韓国大統領による「非常戒厳」が政治の混乱を深めている。
尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による戒厳宣言は憲法違反として国会で野党などが求めた弾劾訴追案は7日本会議の直前、与党議員のほとんどが退席し不成立となった。
尹氏は大統領としての職務を続けることになる。
尹氏は同日午前、戒厳宣言後初めて国民に対する談話を発表した。
戒厳宣言は「国政の最終責任者である大統領としての切迫感から始まった」と釈明。戒厳令の過程で国民を不安にさせたことを「心からおわびする」とし、今後の政局安定策を与党に一任すると述べた。
談話はたったの2分間。謝罪としては不十分であり、説明が尽くされたとも言い難い。
戒厳令下では、軍が中央選挙管理委員会の庁舎にも進入していた。
野党が大勝した今年4月の総選挙について、保守系ユーチューバーなどが「不正選挙」説を主張しており、金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相は「違反がなかったか判断するためだった」としている。
軍部が選挙結果に介入するようなもので民主主義の根幹に関わる。
与党の代表からも、尹氏が戒厳令で「主要な政治家を逮捕し収監しようとした」との指摘が公然と上がっている。
かつてない強権発動により異論を排除しようとしたことは明らかだ。何の責任も取らず職務を続けるということは考えられない。
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国防省は戒厳宣言の際に兵士を国会などへ投入した軍の司令官3人を職務停止にした。
軍が国会の敷地内に進入する事態を招いた責任は免れない。尹氏も厳しく問われるべきだ。
弾劾を避け、尹氏の任期短縮で矛先を納めようとする与党側の対応にも疑問符が付く。
尹氏や金前国防相らは内乱罪などでも告発されている。そうした中、内政のかじ取りや、外交の職責を全うできるのか。
こうした与党の対応は、韓国国内の分断と対立も深めている。国会周辺には弾劾を求める市民が押し寄せた。
尹氏の支持率は就任後最低の16%、不支持率は75%に達している。
そもそも憲法で定められた大統領の任期を、党の都合で短縮すること自体がおかしいのではないか。
混乱を収束できない与党の責任も問われている。
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戒厳宣言後は外交の混乱も続いている。
オースティン米国防長官は予定していた韓国への訪問を見送った。石破茂首相が来年1月に調整している韓国訪問も困難な情勢となっている。
混乱の長期化は、北朝鮮との関係をさらに不安定化させる恐れもある。
野党などは採決されるまで弾劾案を繰り返す構えだ。尹氏は「法的、政治的な責任問題を回避しない」と言うなら、国会の判断を待たず自ら身を引くべきだ。