自衛隊初の女性イージス艦長 いまは神奈川地本の「心強いボス」パイオニアならではの悩みを聞いた

神奈川地方協力本部のトップに女性自衛官が就任しました。その本部長は、イージス艦や練習艦の艦長も務めてきた経験豊富なヒトだとか。そこで海上自衛隊大好き漫画家が突撃取材してきました。
2024年8月現在、自衛隊神奈川地方協力本部のトップである本部長を務めているのが、大谷三穂1等海佐です。
大谷1佐は、防衛大学校の女子第1期生であり、また海上自衛隊初の女性イージス艦長に就任するなどの経歴をお持ちです。神奈川地方協力部長に就任される前は、なんと練習艦「かしま」の艦長として世界中を回った経験もおありなのだとか。
海自オタである筆者(たいらさおり:漫画家/デザイナー)からすると、是非ともハナシを聞いてみたい方の1人だったので、この機を逃すまいと突撃取材してきました。経験豊富なので、話題の引き出しもイッパイ! いろいろ聞いてきたので、3回にわけてお届けします。
自衛隊初の女性イージス艦長 いまは神奈川地本の「心強いボス」…の画像はこちら >>2024年8月現在、神奈川地方協力本部長を務める大谷三穂1等海佐(乗りものニュース編集部撮影)。
まずは「自衛隊の地方協力本部・本部長ってどんな仕事なの?」という部分から伺いました。日本各地にある地方協力本部、略して「地本」ですが、一般人にとってはあまり馴染みがないかもしれません。
自衛隊に興味のある人に限っても「広報を担う部署」といったイメージが強いでしょうが、端的にいえば地本は自衛隊の「入口から出口」までを幅広くサポートする部署とたとえることができます。すなわち、入口である募集に始まり、出口である退職と再就職など、隊員のキャリアサポートが大きな任務です。
ほかにも予備自衛官の招集、災害派遣で部隊が現地に到着するまでの間を繋ぐなど、広報以外にも多くの仕事を担っているのだそう。地域と自衛隊を結ぶ、なくてはならないライフライン、そのように形容することもできます。
では、そのなかで地本部長はどんな仕事をしているのかというと、大谷1佐いわく、自治体や企業、支援団体などの交流や講演会などといった対外的な仕事が意外と多いのだとか。大谷1佐は先に述べたように練習艦「かしま」の艦長として世界中を航海し、多くの国々の人たちと交流してきた経験があるので、神奈川地本にとっては心強い……いや、心強すぎるボスですね。
講演会などでは、やはり「かしま」艦長時代のお話をされることが多いそう。とはいえ、まだまだ自衛隊に関する一般の認知度は低く、陸自の訓練は常に匍匐(ほふく)前進、航空自衛官=パイロット、海上自衛隊は艦艇オンリーなど、偏った認識を持っている人も多いのだとか。そこで、興味を持ってくれた学生に対し、自衛隊にはさまざまな職種があるのだと話すと、興味深く聞いてくれると語っていました。
一方で、自衛隊の活動には地域をはじめとした民間の理解と協力が大切なので、こうした日頃の広報活動には力を入れている模様です。
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江田島の海上自衛隊幹部候補生学校に在籍時の大谷さん。当時は3等海尉(画像:本人提供)。
ところで、大谷1佐は女性自衛官のキャリアの幅を広げた方としても有名です。そこにはやはり困難も多かったと伺いました。
まず、護衛艦の副長になってから最初の壁が「護衛艦で使う用語がわからない」ことだったそう。大谷1佐が幹部候補生学校に入校した当時は、護衛艦で勤務することができなかったため、おのずと護衛艦で使われる独自用語に馴染みがなかったのだとか。
さらに「中級船務」という専門分野を学ぶ教育課程では、教育中に研修として護衛艦に乗るのですが、当時の護衛艦は女性の乗務に対応していなかったので、1人だけ米軍艦船に回され、アメリカ海軍の女性士官が対応するなか研修したのだそう。男性と同じ土俵に立つところから難しすぎる……、あまりにもハードな経験です。
しかし、その甲斐あってか練習艦「かしま」の艦長時代には、航海中に初任幹部の要員の発表で男女関係なくさまざまな配置に決まっていくのを感慨深く見守ったとか。女性への門戸が開かれた自衛隊こそ目指すべき姿なのだと語る様子は、同性としてとても頼もしく、これからも続く自衛隊の活動における「大きな架け橋」になる人だなと感じました。
そんなわけで今回は、地本のお仕事と女性自衛官としての誇りについて教えていただきました。次回は護衛艦「かしま」の艦長経験を通して感じたことをお送りします。