〈岐阜自衛官候補生・18歳写真入手〉6人きょうだいで育ち、幼少期に施設に預けられ、中学は不登校…「大人を信用しなかった」銃乱射少年Aの“複雑”な生い立ち

陸上自衛隊日野基本射撃場(岐阜市)で隊員2人が死亡、1人が重傷を負った事件で、岐阜県警が殺人未遂の現行犯で逮捕した自衛官候補生のA容疑者(18)が教官に叱られた腹いせで小銃を発砲したことがわかった。集英社オンラインは候補生のA容疑者の地元を総力取材。候補生が複雑な家庭環境で生まれ育ちながらも活発な少年時代を過ごし、たくさんの友人と関わりながら、自衛官への憧れを募らせていった過程も浮き彫りになった。
陸自は6月15日、被害者3人の氏名所属を公表した。ともに名古屋市の守山駐屯地に拠点を置く第35普通科連隊所属で、亡くなった2人は菊松安親1等陸曹(52)と八代航佑3等陸曹(25)。左太ももを撃たれた原悠介3等陸曹(25)は全治3カ月の重傷。訓練は14日午前8時ごろから候補生約70人と教官や隊員約50人が参加して始まり、同9時ごろから89式自動小銃の実弾射撃の「検定」を始めた直後、A容疑者が突然3人に向けて計4発を発砲した。最初に八代3曹のわき腹に1発、続いて菊松1曹の胸部に2発、原3曹を撃ったところで別の隊員に取り押さえられたという。県警は15日、容疑を殺人に切り替えて送検した。A容疑者は「教官に叱られた」などと供述しており、県警が陸自の警務隊とともに詳しい動機を調べている。
事件直後の日野基本射撃場(共同通信社)
衝撃の事件を起こしたA容疑者はこの春、岐阜県内の高校を卒業したばかり。同県南西部にある実家の一帯は、牛舎があったり田園が広がるのどかな田舎町だ。築年数の古い日本家屋が立ち並ぶ中でもA容疑者の実家は壁などの塗装がところどころ剥げているなど、手入れが行き届かずに老朽化が激しいように見える。雑草が伸び放題の庭には、壊れたイスなどが放置してあり、飼っているのか居ついたのか判然としない猫が数匹寝そべっていた。インターホンにも応答はなく人の気配は感じられないが、事件のあった14日夜には電気が灯っていたという。「Aくんは6人きょうだいの上から3番目のはず。一番上がお姉ちゃんで20代後半、あと、20代前半のお兄ちゃんと、高校生と中学生の弟がいて、一番下が妹さんだと思う。お父さんはトラックの運転手で、お母さんは結構若い印象だね。まだ子供がちっちゃい時に引っ越してきたから、ここに住んで10年から15年くらいになるんじゃないか。ただ、近所づきあいをしたくないのか、ゴミ清掃の集まりなんかにもまったく顔を出さないな。今何人が住んでるのかはわからないけど、子供がたくさんいるのは近所の人はみんな知っているよ。まだ男の子たちが小さいころは魚がいるってんで、兄弟で田んぼをのぞき込んだり、庭先でよく走り回ったりしていたよ」(近くの住民男性)
高校時代の容疑者A
A容疑者を小さいころから知る、同級生の母親はこう振り返った。「Aくんと息子は保育園と小学校が一緒でした。ただ、保育園にはAくんとすぐ下の弟さんが一緒に通っていたんですが、急に2人ともやめたんです。あのご一家はお子さんが多くてかなり生活が苦しくて、小さい子供たちは全員児童施設に預けたんだと聞きました。でもAくんが小学3年生になると戻ってきて、息子と同じ小学校に転入してきたんです。手当などが出るようになって、子供を育てる余裕ができたから施設から帰ってきたと聞きました。そういう過去もあってか、Aくんが先生や大人を毛嫌いしてるところは当時からあったようで、友達とは上手く接しても、先生とはよく言い合いをしたり揉めていたと聞いてました」A容疑者の「権威」に対する反発の萌芽が、小学生時代すでに見え隠れしていたようだ。級友たちにもそう感じるところはあった。小学校で同級生だったという男性が語る。
小学生の頃のA(知人提供)
Aは友達同士だと明るくて、たくさん話もするし、面白いいいヤツでした。運動部でもないのに運動神経バツグンでどんなスポーツもできるし、『小学生あるある』で足が速いからクラスでも人気者でした。でも友達とはケンカになることも全然なかったのに、先生とはしょっちゅう揉めていたんです。施設に預けられてたというのは聞いたことがあったので、大人を信用してない節があったように思います。先生の言うことを素直に聞かず、大人から見たら生意気な子供だったかもしれません。本当にいいやつだったので、事件のことでマスコミの方からAのことを尋ねられたときはショックを受けましたが、過去のそういった出来事を今思い返して、大人からの頭ごなしな指示や説教に耐えきれなくなった可能性はあるのかなと思ってしまいました」別の同級生の母親にとっても、A容疑者は思い出に残る子供だった。「Aくんは弟を連れてよく遊びにきましたよ。ウチの庭を駆けまわったり、屋根に登ったりするやんちゃな子でした。小学校5、6年生の頃はうちの子とよく遊んでいて、よく顔も見たのだけど、中学に上がってからは遊ばなくなったみたいですね。というよりもAくんは中学に入学してすぐに不登校になったんですよ。入学して1~2ヵ月で来なくなったみたいです」同級生の母親から見て、A容疑者の家庭環境はどう映ったのだろう。
Aの実家(撮影/集英社オンライン)
多少「複雑」とはいえ、側からは「一家」が大きな問題を抱えていたようには映らなかったようだ。A容疑者の母親がかつて働いていたコンビニエンスストアのオーナーにも、一家に対する負のイメージはなかった。「8年くらい前だけどウチのコンビニで母親が働いていたことはあるよ。父親は60代くらいで母親は40代だね。最初の出産は16歳のころだったという話をしているのを聞いたことがあるから、今、一番上の姉が20代後半くらいだと思うよ。まだ若いお母さんだよ。ウチで働き始めた当初は家にテレビもなかったみたいで、母親も携帯を持っていなかった。父親はトラック運転手だったし、そんなにお金がないということもないと思うんだけど、子供が6人もいれば普通に生活していてもお金がかかったのかもしれないね。子供を放置したりネグレクトをしたりなんて聞いたことないけど、6人もいたら目が行き届かないことはあったんじゃない。子供がそれだけいてアルバイトもしてたら時間足りないでしょ。子供が好きだからこそ6人もいるわけだし。うちでも『子供に買って帰る』と食料品を大量に買っていってたこともあったしね」
Aの小学校の卒業文集
たくさんのきょうだいとともに、活発な少年時代を送りながら、人知れず心の奥底に怒りのマグマを溜めていったA容疑者。自衛隊入隊の直前までをともに過ごした親友たちは今、何を思うのかー。♯3に続く#1はこちら※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班