「ガソリン補助金」12月以降も“継続”…ガソリン税を引き下げる「トリガー条項」凍結“解除”は「見送り」か?【税理士解説】

ガソリン価格の高騰が続くなか、政府は、燃料油元売りに補助金(燃料油価格激変緩和補助金)を支給することによってガソリンの小売価格を抑える「ガソリン補助金」を、12月以降も規模をやや縮小しつつ継続することを決定した。
他方で、与野党の税制に関する協議において、現状凍結状態にある「ガソリン税」の税率を引き下げる制度「トリガー条項」を発動させるべきか否かが問題となっている。
いずれもガソリン価格を引き下げる効果をもたらす制度だが、そもそも両者にはどのような「関係」があるのか。そして、税法理論上の問題とは――。
「ガソリン補助金」は「トリガー条項」の不発動と引き換えに実施ガソリン補助金はもともと、ガソリン価格を抑えるしくみであるガソリン税の「トリガー条項」を発動させないことと引き換えに実施された経緯がある。
トリガー条項は、ガソリン1リットルあたりの価格が連続する3か月の平均で160円を超えたら、自動的にガソリン税の額が引き下げられるしくみである。もし発動すれば、ガソリン税が現在の「1リットル53.8円」(揮発油税48.6円、地方揮発油税5.2円)から「1リットル28.7円」へと引き下げられ、1リットルあたり25.1円の「減税」になる。
YouTube等で税金に関する情報発信を精力的に行っている黒瀧泰介(くろたき たいすけ)税理士は、トリガー条項の法的な性格について「論理的には減税ではなく、本来の税率に戻すだけのしくみ」と指摘する。
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黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ提供)

黒瀧税理士:「そもそも、ガソリン税の本来の税率は、トリガー条項発動後の『1リットル28.7円』です。『本則税率』とよばれます。
これに対し、現在の税率(1リットル53.8円)は、もともとは1974年に『暫定税率』として導入され、そのまま50年間、変わらず維持されているものです。
したがって、トリガー条項の発動による『減税』は、法的には『本来の税率に戻すにすぎない』ということになります」
2022年にロシアのウクライナ侵攻によってガソリン価格の高騰が始まった当初、政府はトリガー条項の発動も検討していた。しかし、結論としては見送り、一時的・暫定的な石油元売業者への「補助金」で対応する方法を選んだ。
その理由とされたのが、トリガー条項の発動により国・地方自治体の税収が大幅に減少するというものだった。
つまり、ガソリン補助金は事実上、トリガー条項を発動させないことと引き換えに実施されたものといえる。
50年間続く「高い税率」なぜ?ガソリン税のトリガー条項の「凍結解除」の是非を議論する以前の問題として、そもそもなぜ、「暫定税率」だったはずの現在の高い税率(1リットル53.8円)が50年間も維持されているのか。
黒瀧税理士:「もともとガソリン税は、使い道が道路整備・維持管理等のためだけに限られる『道路特定財源』でした。そして、1974年に『暫定税率』が導入された理由は、『道路整備の財源が不足している』というものでした。
その後、道路の整備水準が向上し、政府は『特定財源税収が歳出を大幅に上回ることが見込まれる』(※)と認めるようになりました。
そうなれば、少なくとも『暫定税率』を廃止し、元の『1リットル28.7円』の『本則税率』に戻すのが筋だったはずです。
しかし、いわゆる『構造改革』の一環として、2005年に当時の政府・与党が決めた方針に基づき、2009年以降、ガソリン税は『道路特定財源』ではなくなり、使途が限定されない『一般財源』に組み入れられました。
その際、『暫定税率』は『特例税率』と名前を変えて『1リットル53.8円』のまま維持され、現在に至っているのです。政府は税率を維持する理由として『厳しい財政事情』と『環境面への影響』を挙げていました(※)」
※参照:国土交通省「道路特定財源の一般財源化について」
つまり、ガソリン税の税率を「1リットル53.8円」とする理由が、もともとの「道路維持等の費用の不足」から、「厳しい財政事情」「環境面への影響」にそっくり差し替えられたことになる。
黒瀧税理士はこの点について、憲法・税法理論上の問題があると指摘する。
黒瀧税理士:「政府の提案で一時的に税率を引き上げた場合に、後でその理由が失われても、『新たに何らかの理由・名目を設けさえすれば、まったく同じ税率をそのまま維持して構わない』ということになりかねません。
その意味で、税金に関する事項を国民代表機関である国会が決め、コントロールするという『租税法律主義』(憲法84条)が、事実上骨抜きにされているのではないかという指摘がなされています」
「補助金の継続」と「トリガー条項の解除」燃料油元売りへの補助金の制度が2022年1月に施行されて以降、補助金の額が、トリガー条項発動による減税額(1リットルあたり25.1円)を大きく上回った月が相当数見受けられる。
ウクライナ情勢は収束する見通しが立っていない。中東の情勢も不安定である。それに加え、政府・日銀は超低金利を続けているので「円安」も長期化する可能性が指摘されている。これらの状況から、ガソリン価格の高騰は今後も長期にわたって続く可能性がある。
黒瀧税理士:「もし、今後も補助金の制度を継続すれば、国の財政にかかる負担が、トリガー条項を発動した場合より大きくなることも起こり得ます。
また、そもそも補助金の制度は一時的・暫定的な性格のものです。しかも、物価高ですべての企業が苦しんでいる中、『燃料油元売り』という特定の業種・業態に対してのみ値下げの原資を提供し、優遇し続けることは、法制度のあり方として好ましいものではありません。
したがって、ガソリン価格が今後も今の水準で推移するとなれば、補助金ではなく、むしろ『トリガー条項』を発動させ『本則税率』に戻すほうが、より無理がなく適切だという議論が出てくる可能性が考えられます」
国民生活が苦しくなり、与野党で物価対策や税負担の軽減に関する議論が活発化するなか、ガソリン価格をどう抑えるかの議論は待ったなしの状態となっている。
そのなかで、トリガー条項の解除、およびその前提となる「特例税率」と「本則税率」の関係についても、与野党間で突っ込んだ議論が行われることが想定されよう。