陸上自衛隊日野基本射撃場(岐阜市)で小銃の実弾射撃訓練中に教官ら2人を射殺、1人に重傷を負わせた陸上自衛官候補生A容疑者(18)。前代未聞の事件に衝撃の波紋は広がるばかりだが、入隊直前まで高校でともに過ごした同級生たちにとってA容疑者は、人間味にあふれた「好漢」だった。
岐阜県南西部で6人きょうだいの真ん中として育ったA容疑者は、小学3年までは施設で育ち、その後は親元に戻ったが、中学では不登校になり、やがて里親に預けられる。同地域の高校に入学後は里親のもとで暮らしながら、部活動やアルバイトなどにも励む充実した生活を送った。高校時代の親友が振り返る。「Aはおちゃらけキャラというか、お笑いキャラというか、話し方も陽気でムードメーカーという感じでした。みんなにも好かれていたし、先生とも気軽に話す、本当に普通の生徒でしたよ。僕は小、中学も一緒だったのですが、仲良くなったのは高校になってからです。クラスが一緒になったことはなかったのですが、放送部で一緒だったのでずっと仲良くしていました。二人とも漫画が好きでその話をしたり、PS(プレイステーション)のSPS(セカンドパーソンシューティング)というゲームが好きでよく話題にしていました。SPSは銃などで撃ち合うゲームです」
高校時代のA
#2でも報じたとおり幼少期や中学では大人にときおり反抗的な態度を示していたAだが、高校生活は落ち着いていたようだ。足が早く、運動神経抜群だったA少年は、高校では運動部に所属したわけではないが、趣味も多彩で陽気なキャラクターだった。「Aくんはほかにも、ロードバイクっていうんですかね、スピードの出る自転車が趣味で、週に一度はサイクリングに行っていました。家族の話はあまりしないのですが、別に避けてるというわけではなかった気がします。高校時代は里親のところに住んでいました。僕も遊びに行ったことがありますが、普通の一軒家でAくんもさらっとした感じで「里親なんだ」と言っていました。小学校の頃からAくんの家庭についてはなんとなく複雑だと知っていたので、特に僕も深くは聞きませんでした。僕らは放送部だけでなく、アルバイト先も一緒でした。1つ目はドラッグストアの倉庫でバイトし、2つ目はラーメン屋で、最後が洋服の倉庫で働いていました。高校3年間を通して、トータルで1年間近くはバイトしていたと思います。ゲームと自転車にもお金を使っていたので、そのためにバイトをしていたんじゃないですかね。夏休みには高校の同級生の家に一緒に泊まりにいったこともあります。彼は学校の近くのカラオケ店に他の同級生と行ってたりしたのも知ってます。とにかく『普通』だったので、事件の話を聞くとショックというか……」A少年が自衛隊を志すようになったのは、いつごろからだったのだろうか。小学校時代の親友が記憶を紐解く。「昔はよく一緒に遊びました。木に登ったり、ハチの巣つっついたりしていて、やんちゃな性格でしたよ。当時は鬼ごっこなどして遊びました。小学校5、6年のときが一番仲が良かったですね。Aくんはとても優しくて、自分が友達にからわれていたりすると『俺の親友だからやめてくれ』と言ってくれることもありました。自衛隊については、小学校5年生くらいのころに『カッコいい』と言っていたのを記憶してます。彼の家の庭にはBB弾も落ちていたので、エアガンも好きだったかもしれないです。撃ってるのは見たことないですけど」また、A容疑者の自宅は、殺風景だったという。
Aの実家(撮影・集英社オンライン)
「家のなかには物が何もなかった印象です。テレビも寝室に一台だけって感じでしたし。家はそんなにキレイじゃなかったですね。Aくんは中学に上がってからは特別支援学級のクラスになって、入学後もすぐに不登校になったのでその後はわかりません。不登校の理由はわかりませんが、もともと小学校のころも学校が好きというよりは面倒だなと思うタイプだったと思います」
小学校時代に「カッコいい」と憧れた自衛官を職業にまで絞り込んだのは、もう少し後のことだ。前出の高校時代の親友はその「憧れ」から入隊までの経緯を具体的に知っていた。「僕がAくんから自衛隊に入りたいという話を聞いたのは高1のころだったと思います。『寮生活をしてみたい』『家を出たい』というのが理由と言っていましたが、いずれにしてもかなり早い時期から自衛官を志望していたのは間違いありません。彼の誘いで高2か高3の頃に、岐阜県内の自衛隊基地の見学会に、僕も一緒に行きましたから。その後も自衛隊に行きたいという思いは強かったようで、入隊試験の冊子を見て熱心にメモをとる姿を見かけました。自衛隊で何かしたいというよりは『早く家を出て自立したい』という意味合いが強かったと思います」
小学生の頃のA容疑者(知人提供)
事件の報せは2人の親友にとって、心が張り裂けるような衝撃だった。「あまり抱え込むタイプではなかったと思うんですけどね。誰でもいいので友達に相談していればまた違ったと思います。誰でもいいんで頼ってほしかったです」(小学校時代の親友)3カ月前までほぼ毎日一緒に過ごしていた高校時代の親友にとって、今回の事件は信じがたい、まさに悪夢のような出来事だと言う。生々しさで迫ってくる。「未成年で犯人の名前の発表もなかったので、最初に『岐阜の自衛隊の事件を起こしたのはAくんらしい』と友人から聞きました。僕の知っている限り、Aくんは先生に怒られても、落ち込んだり反抗的な態度をとったりすることもありませんでした。学校で誰かと喧嘩したり揉めたりというのも聞いたことがありません。もちろん何かに悩むことはあったのでしょうが、そういう時は僕らに相談してくれていたと思います。だから考え込まないでいられた環境だったというか。でも、自衛隊に入って誰にも相談できる人がいなくなってしまったんじゃないかなと思っています。それこそ僕らに相談してほしかったです。彼はスマホも持っていましたし、LINEもやっていたのですが、ここ最近は連絡をとっていませんでした。会ったのは卒業式が最後です。そのときも普段通りに話して『また会おう』と言っていたんですけどね……」
事件現場となった日野基本射撃場(共同通信社)
自分のことをこんなに心配してくれる友達がいることをA容疑者は覚えているだろうか。18歳になった自衛官「候補生」が撃ったのはシューティングゲームでもBB弾でもなく、89式小銃の5.56ミリ弾だった。※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班