空中ガソリンスタンド!? ついに戦略爆撃機も利用「民間の空中給油機」知られざるビジネスの可能性

2024年3月、日本近傍の太平洋上において民間企業の空中給油機がアメリカ空軍のB-52H戦略爆撃機に燃料補給を行ったそうです。初の実施だそうですが、裏にはなかなか進まない新旧の機材更新が絡んでいるようです。
飛行機同士が空中で接合して燃料を補給する空中給油。着陸せずに飛行機の航続距離を伸ばせる便利な手段ですが、空中接触などの事故の危険性も伴うため、この方法は一般的に軍用機の世界でしか用いられていません。
とはいえ、世界にはこの空中給油機を所有する民間企業があり、このたび日本の近くでオメガ社という民間軍事会社の機体が、アメリカ空軍機に対して初めてサービスを提供したそうです。
空中ガソリンスタンド!? ついに戦略爆撃機も利用「民間の空中…の画像はこちら >>アメリカ空軍のKC-10空中給油機。だいぶ数を減らしており、2024年現在の現役機は15機ほどにまで減っている(画像:アメリカ空軍)。
アメリカ空軍によると2024年3月10日、日本周辺の太平洋上において、オメガ社が所有する民間のKDC-10空中給油機が、B-52「ストラトフォートレス」爆撃機とMC-130J「コンバット・タロン」特殊作戦機に空中給油を実施したといいます。なお、これら機体に民間の空中給油機が給油を行うのは始めてのことなのだとか。
オメガ社はアメリカのバージニア州に本社がある民間企業で、正式な社名は「オメガ・エリアル・リフューリング・サービス」。その名前の通りに空中給油業務を専門に行う会社で、なんと6機もの空中給油機を自社で保有しています(現在運用中なのは4機)。
同社の保有する給油機は、ボーイング社の旅客機B707を改造したKC-707と、マクダネル・ダグラス社の旅客機DC-10を改造したKDC-10。ちなみに、運行する乗員の多くは元々アメリカ軍で空中給油機の運用に関わっていた元軍人のベテランばかりだといいます。
民間の空中給油会社という珍しい業種ですが、会社自体はすでに四半世紀ほど前からあり、その業務は2000年頃まで溯ることができます。アメリカ空軍への本格的なサービス実施は昨年より始まったばかりですが、アメリカ海軍やアメリカ海兵隊との契約は業務開始当初から現在まで続いています。
アメリカ軍では多くの業務を民間企業に委託しており、中には我々一般人の視点からすると「それ、民間企業でやれるの?」というものもあります。
たとえば、軍事演習における敵役部隊を担う民間アグレッサー会社などがその例で、これら企業は武装こそしていないものの。戦闘機を保有・運用しています。カナダのトップ・エイセス社などはより脅威度の高い敵役を演じるために、なんとF-16A「ファイティング・ファルコン」戦闘機をイスラエルから購入して、これを民間機として飛ばしています。
このような会社とアメリカ軍の事情を考えれば、オメガ社のような空中給油機を保有する民間企業が存在しても、なんらおかしくありません。
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新型の空中給油・輸送機として導入されているKC-46「ペガサス」。ただ、各種トラブルから戦力が大幅に遅れている(画像:アメリカ空軍)。
しかし、アメリカ空軍は自前で大規模な空中給油機部隊を保有しています。一説によると、その数は各機種合計で500機以上とも。それなのに、わざわざ民間企業のサービスを利用するのは、なぜなのでしょうか。
まず理由に挙げられるのは、アメリカ空軍の空中給油機不足でしょう。アメリカ空軍では主力空中給油機としてKC-135「ストラト・タンカー」とKC-10「エクステンダー」を長期運用してきましたが、それぞれが老朽化による退役と稼働率の低下という問題を抱えています。
更新機としてKC-46「ペガサス」の導入が進められていますが、燃料を補給するフライングブーム周りのトラブルなどから、既存機の更新と戦力化が大幅に遅れています。
こうした問題に対する対応については、アメリカ空軍の中でもたびたび話題となっており、じつは対応策のひとつとして、オメガ社のような民間企業の活用も方法のひとつとして検討されていたそうです。
もっとも、これら民間の空中給油機は、通常の軍所属機と同じように使うことはできません。一番の理由は民間企業の所有機を民間人が飛ばしているため、そのような機体を軍事作戦に使うことができない点です。そのため、空軍に属するすべての空中給油業務を民間企業に移管ないし肩代わりさせることはできず、今回のような訓練での利用などに限定されます。
ただ、アメリカ空軍としては、一部の任務でも民間企業が肩代わりしてくれることで、限りある空中給油機のリソースをよりレベルの高い軍事作戦などに集中することができることから、そのメリットは予算面以上の大きなものがあるのでしょう。
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アメリカ空軍の空中給油機勢力で数的主力となっているKC-135。ただ、老朽化が進んでおり、新型KC-46の充足が待ったなしの状況である(画像:アメリカ空軍)。
今回の民間空中給油について、燃料補給を受けたMC-130Jが所属する嘉手納基地のレーガン・マリン中佐は「オメガの民間給油機は、我々の給油機が能力以上の需要が発生したときに、この地域で活動する航空機搭乗員たちに任務支援を受けられる別の選択肢を提供します。再びオメガと仕事ができるのが待ちきれません」とコメントしています。この内容を鑑みると、アメリカ空軍が副次的な手段としてのオメガ社の活躍に期待しているように感じられます。
なお、民間企業側も、この種のサービス提供には一定の需要が将来も見込めると判断したのか、オメガ社以外の新興企業も誕生しています。
たとえば2020年には、アメリカのメトレア社が民間空中給油サービスを行う「メトレア・ストラテジック・モビリティー」(MSM)という部門を立ち上げています。同社はシンガポール空軍から退役したKC-135R空中給油機を4機購入しており、すでに各種の訓練でアメリカ空軍や海軍の機体への給油業務を実施しています。
今後はアメリカ空軍の給油機不足と民間企業の業務拡大によって、民間所有の空中給油機というものを一般人が見かける機会は増えるでしょう。ひょっとしたら日本国内でも見られるようになり、決して珍しい存在ではなくなっていくのかもしれません。