無人機システム「バンパイア」のように、安価でシンプルな兵器が費用対効果も高い可能性があるとの見解を示し、このような兵器のさらなる供給を求めています。
Large 240122 ge 02
「ゲパルト」が装備する35mm機関砲の砲弾(画像:ウクライナ国防省)。
ちなみに、こうした費用対効果の問題は2024年1月現在、紅海でフーシ派を相手にするアメリカ軍やイギリス軍も悩まされています。フーシ派の安価な無人機や巡航ミサイルによる商船への攻撃を、高価な対空ミサイルで迎撃している状況です。
そのため、自走対空砲が再評価される流れが起きており、ドイツでは「リンクス」歩兵戦闘車や「ボクサー」装輪装甲車に搭載可能な防空システム「スカイレンジャー30」が開発中で、トルコでは、ACV-30「コルカッタ」という車両が2018年から配備されています。