日野×三菱ふそう統合 日本のバスはどうなってしまうのか 細る需要 台頭する中国メーカー

日野と三菱ふそうの統合で、日本のバスはどうなるのでしょうか。需要が減少するなか、脱炭素化の動きを進めなければならないバス業界。その変化はすでに小型分野から起こってきています。
2023年5月31日に報道された日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合は、バスに関心を持つ人にとってそれなりの衝撃をもって受け取られたのではないでしょうか。筆者自身も、いよいよ欧州などで見られるようなグローバルなメーカー再編の波が日本にも来たかと、その後の報道を気にしていました。
日野×三菱ふそう統合 日本のバスはどうなってしまうのか 細る…の画像はこちら >>三菱ふそうの大型観光バス「エアロクイーン」(左)と日野の「セレガ」(画像:三菱ふそうトラック・バス/日野自動車)。
統合の本筋は、トヨタ自動車とダイムラートラックが提携・協業し、両社同じ割合で出資する持株会社を2024年12月までに新設した上で、ここが日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの資本を100%持つ形で、企業・ブランドとしては両社をそのまま残しつつ開発・調達・生産などを共通化していくというものです。
報道を通して見えてきたのは、“親同士”の思惑やメリットが大きく作用しているらしいということです。すなわちトヨタとダイムラーがカーボンニュートラルに向け、単独での開発では限界のある電動化・自動運転などの「CASE」技術や、水素分野で協力・強化し、CASE時代を生き抜くには規模が小さい日本の商用車事業を世界的に通用する規模に引き上げる狙いです。
特に車両重量があって高出力、長距離・長時間運転が求められるトラックでは、水素燃料の活用が現実的で、その分野で先行する2社が協働することで実用化に向けて世界に王手をかけられると見込まれます。また、日野と三菱ふそうがそれぞれ持つアジア市場で補完することによるスケールメリットもあると言います。
さて、こうしてみると明らかに、今回の経営統合の視野にあるのはあくまでトラックだということが見えてきます。カーボンニュートラルに向け、トラックは水素志向であるのに対し、バスはコスト面などからEVがトレンドとなりつつあります。
また、日本のバス車両は注文生産による緻密な仕様などが売りとなり、完成車の海外輸出はほとんどなく国内向けで生きてきました。そのせいもあり、各メーカーにとってバスは、生産台数、売り上げともにトラックの1割にも満たず、頼みの国内需要が拡大することはほぼ見込めません。
このため、バスにどれだけの開発コストをかけられるかという観点からすると、その部分にEUや国から一定の支援がある欧州などに比べると限界が明らかで、近年はバス専用のエンジン開発はなく、日野はトラック向けエンジンの1バージョン、三菱ふそうはすべてダイムラーベースのエンジンです。
そしてここ10数年の間にバス市場は急激に細り、2012年にUDトラックス(バス製造時は日産ディーゼル)がバス製造から撤退したのちは、1999年に協業を合意し2003年にボディ製造をジェイ・バスに統合した日野・いすゞと、2003年に三菱自動車から大型車部門を分社した三菱ふそうトラック・バスの2グループに集約されています。
さらにそれぞれが車種を整理していった結果、すでに中型・小型観光モデルはなくなり、中型路線バスと中型送迎タイプは日野・いすゞ、小型路線バスは日野、大型ワンステップ路線バスと前扉送迎タイプは三菱ふそうの一択となっています。
こうした状況下での日野と三菱ふそうの経営統合で、バスはどうなるのでしょうか。実はこれまでの報道で、バスについて触れた記事等はほとんどありません。
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日野といすゞに供給しているジェイ・バスの車両。大型路線バスの多くは宇都宮事業所で造られている(乗りものニュース編集部撮影)。
気になるのは今回の経営統合から外れているいすゞが、日野との協業をどう考えていくのかというところですが、いすゞにはトヨタの資本が5%入っており、今回のことでも、トヨタはいすゞとは今後も協業していくとしています。むしろ今回、日野はトヨタの資本が直接入らず連結子会社ではなくなることからも、関係性が変わるところであり、市場規模の小さいバスにおいて改めて別の道を歩む必然性はないように思われます。
そう考えると、バスに関してはあまり変わらないのではないかという観測も成り立ちます。
つまりこれまで通りジェイ・バスが製造する日野・いすゞのバスと、三菱ふそうバス製造が製造するふそうのバスが、それぞれの販売チャンネルで販売されるという形です。すでに競合が発生するのは大型ノンステップ路線バスと大型観光(高速)バスモデルだけなので、この分野は台数も多いから競合するのであって、経営統合の形の中でも、上手にしのぎを削りつつ両立できるのではないでしょうか。
今回のニュースを受けてバスの現場では、「ジェイ・バスが製造するふそう車が出るのではないか?」などと憶測が飛んでいますが、限られた市場の中で、たぶんそこまでの新たな仕掛けはされず、坦々と従来の手法が続く可能性の方が高いと考えられます。比較的乗用車の造り方に近いマイクロバスなどは、モデルや製造工場の集約は考えられるでしょう。
逆に筆者の個人的な思いとしては、需要があるのにモデルが消滅してバス事業者が困っている小型(7m・9m)観光バスや9m観光バス、送迎タイプなどのラインナップを新たな協業の中で再構築してほしいところです。
前述のようにバスの脱炭素化の動きとしては、EVが主流となりつつあります。現状、EVバスは国内で150台ほどになっていますが、うち120台ほどを占めるBYDを含め、数台の国産改造車を除き中国メーカーまたは中国車をベースに国内で商品化した車両です。
中国メーカーはエンジンを主力とした自動車メーカーではなく、バッテリーなどの電装メーカーがEVバスを製造しているのが特徴で、電動車の基礎部分のノウハウに長けたメーカーがつくるメリットと信頼性が受け入れられている面があります。日野と三菱ふそうの経営統合がEVバスにどのような新たな道を開くのかは未知数ですし、まだ中国製EVバスも第1号のデビューから8年程度で耐久性やコストなど不明確な部分も多々ありますが、今後もしばらくは中国メーカーのEVバスの分野での台頭は続きそうです。
今回の経営統合に微妙に絡む問題として、日野の排出ガス・燃費試験の不正の問題がありました。日野はこれによるトラック・バスの出荷停止などで3期連続最終赤字となり、信用をかなり失いました。親会社のトヨタも支えるのは限界との報道ですが、この間にシェアを大きく奪われた部分があるのも事実です。
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三菱ふそうバス製造が手掛けるマイクロバス「ローザ」(乗りものニュース編集部撮影)。
実は中国製EVバスの特に7m小型ノンステップバスが急速に増えたのには、日野一択の小型ノンステップバス「ポンチョ」が出荷できなくなったため、コミュニティバスの代替を控えていた自治体がこれを機に脱炭素へと、一気にEVへ流れた一面がありました。
かつて三菱ふそうも不正隠しで信用を失った時期がありますが、信用を取り戻すには大きな努力を必要とします。バス車両自体は一般消費者が選ぶものではないことが、危機感の欠如につながっているのかもしれませんが、新たな体制を機に、消費者(利用者・一般市民)と使用者(バス事業者)のニーズを見据えたバスづくりをしてほしいものです。