[社説]八重山病院長辞職へ 県と市は関係改善急げ

医療現場と、県、市という3者の深い溝があらわになった。最も影響を受けるのは住民である。県と市は、地域医療の原点に立ち返り関係改善を急ぐべきだ。
県立八重山病院で昨年、院長と副院長、麻酔科部長の計3人が相次いで辞表を提出していたことが明らかになった。
副院長は12月末に辞職。院長は3月末という。病院幹部3人の相次ぐ辞意表明はただならぬ事態である。一体何があったのか。
院長は辞職理由として「現場は悲鳴を上げている。行政は患者の命を軽く見ている」と述べた。
病院が抱える課題に対し、これまで県病院事業局や石垣市が適切に対処してこなかったと訴える。
現場の悲鳴の一つが看護師などの人手不足だ。
八重山病院は昨年、看護師や臨床工学技士など計5人の増員を県に求めたものの、増員が認められたのは看護師1人だけだった。
増員要求の背景には、人手不足で人工透析患者の受け入れが困難になっていたことがある。
石垣市内では今年に入り、八重山病院を含む3医療機関が人手不足を理由に、新規の人工透析患者の受け入れを停止した。
停止を受けて県は、ようやく八重山病院に看護師など計3人を追加配置する調整を始めたが、遅い判断だと言わざるを得ない。
昨年の増員要求に応えられなかった理由について説明すべきだ。
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急患用ヘリポートの継続使用を巡る問題も根深い。
八重山病院は、隣接する暫定ヘリポートを使用して周辺離島から年間約70件の急患を受け入れている。

一方、石垣市は区画整理事業へ影響があるとヘリポートの変更を県に要請。県は新たに病院敷地内の一部を高くかさ上げしてヘリポートを造る計画を立てた。
これには病院側が安全面から強い懸念を示している。風の影響を受けやすいヘリの搭乗は危険を伴い、建設地に慎重になるのは当然のことだ。
県や市は現場の意見を尊重し、暫定ヘリポートの継続使用を認めるか、代替案を提示してほしい。
官舎の増設を巡っても、八重山病院と市のせめぎ合いが続く。
病院は医師確保のため県有地である旧八重山病院跡地に官舎の増設を要求するが、石垣市はそこに老朽化する民間医療機関の移転を求めている。それであれば市は代替地を提示すべきだろう。
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新型コロナ禍で医療者不足が加速している。域内で人材確保が難しい離島はなおさらだ。
充実した医療提供は八重山で暮らす住民の安心安全と直結しており、八重山地域の観光客数が増えていることを考えれば産業を支えてもいる。
中核となる病院の人手不足や急患体制の不備は、その地域の医療崩壊につながりかねない。命を守る人を守るのは行政の責務である。