減っていく年金、健康への不安……老後どのように暮らし、生活を維持し続けていくのかは多くの方にとっての懸念事項だと思います。
そこで今回は、『ひとりで楽しく生きるための お金大全 「もしかして結婚しないかも?」と思ったらやっておきたい50のこと』を出版された板倉京さんにインタビュー。2023年に始めたい、おひとりさまの老後の備えについて伺いました。
○■自分の老後の前に、まず親の老後に備えよう
――親の介護が心配だけれど何をしたらいいか分からない人は多いと思います。実際に介護が必要な状態になる前にできることは何でしょうか?
まずは親の資産状況を把握しましょう。親がいくら持っているかを知ると、問題点や解決策が見えてきますので、節約と同じくここでも”見える化”が重要です。
例えばある日突然親が脳梗塞で倒れてしまったとして、いくらあるか分からない、お金を下ろせないとなると大変です。また、親が認知症の状態になるとお金が引き出せなくなってしまいます。
万が一の事態にお金を下ろせる「介護用」の口座を用意しておき、暗証番号を知っておくと安心ですね。
――資産状況を調べたらあまりないと分かって、子どもも介護費用を十分に捻出できないときはどうすればいいでしょうか?
介護サービスは地域包括支援センターの担当者が熟知しているので、一度相談してみることをおすすめします。お金があまりないことを正直に伝えて、どのような支援制度を利用できるか教えてもらいましょう。
地域で実施している細かい制度はホームページに載っていないこともあるので、実際に訪れるのがおすすめです。聞けば丁寧に教えてくれますよ。
親が要介護になれば、どのみち地域包括支援センターにはお世話になるので、挨拶もかねて顔を出しておいて損はないでしょう。
――資産のチェック以外にできることは?
介護保険制度では、所得の低い人ほど介護の費用負担は低くなります。親がどのくらい税金を払っているか、確定申告はどうなっているかも確認しましょう。
例えばもう少しで住民税非課税世帯になるのであれば、控除を使ってみるなどの工夫をすると良いでしょう。介護の費用負担が2割から1割になったりします。
同居をしている場合は世帯分離も1つの手です。親の年収が低くても自分の年収が高いと世帯年収が高くなることから介護費用は増してしまいます。世帯分離をすると親の年収を基に決まるので負担が減ります。ただしメリット・デメリットの両方があるので、自治体に問い合わせてみてください。
○■孤独対策や自分の老後に備える方法
――老後も適度な人間関係を構築・維持するために重要なポイントは何でしょうか?
近所の友達や趣味の仲間を持つことが重要です。仕事を離れても付き合いを続けられる人間関係を作っておくと心の支えになりますから、メンタル的にもプラスになります。
ある調査では独身男性は既婚男性より寿命が短いという結果も出ています。食事や生活習慣も要因として考えられますが、孤独の影響も大きいのではないでしょうか。
すぐに友達を作るのは難しいですが、例えば地元の小さなお店で何度か飲んでいると、近所の人と顔見知りになれます。そういった緩やかなつながりを持つことから始めてみると良いでしょう。
――持ち家か賃貸かで悩む独身の方も多いようです。
私は持ち家のほうが良いと考えています。賃貸は働いているうちは家賃も捻出できますし、気軽に引っ越しできるのもメリットですが、掛け捨て保険と同じで、家賃を払わなくなれば住めなくなります。
持ち家は固定資産税や修繕費などがかかりますが、払えば自分のものになります。一般的に、高齢になると部屋を借りづらくなる傾向も見られますが、持ち家なら心配無用です。
――老後になってからマイホームを買うという考えもあるようですね。
はい、老後に一括払いで買うことを推奨しているファイナンシャルプランナーの方も結構いらっしゃいますね。退職金の大部分をそこで使っても、その後の生活資金が足りるのであれば問題ないでしょう。
老後になると、物件に求める条件は変わる可能性があります。例えば現在は都会の中心部で暮らしていても、年を重ねると郊外の落ち着いた環境が良いと思うかもしれません。そんな場合、ご自身が老後に求めるものに合致した物件を買うのは良い方法です。
ただ一方で、マイホームを買うまでに支払っていく家賃はすべて掛け捨てとなりますので、そのコストをどう考えるかですね。買うまでに支払う家賃の総額を一度計算してみて、判断すると良いでしょう。
――孤独死という言葉にマイナスイメージを感じる方も多いですが、死後に周囲に迷惑をかけないために生前から実践できることを教えていただきたいです。
まずはエンディングノートを書いてみることから始めると良いと思います。病気になったときや、死後の葬儀やお墓をどうするかといったことを書いていくと、準備することがおのずと見えてきます。遺品整理など、死後にやるべきことを誰に頼むかも考えることになります。
後は生存確認も兼ねて(笑)、定期的に友達と連絡を取ることですね。
――「友達近居」という方法もあるそうですね。
「友達近居」とは、友達と同じマンション・アパートに住むことで、とても楽しそうだなと思いますね。1人よりも複数人で暮らしたほうが、近所に友達や知り合いも作りやすいでしょうし。
一緒の部屋に住んでしまうと面倒ですけど、すぐ近くに友達がいると、程よい距離で心強さも感じられます。
――介護費用はどの程度かかると想定しておくと良いでしょうか?
生命保険文化センターの調査によると、平均で合計581万円という結果が出ています。ただ介護は人によって期間の長さや症状の重さが全然違うため、あくまで平均値です。
――最後に、老後が不安と感じる独身の方へのアドバイスをお願いいたします。
独身の方は自分の考えひとつで老後の備えを進めやすいというメリットがあります。1つずつしっかり対策すれば、明るい老後が待っていると思いますよ。目をつぶって見ないようにしても問題は解決しないので、現実を見つつ、ぜひ前向きに取り組んでいただきたいですね。
○『ひとりで楽しく生きるための お金大全』(板倉京 著/ダイヤモンド社 刊)
男性や4人に1人、女性は6人に1人が生涯未婚と、独身者は急増中。税金・年金面で不利になりがちな独身者が陥りがちな7つの罠を避け、ひとりで自由に生きていくためには、早めのお金対策・老後対策が必要です。おひとりさまのクライアントを多く持つ税理士が、幸せな老後を安心して迎えるためにやるべきことを教えます。
○板倉京
保険会社・財産コンサルティング会社、税理士法人等で税理士業務に携わる。開業独立している女性税理士の組織(株)ウーマン・タックス代表。「あさイチ」、「ワイドスクランブル」などのテレビ出演や全国での講演、書籍の執筆などの活動も多数。著書に「夫には読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など。
安藤真一郎 あんどうしんいちろう マーケティング会社に勤務した後、フリーランスのライターに転身。 多種多様なジャンルの記事を執筆するなかで、金融リテラシーを高めることや情報発信の重要性に気づき、現在はマネー系ジャンルを中心に執筆している。 ライターとして、知識のない人でも理解しやすいよう、かみくだいた文章にすることが信条。 ファイナンシャルプランニング技能士2級、日商簿記検定2級取得。 この著者の記事一覧はこちら