「いろんな曲がり方」の主翼端をもつ旅客機が急増したワケ 使い方に変化の兆しも?

ここ30~40年に急速に旅客機に装着されるようになった「ウイングレット」。なぜ急速に拡大・変化を遂げ、そしてこの先どのような進化や将来像が予想されるのでしょうか。
飛行機の主翼は、その多くで先端が“立って”います。主翼翼端を立ち上げることによって空気抵抗を減らし、航空機の燃費を上げて航続距離を延ばす「ウイングレット」と呼ばれる機構で、その形もさまざまです。30~40年間ほどで大きく広まりましたが、なぜ急速に拡大・変化を遂げ、そしてこの先どのような進化や将来像が予想されるのでしょうか。
「いろんな曲がり方」の主翼端をもつ旅客機が急増したワケ 使い…の画像はこちら >>上がANAのボーイング787,下がJALのエアバスA350(乗りものニュース編集部撮影)。
「ウイングレット」が初めて実装されたのは、1988年に初飛行した「ジャンボ・ジェット」のベストセラーサブタイプである「ボーイング747-400」とされています。以降普及したこの機構は、多数の形が現れています。
747-400のウイングレットの高さは1.8mで、翼端を折り曲げたように上げたもの。その機体の大きさのわりには小ぶりなのものでした。一方で、同時期に飛んでいたエアバスA300-600Rについていた「ウイングフェンス」は翼端を上下に伸ばす形の機構を採用。ただ、こちらも高さは1mほどと、そう大きなものではありませんでした。
現代では、たとえばボーイング737の「ウイングレット」やエアバスA320neoの「シャークレット」のように、従来機より反り上がり部分が高く、目立つようになったモデルも。たとえばエアバスA350の主翼から優雅なカーブを描いてつながった翼端など、「ウイングレット」系の機構は多くの形を目にするようになりました。
この「ウイングレット」の効果は1949年に認められ、1970年にはNASA(アメリカ航空宇宙局)が旅客機向け「ウイングレット」の理論を構築するなど、実は早くから知られていました。それがなぜ747-400デビュー後から、急激といえるほどに広まったのでしょう。
航続距離が延び便数が増えると、航空会社はよりシビアに燃料費の削減へ目を向けなければなりません。近年は二酸化炭素の排出削減のため燃費向上も一層重く求められています。これらに応えようと、高性能コンピューターにより空気の流れが精密かつ滑らかに解析できるようになって、効果のある形が分かるようになりました。
そのうえ、曲げモーメント、つまり負荷が大きくかかる翼端へ問題なくつけることができるよう、軽くて丈夫な複合材も普及したことが、広まった理由として挙げられるでしょう。
空気の流れをより細かくソフトによみ、緩やかなカーブを描く形など、さまざまな姿に進化した「ウイングレット」系装備の形状の変遷は、飛ぶために効率の良い姿を求めてきた鳥の進化にも重なります。
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JALのボーイング747-400。ウイングレットが搭載された元祖的なモデル(画像:JAL)。
ウイングレットは将来どんな姿になり、航空会社はどう活用するでしょう。
以前、ウイングレットの立つ角度を飛行中に変えて、速度や姿勢などに合わせて翼端渦を積極的に制御しようと考えた研究者がいました。これは現在のところ実現にはつながっていません。ただ、駐機スペース確保のため、翼端の折り曲げ機構を備えた、ボーイングが開発を勧めている新型機「777X」を見る限り、「動く」ウイングレットも夢でないかもしれません。
また筆者は、この部分を“広告掲示板”として活用する可能性もあると考えています。
たとえば2022年に登場したスカイマーク社の特別塗装機「ピカチュウジェットBC」では、ウイングレットにもキャラクターが描かれました。旅客機の胴体は既に特別キャンペーンなどでは“キャンバス”として使われています。今後これを派生させ、企業やメーカーなどの一般広告用へ、この部分が活用されることもあり得るかもしれません。
ウイングレットの外側に広告を描けば旅客ビルからも目に留まるほか、内側なら飛行のあいだ乗客の目に触れ続けます。こうした交通広告は電車やバスでもお馴染みであるうえ、コロナ禍からの回復で収益増加に懸命に取り組む航空会社の現状を見れば、今後この部分が“広告掲示板”として使われ可能性はゼロではなさそうです。