中央線「昭和グルメ」を巡る 第188回 昔ながらのカレーとコーヒー「まつばや」(西荻窪)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、西荻窪の喫茶店「まつばや」をご紹介。

○これぞ、日本の喫茶店のカレー

西荻窪駅南口を出たら、そのまま南方向へ。駅を背にして直進するわけですが、神明通りと交差する「西荻南二丁目」交差点を越えて以後もひたすら進んでいくと、五日市街道の近くに以前ご紹介したことのある「玉川そば 本店」があります。

しかし今回のお目当ては、その少し手前。玉川そばと同じく右側に位置する「まつばや」という喫茶店です。僕の知る限り、もうかなり昔からこの地で営業を続けられているはず。

アイボリーの壁と格子窓を覆う緑、そして「まつばや」とだけ白く抜かれたココア色の日除け看板がいい感じ。

茶色いアルミサッシのドアもレトロ感を引き立てており、立て看板にはシンプルに「カレー & コーヒー まつばや」の表記のみ。

すべての要素がかわいらしく、いかにも昭和の喫茶店といった趣です。

でも当然のことながら、それは外観だけの話ではありません。足を踏み入れてみれば、眼前に広がるのはまさに昭和そのものの空間なのです。

店内は外観と同じアイボリーの壁と、こげ茶色の家具類で色調が統一されています。左側には、木目調のL字型カウンターを囲むように茶色いスツールが5脚。

厨房部分とカウンターとを仕切る部分にはアーチ状の柱のようなものがさりげなくあしらわれていたりもしていて、シンプルなようでなかなか手が込んでおります。

そして右側は、同じ色調のテーブル席が2卓。突き当たりの壁に下げられている、大きな木製のスプーンとフォークが、これまたおしゃれでかわいらしいですねえ。

ところで、ここでお昼となれば、やはり店頭の看板にもあるカレーライスをいただきたくなってしまいます。いや、改めてメニューを眺めてみると、ピラフとかナポリタン、豚生姜焼きなど意外と品数は多いんですよ。

でも個人的に、ここではカレーとコーヒーをいただきたくなるのです。

「ランチ・サービス」と書かれた手書きの木製プレートがかかっていることからもわかるとおり、お店としてもカレーを推してますしね。ってなわけで、カレーライスとアイスコーヒーをお願いしました。

店内にBGMはなく、入り口近くにあるテレビからはニュース番組が流れています。いい意味で生活に密着した喫茶店であるわけで、それもまた、こういうお店のあるべき姿だといえるのではないでしょうか?

などとわかったようなことをホザいていたら、やがてカレーライスが登場。

ここのカレーライスはね、「なんの変哲もない感じ」がとってもいいんですよ。逆にここでイマドキのカフェっぽいおしゃれぶったカレーがでてきたりしたらがっかりしちゃうのですが、もちろんそんなはずもなく、いたって普通の日本の喫茶店のカレー。

だから、いいのです。そこが、いいのです。こうであってほしいのです。

いただいてみれば、辛すぎず、さりとて甘くもなく、ちょうどいい爽やかな辛さ。

たっぷり入った柔らかな豚バラ肉もカレーとマッチしていて、とてもおいしい。

一緒についてきた福神漬けを加えてみれば、さらに味に変化が加わります。って、そんなの当たり前なんだけど、個人的に福神漬けにはあまり思い入れがなかっただけに、「あれ、福神漬けってこんなにおいしかったっけ?」などと感じたりもしたのでした。

つまり、カレーが福神漬けの味を引き立てているわけであり、それはそれでまた理想的な関係性だといえるのではないでしょうか(って、福神漬けだけでここまで話を引っぱるんですかい?)。

ぱっと見は少なめにも見えたのですが、実はボリューム的にも不足はなく、おなかいっぱいになれたのでした。

食べ終えたころ、絶妙なタイミングでアイスコーヒーが運ばれてきたのですが、グラスが昔ながらの手づくりっぽくてまた魅力的。その形状がひんやりとした質感を高めており、味のほうも昔の喫茶店で出てきたアイスコーヒーを彷彿させます。

なんだか、背伸びをして喫茶店通いをしていた中学生時代を思い出しちゃうなあ。

などと思っていたのですけれど、帰り際に伺ったところ、今年で46年目なのだとか。ってことは、まさに僕が中学生だったころにオープンしたということになりますねえ。

これからも、ずっとこのまま続いていってもらいたいものです。

●まつばや
住所: 東京都杉並区西荻南2-7-12
営業時間: 13:00~19:00
定休日: 水曜、木曜

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら