コロナ禍が落ち着く中で改めて注目が集まる「福祉旅館」というコンセプト。ケア体制が整った「観光×福祉」の宿泊所

5月8日以降、新型コロナウイルスがそれまでの「2類相当」から、季節性のインフルエンザと同類となる「5類」へと移行。油断はできないものの、コロナ禍は沈静化に向かいつつあります。
そんな中で現在、日本初の「福祉旅館」として知られる「サポートイン南知多」(愛知県南知多町)の取り組みが、福祉系のマスコミに取り上げられるなどして改めて注目が集まっています。
サポートイン南知多は、高齢者や障がい者も気兼ねなく宿泊できる旅館です。要介護の高齢者の場合、通常の旅館では宿泊は難しく、宿泊を断られるケースも少なくありません。そのような「障壁」をなくし、要介護者や障がいのある方も安心して宿泊でき、旅行を楽しめる旅館を作りたいとの思いから創設されたのがサポートイン南知多です。
福祉旅館のビジネスモデルが普及していくと、要介護者が安心して旅行を楽しめるのはもちろん、介護職の働き方の幅も広がります。また、福祉旅館以外にも「介護付き旅行」というサービスを展開している企業もあるので、併せて以下で詳しくご紹介しましょう。
現在ではホテルなどの宿泊施設において、高齢者も宿泊しやすいように、バリアフリー設計の旅館が増えています。新築はもちろん、老舗の古い建物のホテル・旅館でも、手すりを設置したり、床の段差を解消したりする改修を行っているところは多いです。
しかし、スタッフが介護スキル・知識を備えた「福祉マインド」を持つようなホテル・旅館はごくわずかだと思われます。健常な高齢者だとバリアフリー設計でさえあれば安全な宿泊は可能ですが、要介護の高齢者にとっては、それだけでは快適・安心に泊まることは難しくなってきます。
福祉旅館とは、バリアフリー設計の環境に加えて、介護職が職員として働いている宿泊施設です。旅館スタッフには国家資格である介護福祉士の有資格者や、介護施設での勤務経験者をそろえ、さらに利用客への接客の技術もしっかりと教育。要介護の高齢者へのケア体制が整っています。
コロナ禍が落ち着く中で改めて注目が集まる「福祉旅館」というコ…の画像はこちら >>
また、宿泊の予約を受ける際には、前もって移動・排泄における介助の必要性や、身体状態について入念に確認。本人はもちろん同行する家族・友人の不安も解消できるように心がけています。福祉旅館第1号となる「サポートイン南知多」は2018年に創設されました。
福祉旅館は要介護者が安心して泊まれる宿泊施設ですが、要介護者に旅行を提案する「介護付き旅行会社」もあります。
介護付き旅行サービスとは、明確な定義はないものの、一般的には「高齢者や障がいのある方などに対し、快適な旅行を楽しんでもらうためのサービス」を意味します。
具体的には、旅行プランの作成、移動手段の手配、当日の添乗といった通常の旅行会社のサービスに加えて、介護・医療ケアの提供も行います。
介護付き旅行サービスを利用する場合、まずサービスを提供する会社に連絡します。介護付き旅行会社によってサービスの内容や旅行の形態が変わってくるので、利用する場合は事前にホームページなどで確認が必要です。
連絡した後は、介護付き旅行会社のスタッフが利用客の面談を行います。本人の身体状態をチェックし、旅行が可能かどうかを確認するわけです。
面談を終えると、介護付き旅行会社の側で旅行プランを作成。バリアフリー完備のホテルを厳選して宿泊先に設定するなど、利用者の状態を配慮したプランを考えます。旅行先に手すりがないときは、現地で手すりのレンタルなども手配します。
旅行当日はスタッフが自宅まで迎えに行き、自宅を出発した時点で旅行がスタート。添乗スタッフは旅行中、常に要介護の利用客に寄り添い、必要に応じて介護・医療ケアを行います。
介護付き旅行サービスと一般的な旅行会社とを比較した場合、提供するサービスの内容には以下のような特徴があります。
日本発の福祉旅館である「サポートイン南知多」の運営元は、2022年に三重県津市の温浴施設の運営も受託。こちらの施設でも福祉旅館を16室併設しているとのこと。地域交流も含め、福祉とツーリズムを掛け合わせた取り組みを続けています。
介護付き旅行会社へのニーズも多く、実際の旅行の事例としては、「老人ホームに入居している要介護の女性が、故郷の墓参りと思い出の場所を巡る旅行」「養介護5の寝たきりの高齢者と親族が沖縄旅行」などがあります。観光だけでなく親族の冠婚葬祭、墓参りなど、旅行の目的も多様です。

高齢化が進み、要介護者が年々増える中、こうしたサービスへのニーズは今後も増えると予想されます。「令和4年版高齢社会白書」によると、要介護認定者数は2019年までの10年間で186.2万人も増加しました。高齢化は今後も進んでいくため、それと同時に要介護者数も増えていくのは確実です。しかし要介護状態といっても軽度~重度まで段階は多様であり、特に軽度~中度の方であれば、適切なケアスタッフが同行すれば旅行に出かけることが十分可能な場合も多いです。
要介護者の旅行へのニーズが増えていくと、それに伴って高まっていくのが、介護旅行を支えるスタッフへのニーズです。現在、要介護者の旅行をサポートする専門職である「旅行介助士」という資格もあります。一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会が主催する資格で、現在は民間資格ですが、将来的に国家資格への採択を目指しているといいます。
旅行介助士は、介護旅行の分野で「国内旅程管理主任者」の資格も同時に取得できる国内唯一の資格です。国内旅程管理主任者とは、旅行会社が企画する旅行に同行するのに必要な資格で、基本的にツアーコンダクターはこの資格を有する必要があります。つまり旅行介助士の資格を取得すれば、介護のプロとして正式なツアーコンダクターにもなれるわけです。
受験資格としては以下の3点が規定されています。
資格を取得するためには、一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会が指定する教育機関にて3日間の研修を受ける必要があります。受講料は5万5,000円で、「国内旅程管理主任者」「総合旅程管理主任者」を取得している場合は2万5,000円です。
今回は「福祉旅館」の話題を皮切りに、要介護者の旅行ビジネスについて考えてきました。要介護者が増え続ける中、福祉旅館や介護付き旅行へのニーズ、「旅行介助士」の資格への注目度は今後さらに高まっていくのではないでしょうか。