夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は、個人の尊重などを定めた憲法に違反するとして、男女12人が、国に損害賠償などを求める訴えを起こした。
「自分が自分ではなくなる気がしてつらかった」。原告の一人、札幌市の医療専門職の女性は姓を変えなければならない苦しみをそう語った。
長野県の原告女性は、夫の名字を使っていた時期を「人の靴を履いている感覚だった」と振り返った。
訴状では、一方が姓を変えるか、双方が婚姻を諦めるかしかない現行制度を「過酷な二者択一を迫る」ものだと批判する。
現状では、姓を変えるのは女性が約95%で、女性の不利益が大きい。それまで築き上げてきた信用や評価を維持できなくなったり、アイデンティティーの喪失感を味わったりする。だから声を上げるのだ。
1975年に選択的夫婦別姓を求める請願が参議院に提出されてから、半世紀近くも声が上がり続けている。
96年、法制審議会の改正要綱答申を受けて政府が改正案を準備したが、自民党保守派が反対し、いまだ国会提出に至っていない。
最高裁大法廷は2015年と21年に現行法の規定を合憲と判断した。ただ「制度の在り方は国会で論じられ、判断されるべきだ」と指摘している。
夫婦別姓を求める声が高まる中、30年近く、議論をせず、問題を放置してきた立法府の責任は重い。
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「女性の働き方などをサポートするため、一丁目一番地としてやってほしい」
経団連の十倉雅和会長は2月、こう言って選択的夫婦別姓の導入を求めた。
「国際女性デー」の3月8日には、企業経営者らが千人超の署名を添えた要望書を政府に提出した。
経済界から声が上がるのは、ビジネスの現場で大きな支障が出ているからだ。
夫婦別姓が認められないことで取られている旧姓の通称使用には法的根拠がない。そのため、本人確認や公的書類の記載で混乱を招いている。特に海外渡航時の手続きなどで支障が出る。
政府が掲げる「女性活躍推進」の全く逆をいく状況が生まれている。
政府は、現行制度が女性活躍の足かせになっている事実に向き合うべきだ。別姓導入は時代の要請である。
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英誌が最近発表した「女性の働きやすさランキング」で日本は主要29カ国でワースト3位だった。男女格差(ジェンダー・ギャップ)指数は146カ国中125位で先進7カ国で最低、大学など高等教育機関の卒業・修了生に占める理系女性の割合は38カ国で最下位など、遅れが目立つ。
女性が活躍する上で足かせになっているものを一つ一つ取り除いていく必要がある。その一つが夫婦別姓を認めない制度であるのは間違いない。
これ以上の足踏みは許されない。今度こそ、姓を選択できる社会の実現へ、議論を前に進めるべきだ。