安倍派「裏金」が5年で計6億7654万円にものぼることが判明した一方、安倍派幹部の連中はその重罪をまったく反省していないらしい。政治資金収支報告書の訂正を受けて安倍派として会見することを拒否したからだ。
安倍派幹部が揃って議員辞職を拒否しているだけでも言語道断だが、説明の場である会見すら拒否するとは……。しかし、反省がないのは岸田文雄首相および自民党も同じだ。
それを象徴するのが「裏金」という表現に対する“言葉狩り”だ。たとえば、衆院本会議の代表質問で立憲民主党の泉健太代表が「(政務官)2人が裏金をもらっていたことが新たに発覚した」と言及しただけで、自民の議院運営委員会の理事が壇上に上がって抗議。参院予算委員会でも、野党議員が用意したパネルに「裏金」と書かれていることまで自民の理事が問題視したという。
政治資金収支報告書に記載していなかった金は「裏金」にほかならない。それをしゃあしゃあと「裏金と言うな!」と騒ぎ立てるとは厚かましいにもほどがある。ようするに、いまだに何も反省していないのだ。
こんな状態では、自民党が真っ当な政治責任をとることなど望めそうもないが、それは岸田首相の「政治改革」も同様だ。
実際、岸田首相は、連座制の導入について「議論」することを示したぐらいで、事実上のヤミ金となっている政策活動費の廃止・見直しにも後ろ向きの姿勢をとっている。
しかも、最大の問題は、野党が突きつけている「企業・団体献金の禁止」を、最高裁判決まで持ち出して「政党が(企業・団体献金の)受け取りをおこなうこと自体が不適切なものとは考えていない」と全否定したことだ。
言っておくが、企業・団体による献金は、1994年に細川連立政権が成立させた「政治改革関連法」で政党交付金制度の導入と引き換えに禁止・見直しが付則として決定したものだ。しかし、小渕恵三政権が1999年の法改正で政治家個人への企業・団体献金は禁止したものの、政党や議員が代表を務める政党支部への献金の見直しについては反故にしてしまった。政治改革を謳うのであれば、岸田首相はいまこそ一丁目一番地で企業・団体献金の全面禁止、企業・団体へのパーティ券販売禁止を打ち出すべきなのだ。
ところが、企業・団体献金の禁止だけは絶対拒絶の強気の姿勢を見せた岸田首相。この姿勢に対しては、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)の玉川徹氏も、「(岸田首相の)防衛ラインはどこかっていったら、企業・団体の献金ですよ」と指摘している。
岸田首相が何がなんでも死守しようと必死になっている、政党への企業・団体献金。だが、それも当然だろう。
というのも、朝日新聞が2021年分の政治資金収支報告書を精査したところ、企業・団体献金を受けた自民党の議員が代表を務める政党支部は321支部、計約31億2000万円にものぼっている。
さらに、自民党の政治資金団体「国民政治協会」の2022年分の政治資金収支報告書を見ると、収入である約29億円のうち約24億5000万円が企業・団体からの献金だった。1000万円以上の大口献金をおこなった大企業と業界団体は62にもおよんでいる。
そして、自民党は大口献金をしてくれる大企業を優遇し、持ちつ持たれつの関係を築くことでその権力を維持してきたのだ。
たとえば、企業単体で自民党への献金額がもっとも多かったのは、トヨタ自動車と経団連会長の十倉雅和氏がトップを務める住友化学の5000万円だが、トヨタはグループ会社の日野自動車やダイハツ工業、デンソーなどの献金額も含めると1億1000万円にものぼる。業界団体で最高額だったのは日本自動車工業会の7800万円だった。
このように自動車企業・業界から巨額の献金を受け取ってきた一方で、岸田政権は昨年6月、トヨタ自動車に対してEV向け電池の開発・生産計画に約1200億円の補助金を出す方針を決定。また、2022年12月には、日本自動車工業会が要望していた「エコカー減税」の延長を決めた。
さらに、防衛産業も自民党の大口献金企業の常連だ。岸田首相は防衛費を43兆円に増額することを決めたが、防衛省が買い上げる防衛装備品を生産する三菱重工業は3300万円を献金。同じく防衛省と契約する伊藤忠アビエーションや伊藤忠エネクスの親会社である伊藤忠商事は2800万円を献金している。また、岸田首相が推進を打ち出している原発関連でも日立製作所が3500万円を献金。岸田政権が強行するマイナンバー制度で関連事業を請け負う日本電気と富士通も、それぞれ1800万円を献金している。
もっと露骨なのが電通だ。ご存知のとおり、コロナ禍の持続化給付金事業でも中抜き批判が巻き起こり、東京五輪をめぐる談合事件でも電通グループが独禁法違反の罪に問われているが、電通は480万円を献金。さんざん国との癒着が問題となったにもかかわらず、懲りることもなく与党・自民党に献金をつづけているのである。
大口献金をしてくれる大企業を優遇し、税金を使って政策でお返しする自民党──。国民生活は蚊帳の外、自民党と大企業だけが潤う歪なシステムの元凶にあるのは、経団連の存在だ。
経団連は毎年「主要政党の政策評価2022」(政策評価)なるものを公表している。これはおもに政権・与党の政策が財界の要望に沿っているかどうかを検証するもので、経団連の会員企業・団体が献金をおこなう際の参考資料となってきた。つまり、政策をカネで買おうというのだ。
たとえば、2022年の「政策評価」によると、原発再稼働や次世代革新炉の開発・建設を含む「グリーントランスフォーメーション(GX)の加速」やマイナンバー制度の利活用の推進を含む「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」などを評価する項目として挙げている。まさしく、自民党への大口献金企業の事業内容と重なるものだ。
自民党と大企業の癒着を支える“諸悪の根源”、事実上の経団連による政治献金の斡旋ともいえる「政策評価」。しかも、この「政策評価」の影響度が増し、自民党と大企業の癒着がさらに強固なものになったのは、第二次安倍政権でのことだ。
そもそも経団連は、1950年代半ばから自民党への政治献金の窓口となり、企業や団体に献金額を割り振ってきた。だが、リクルート事件やゼネコン汚職などの金権政治批判を受け、1993年に非自民の細川連立政権が誕生すると政治献金の斡旋を中止。これが復活したのは、小泉純一郎政権時の2004年のことだった。政界への影響力を再び取り戻すべく、トヨタの奥田碩氏が会長を務めていた経団連は「政策評価」をもとに会員企業に献金を促すようになったのだ。
しかし、2009年に民主党政権が発足すると、民主党が企業・団体献金の禁止を公約に掲げていたことから、経団連は「政策評価」を中止し、献金の斡旋をやめた。
ところが、2012年末に安倍晋三氏が首相に返り咲くと、経団連は2013年に「政策評価」を復活させ、2014年には経団連は5年ぶりに会員企業への政治献金の呼びかけを再開させた。その結果、献金額は再び増加。実際、下野時代の2011年の自民党への企業・団体献金は11億5500万円だったが、政権に復活した2013年には19億5400万円、2014年には22億1000万円へと倍増。その後も献金額は増え、安倍氏が首相を辞任、菅義偉氏が引き継いだ2021年には、コロナ禍であったにもかかわらず24億3000万円もの献金を集めている。
しかも、経団連の政治献金の斡旋による自民党との癒着関係は、献金をおこなった個別の大企業の優遇政策を引き起こしただけではない。それは、安倍政権が献金斡旋の見返りとして法人実効税率を引き下げつづけたことだ。
2014年、経団連の新会長に東レの榊原定征氏が就任したが、榊原氏は会長就任の前日の同年6月2日に「政治献金の斡旋もあらためて検討し、年内に方向を打ち出したい」と言及。すると、この発言の翌日、自民党税制調査会は経団連が要求してきた法人実効税率を引き下げる方針を決定。安倍首相も6日に「来年度から引き下げる」と明言したのだ。その後、法人実効税率は政権発足時の37%から29.74%(2018年度)にまで引き下げられたのである。
経団連が政治献金を増やすと、その見返りに安倍政権は法人実効税率を引き下げ、そのぶんを消費税につけまわす。そして大企業は賃金上昇ではなく内部留保を増やし、安倍政権にさらに献金する……。つまり、自民党と大企業が癒着し互いに私腹を肥やす一方で、国民生活は置き去りにされただけでなく、どんどんと搾り取られていくかたちとなったのだ。その延長線上に岸田政権があり、癒着関係は脈々と受け継がれているのである。
ちなみに経団連は、消費税のさらなる増税をはじめ、社会保険料や自己負担の引き上げなども提言している。今回の政治改革で、岸田首相が「企業・団体献金の禁止」を突っぱねれば、今後も自民党政権は多額の献金を見込んで経団連の言いなりとなり、国民生活はさらに追い込まれていくことになる。
玉川徹氏は「企業・団体献金を禁止できるかどうかというのが肝だってことを、われわれ国民側が意識しておかないとダメ」と強く訴えていたが、カネで政策を買うという金権腐敗を、このまま温存させるわけにはいかない。そのためにも、世論が厳しく岸田政権の姿勢をただしていく必要があるだろう。