2024年9月18日、中国海軍の空母「遼寧」を含む3隻の艦艇が日本近海を航行し、一時日本の接続水域に入域しました。この事態に、日本政府は中国政府に対して「深刻な懸念」を表明していますが、一方で国際法の観点から分析すると、また異なる側面が見えてきます。
防衛省・統合幕僚監部は2024年9月18日、尖閣諸島の魚釣島(沖縄県)の北西約120kmの海域で、中国海軍の空母を確認したと発表しました。
日本に“超接近”した中国海軍の空母「接続水域に入った!」…実…の画像はこちら >>中国海軍の空母「遼寧」(画像:防衛省・統合幕僚監部)。
確認されたのは、クズネツォフ級空母「遼寧」とルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻。防衛省によると、これらの艦艇は魚釣島の西約70kmの海域を南に進み、沖縄県の与那国島と西表島の間を通って太平洋へ向けて航行したとのことです。
そして、報道によると「遼寧」を含む3隻の中国海軍艦艇は、与那国島と西表島の間を航行した際、日本の接続水域に入域したことが確認されたとのこと。森屋宏内閣官房副長官は9月18日の会見で本件に触れ、中国海軍の空母が日本の接続水域を航行したのは今回がはじめてとし、さらに次のように述べています。
「先般の中国軍機による領空侵犯事案や、我が国周辺における中国海軍艦艇等のこれまでの動向を踏まえますならば、我が国およびこの地域の安全保障環境の観点から今般の事案は全く受け入れられないものであり、中国側に対し外交ルートを通じて我が国として深刻な懸念を表明したところであります」
つまり、日本政府として、今回の中国海軍による航行は受け入れがたいものであったということになりますが、これを国際法の観点から見てみると、また違った側面が見えてきます。
今回の一件で、特に注目を集めているのが「接続水域」という言葉です。そもそも接続水域とは、沿岸国(今回の場合では日本)の領海に接続している水域のことで、領海などの幅を計測する際の基準線である基線から24海里(約44km)までの海域で設定することができます。
接続水域において、沿岸国は「通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反」を防止し、または処罰することができます(国連海洋法条約33条)。たとえば、パスポートを持たずに無許可で日本に上陸しようとする不法上陸や、海外からの密輸行為などについて対処することができます。
しかし、裏を返せば、接続水域でそれ以外の問題が起こっても、沿岸国は何らかの権限を有しているわけではありません。つまり、他国の海軍艦艇が接続水域を航行するのを禁止するといったことはできないのです。
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海上保安庁が公開している領海等の模式図(画像:海上保安庁)。
従って、今回の中国海軍による艦艇の航行に関して、少なくとも国際法の観点からは特に問題はありません。一方で、安全保障上の観点からは、中国軍による活動の活発化が大きな懸念事項であることは事実であり、今回の日本政府による「深刻な懸念の表明」は、そうした側面から発出されたものと考えられます。今回の一件に限らず、何らかの事案が発生した際には、それを多角的な視点から冷静に分析することが必要です。