山崎や白州、知多、響など、数多くの人気ウイスキーを手掛けるサントリーが今年、ウイスキーの製造をはじめて100周年を迎える。これに合わせ、2023年2月1日、サントリーの鳥井信宏代表取締役社長らが記者会見を開催。次の100年を見据え、今後の展望について語った。
○▼100億円を投じて山崎蒸溜所、白州蒸溜所を改修
サントリーはこの日、大きくわけてふたつの重要ニュースを発表した。ひとつは100億円をかけて山崎蒸溜所(大阪府島本町)と白州蒸溜所(山梨県北杜市)の改修工事を行うこと、もうひとつは350mlのハイボール缶「サントリープレミアムハイボール〈白州〉」を600円という価格で販売することである。
鳥井社長は「1980年代、日本でウイスキーは一度需要を失ったが、そんな逆風の中でもおいしいウイスキーを届けるため、1981年には白州蒸溜所、1989年には山崎蒸溜所の工場で品質向上を目的とした大改修を行った」と振り返る。
そして、「改修後の原酒が10年、12年といった樽熟成を経て、2003年には山崎12年がISC(International Spirits Challenge)で日本ウイスキーとして初の金賞を受賞。2006年には白州18年も金賞を受賞するなど、世界的評価につながった」と指摘。そのうえで「山崎、白州の両蒸溜所は今年、品質向上、そして蒸溜所の魅力をお伝えするために改修を行う」と明かした。
山崎蒸溜所では今回の改修で、「フロアモルティング」という製麦工程が可能なスペースを設ける。
「フロアモルティング」とはスコッチウイスキーの伝統的なプロセスで、床に大麦を広げ、大麦を発芽(モルティング)させる製法のこと。 以前はサントリーも採用していたそうだが、この製法には多くの人手が必要になるため、今ではスコットランドでもほとんどの蒸溜所がフロアモルティングの採用を辞めているのだという。サントリーは「フロアモルティングを再導入することで、より一層、一段としっかしした原酒を作りたい」(山崎蒸溜所工場長、藤井敬久氏)と意気込む。
さらに、品質研究に必要な小型蒸溜施設「パイロットディスティラリー」にも、直火加熱と電気式加熱を切り替えて使用可能な蒸溜釜を導入する予定だという。
白州蒸溜所はフロアモルティングの導入に加え、ウイスキーの香りづけなどに関わる酵母を培養する設備を導入する。
また、山崎、白州の両蒸溜所は、蒸溜所を訪れる観光客などに一層ウイスキーや施設の魅力を伝えられるよう見学施設も改修する予定で、ともに今秋のリニューアル開業を目指すという。
○▼1缶600円の「サントリープレミアムハイボール〈白州〉限定販売
会見に同席した取締役常務執行役員でスピリッツカンパニー社長の森本昌紀氏は、「サントリー創業者の鳥井信治郎が目指したものは大きく2つある」と主張。「ひとつは世界に通用する本物の洋酒造りへの挑戦。そしてもうひとつが、日本で洋酒文化を浸透させることへの挑戦だった。これらを言葉に集約すると『品質向上』と『需要創造』が事業方針ということになる」と話す。
前者の「品質向上」は蒸溜所の改修工事を中心に継続し、後者の「需要創造」については「ハイボールを日本人のソウルドリンクにする」を掲げて活動することで推進させる計画だという。
ソウルドリンク化へ向けた足がかりとして、まずは今年、角ハイボール缶のリニューアルを実施する。角瓶のコクと風味をアップさせ、非加熱製法による炭酸ガス圧強化で爽快な味わいを実現し、より「お店の味」に近づけるという。
さらに、100周年限定商品として、今年6月からサントリープレミアムハイボール〈白州〉の350ml缶を発売する。希望小売価格は600円と高額だが、白州蒸溜所の原酒と炭酸水のみを使ったプレミアムな商品で、15万ケース(1ケース×24本入換算)限定での販売となる。秋頃にはサントリープレミアムハイボール〈山崎〉の350ml缶も発売される予定だ。
山崎、白州は近年のウイスキーブームの影響で、需要に対して供給が追いついていない。ウイスキーは長い熟成期間を要する分、すぐに増産、販売へと進めることは難しい。それでもサントリーはプレミアムハイボール缶を通じ、白州や山崎の魅力を発信することで、より需要の創造に繋げたい意向だ。
鳥井社長はウイスキーをめぐる今後の市場について、「世界でジャパニーズウイスキーが注目・評価されるということは、逆に言えば品質が悪いと淘汰されるということでもある」と予想。そのうえで、「サントリーは次の100年も愚直にやっていくしかない。今後もウイスキーに対する向かい風も吹くかと思うが、我々は『品質向上』『需要創造』を決して忘れず、一所懸命やっていく」と改めて覚悟を表明した。
猿川佑 さるかわゆう この著者の記事一覧はこちら