藤井七冠は「プレッシャーとは無縁」師匠・杉本八段が占う“八冠”への道「名人に対し棋士の見る目は変わる」

6月2日、将棋の名人戦で勝ち、藤井聡太七冠が誕生しました。一夜明けた3日、師匠の杉本昌隆八段に思いを聞きました。

杉本八段は3日午後4時ごろ、ニュースONEに生出演する予定でしたが、大雨の影響で東海道新幹線が運転を見合わせ、急遽、新幹線の中から電話でインタビューに応えてくれました。

Q.新幹線止まってしまった

杉本八段:
「今掛川におりまして、完全に止まっていて、最後尾の16号車の隅っこで電話しています」

Q.藤井七冠となりましたが、獲得後連絡はありましたか

杉本八段:
「1回こちらから『おめでとう』とメールを送って、まだ返事はきていないですね。もしかしたら今、来ているかもしれないんですけどまだ来ていないような気がします。夜にでも話をしようかと思っています」

Q.藤井七冠はC級1組での昇級争いのときに杉本師匠が昇級されて、藤井七冠が足踏みした際に「すごいなと思い、来期頑張ろうと思った」と話していました

杉本八段:
「そうですね、あの時は1年間同じC級1組でしたから、対局終わって夜中に一緒にラーメンを食べに行ったり、新幹線の始発で帰ったり、よく一緒に行動したことを思い出します」

Q.「師匠を見習って」という言葉もありました

杉本八段:
「やはり順位戦というのは棋士の格を決める勝負ともいわれておりまして、収入に直結するのでどんなベテラン棋士でも本当に必死に戦うんですよね。ですから過去に羽生九段であれ、谷川十七世名人であれ、どんな強い方でもベテランの洗礼を受けるのが当たり前というところもありましたけれども、藤井新名人というのは本当に1年間足踏みしただけで、あとは誰と対局しても勝ち進んでいくというところが見事でした」

Q.七冠達成は想像していましたか

杉本八段:
「七冠までいくかどうかはわからなかったですけれども、タイトルの4つや5つは必ず取るんだろうなとは思っていました」

Q.杉本九段の師匠で、亡くなった板谷進九段は東海地方にタイトルを持ってくることが悲願でした

杉本八段:
「7つも持ってこられて師匠もちょっと戸惑っている様子が目に浮かびますけれども…(笑)」

Q.板谷九段の名人挑戦への執念もあったのではないでしょうか

杉本八段:
「板谷九段ご自身はA級というトップクラスにおられながら、普及活動もということで、名人への想いは当然おありだったと思います。ただバランスよく対局と普及をこなされていた印象で、名人に関しては当時の中原誠名人であったり、大山康晴十五世名人、そして谷川浩司十七世名人であったり、名人経験者を非常に敬意を表してリスペクトされていた印象があります」

Q.名人は趣が違いますか

杉本八段:
「我々の世界では名人というのはやはり、特別な意味を持っていましたので、そういう意味では名人に対する棋士の見る目というのはちょっと変わります」

Q.これで七冠となり、全冠制覇まであとひとつですが、タイトルを守らなければならないということは、棋士の心理としてプレッシャーになりますか

杉本八段:
「プレッシャーというのは藤井七冠には無縁というか、おそらく意識的にというかそういうことを考えないようにしていると思うんですよね。何かで読んだんですけど(藤井七冠は)防衛戦というのは、シードされていると。防衛するというよりも初めからタイトル戦を戦える喜びというものを感じて戦っているのかなと思いました」

Q.最近は藤井七冠とはいつ会いましたか

杉本八段:
「2週間ほど前のあるタイトルの就位式だったり、名古屋でも会いました」

Q.今回は何か声はかけられましたか

杉本八段:
「名人戦のことに関しては、逆に声をかけてしまうことが何かプレッシャーをかけることになってしまうんではないかなという気もしましたので、あと1局だねとか、次勝てば名人だねみたいな言葉というのは逆にかけてはいけないんじゃないかなと思って、全く出していません」

Q.プレッシャーとは無縁というのは驚きですが、平常心でタイトル戦を戦うことを楽しみにしているということですね

杉本八段:
「対局ができるということがすごく楽しいでしょうから、タイトル戦という舞台であればなおさらだと思います」

Q.将棋以外の話をすることもありますか

杉本八段:
「パソコンの話とか。昨年の暮れに1台分けてもらいまして、いま自分の将棋研究室に置いてあります」

Q.弟子同士の間での藤井七冠の様子は

杉本八段:
「昨年PCを受け取りに瀬戸まで車で弟子たちを連れていったんですけど、その時にその弟子たちと話をしていて、さすがにみんな将棋の好きな青年ばかりだから、ほどんど将棋の話なんですけど、あとPCの将棋ソフトの話であったり、それぐらいでしたね」

Q.コロナが落ち着いて弟子の方も対面で交流する機会が増えてきましたね

杉本八段:
「そうなんですよね、今までやっぱりなかなか顔を合わせるのが申し訳ないのようなところがあって、意識的に距離をとっていたところもありましたけれども、だいぶ世の中も変わって、対面で将棋を指したり、研究会をしたりできるようになりました」

Q.これからは交流の機会が増えますね

杉本八段:
「今まで自粛してやれなかった分、バリバリと対局などしたいと思います」

Q.秋には八冠に向けた王座戦があります

杉本八段:
「八冠ということでいえば、まずその前に防衛戦が2つあるんですよ。それを防衛した先の話ということになりますけれども、現在王座戦はベスト8で、あと3回勝てば挑戦者ということで、1回も負けられないという意味では、ある意味タイトル戦より厳しい状況ともいえます。だけど周りの棋士の見る目が、これはしょうがないねというか、藤井名人だったら挑戦者になるんじゃないか、タイトルも獲るんじゃないかというのは間違いないですね」