老後の生活資金となる年金の給付水準が、33年後に現在より約2割低下するとの試算結果が公表された。国民年金(基礎年金)部分に限れば3割の低下となる。細る年金に不安が膨らむ。
公的年金の将来見通しを示す厚生労働省の財政検証結果によると、経済成長が標準的なケースで、現役世代の収入と比べた年金の給付水準は2057年度に50・4%となる。
政府が法律で定めた「現役収入の50%以上」はかろうじて維持した形になっているものの、24年度の61・2%からは2割近くも低下する。
ただ示された数字は、平均的な給与で40年間働いた厚生年金に加入する夫と専業主婦の妻という「モデル世帯」のものである。
日本の公的年金制度は2階建てで、全員に加入義務のある国民年金と、これに加えて会社員らが入る厚生年金がある。
より深刻なのは、自営業者ら国民年金だけに頼る人たちだ。給付水準が33年後に3割低下する。
現在、国民年金は「満額」でも月6万8千円。年金だけでは暮らせないという人がほとんどだろう。
米軍統治下に置かれ、年金制度への加入が遅れた影響で、低年金者や無年金者が多い沖縄の状況はさらに深刻だ。
基礎年金の給付水準の低下に歯止めをかけなければ、老後の困窮が大きな社会問題となる。
低年金対策は待ったなしだ。
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23年の高齢者就業者数は914万人で過去最多。働くシニア世代は増えている。
仕事に生きがいを見いだし、社会で活躍する高齢者が増えるのは心強い。
少子高齢化で保険料を払う現役世代が減少する中、働ける環境を整備し、支え手を確保する対策は重要だ。
一方、労働政策研究・研修機構が20年に公表した調査によると、60~69歳の就労理由(複数回答)で最も多かったのは「経済上の理由」。
働く高齢者の増加は、老後の厳しい生活を映し出している。
高齢期の特徴は、健康状態や暮らし向きの個人差が大きいことでもある。
元気な高齢者に安心して社会の支え手となってもらうには、支えてほしい時にすっと手が差し伸べられる社会でなければならない。
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バブル崩壊後の就職氷河期に安定的な就職ができなかった世代が、40年ごろに高齢期を迎える。
男女の賃金格差が影響し、老齢期に困窮する1人暮らしの女性も少なくない。
パートや短時間労働者の厚生年金への加入拡大は、給付底上げの一つの方策である。女性の活躍を妨げる「年収の壁」をなくすことも急務だ。
厚労省は年末までに制度改正の内容を固める。
年金は老後の生活を守る重要な仕組み。国民の将来への不安や危機感に誠実に向き合ってもらいたい。