ステルス戦闘機の時代は終わり? 「AI戦闘機」が変える戦い方 求められるのは“頭脳と学習”

日常生活の中に急速に浸透しつつAI、すなわちコンピューターによる「人工知能」。軍事利用も模索されていますが、それを流用した無人戦闘機は生まれるのでしょうか。超えるべきハードルは多いようです。
航空軍事分野でAIの適用が始まり、AIを活用した軍用機が実際に登場しています。
筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)が思うに「AI」すなわち「人工知能」という言葉は魅惑的な響きを持っています。それは、人間が創造した機械が人間の知能を超える日が来ることを予感させるからで、早くから研究が盛んであった将棋や囲碁のコンピューターソフトなどは、すでにトップランクのプロを相手にしても勝利しうる実力であることが知られています。また、AIは直近1年で美麗なイラストが描けるようになり、自然な文章を書くことができるようになりました。まさに日進月歩の勢いであると言えるでしょう。
ステルス戦闘機の時代は終わり? 「AI戦闘機」が変える戦い方…の画像はこちら >>F-15 IFCS(知的飛行制御システム)実験機。空力的破損が生じた場合でも操縦を可能とする学習型AIによる飛行制御を試験した(画像:NASA)。
そして「AI戦闘機がついに登場」。そうと聞くとパイロットが乗っていない自律型殺人ロボットに操られた戦闘機が配備されたかのようなイメージを抱く人も中にはいるでしょう。筆者も「AI戦闘機がいつ登場するのか」という質問を仕事柄よくぶつけられますが、これについてはAIの高度化や技術というよりも「最終的な武器使用の意思決定を行うのは誰であるのか」という責任や倫理の問題に拠るところが大であり、回答としては「わからない」としか言えないのが現状です。
ただ、そうはいってもAI戦闘機について現状、確実に断言できそうな影響としては、カウンターステルス能力の大幅な向上、すなわちステルスを見破る技術の獲得が挙げられます。
そもそも「AI」とは何なのでしょうか。AIの定義は時代やその場によって異なりますが、人間の脳神経細胞の働きを模擬、学習して判断するコンピュータープログラムを意味します。そのしくみは連想ゲームに近く、たとえば動物の特徴を学習済みのAIに「もふもふ」「耳が大きい」「目が大きい」「しっぽ」「鋭い牙つめ」「かわいい」といった内容の入力を行うと、もっとも可能性の高い答えを出力してくれます。
実際に筆者がChat GPT3で試したところ「ネコ30%、キツネ25%、ウサギ20%、キツネザル10%」という回答が得られました。筆者は猫をイメージしていたので、AIは見事正解を導いてくれたと言えるでしょう。この「どうぶつなぞなぞ」は、他愛のない遊びにすぎませんが、実は学習させるデータを「敵」に置き換えるだけでカウンターステルスに応用することができます。
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2005年に公開されたアメリカ映画『ステルス』で用いられた架空のステルス戦闘機F/A-37「タロン」。この映画では最新鋭の人工知能(AI)を持つ戦闘機「E.D.I」が登場する(画像:アメリカ海軍)。
ステルス機とは、機体にぶつかった電波の反射をコントロールし、相手のレーダーから隠れる技術が適用された飛行機のことですが、それはあくまでも「見えにくくしている」だけで、ほんの僅かな信号の痕跡は捉えることが可能です。
とはいえ、通常その信号は極めて小さく、常に移動しており、加えてごく短時間で消えてしまうことなどから、ノイズと識別することは困難であるのも事実です。ゆえに、ステルス機を探知することは、さながら大きな針山の中から1本の縫い針を見つけるようなものだと例えられます。
カウンターステルスを実現するためには、まずAIにノイズを含む信号とノイズを含まない信号、そしてステルス機からの信号と通常の飛行機(非ステルス機)からの信号、これらを事前に学習させることから始めます。
これらを踏まえ、戦闘機搭載のミッションコンピューターに学習データを適用したプログラムを実行させ、レーダーから得られた信号データと、ステルス機から出た信号を抽出する命令を入力することで、より遠方から高い確率でステルス機を検出する能力を得られるとされます。
さらに機種固有の信号パターン、状況や機動など様々な要素や各種学習データを蓄積することにより、カウンターステルス能力はさらに向上することが見込めます。
こうしたAIによる信号処理はすでに実用化されていますが、まだまだ初期段階です。今後ステルス機を見破るための有望なアプローチとなることが期待されてはいるものの、課題がないわけではありません。
たとえば十分な学習データがなければそもそも機能しないという点です。日本であればF-35の信号特性は大量に得ることができますが、アメリカのF-22、ロシアのSu-57や中国のJ-20といったステルス機の学習データがほしければ自分でなんとかするしかありません。
さらにAIを作動させるには大容量のストレージやメモリー、計算能力に優れた処理装置(GPU)が必須です。これまで航空機用コンピューターといえば「化石」に近いものばかりでした。それは最新鋭のF-35でさえ例外ではありません。通常の飛行制御や信号処理プログラムを実行し飛行計器の映像を表示するだけであれば、高性能である必要はないからです。
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E-7「ウェッジテイル」早期警戒管制機と編隊飛行するMQ-28「ゴーストバット」無人戦闘機のイメージCG(画像:ボーイング)。
AIの活用はカウンターステルスだけに限らず、赤外線センサーの映像から標的を識別したり、電子戦装置、飛行制御装置、戦術状況を認識したりと、その他の分野でも活用が見込まれることを考えれば、戦闘機は市販のハイエンドPCやゲーム機、ないしはそれ以上の水準が要求されるようになるかもしれません。
現状、AIが高性能化したとしても、それが必ずしも「人間が不要な戦争」へ直結するとはみなされていません。将棋や囲碁のプロ棋士がAIを活用し、新たな戦法を開発しているように、軍事においても同様のことが考えられます。あくまでもAIは人間の能力を高めるためのツールとして活用されるでしょう。