自練の寮40年、寮生たちの時代映す 昔→与論から要望、今→県外から旅気分 免許取得急ぐ人に人気

沖縄県糸満市の糸満自動車学校には40年以上前から寮がある。免許取得には通常2カ月程度かかるが、入寮で集中して講義を受けることで2~3週間に短縮でき、短期間で必要とする人に人気だ。ウミンチュ(漁師)同士の交流があった鹿児島県与論島民の希望で設置されたといい、沖縄ブームのころは関東地方から多くの大学生が利用した。通う寮生たちが時代を映している。(南部報道部・又吉健次)
同校は1958年、糸満自動車練習所として開校。教習指導員の上原義隆さん(60)によると寮は1980~81年ごろに設置されたといい、81年12月26日付本紙には「宿泊・託児所・送迎バス完備」の広告がある。
与論島在住の阿野和郎さん(65)は82年ごろ、寮の2段ベッドに寝泊まりして免許を取得した。「島には自動車学校がなく、糸満の魚市場も見たかった」と糸満自校を選んだ理由を語る。与論と糸満は年季奉公のイチマンウイなどで人の行き来があるため、糸満は親近感のある場所だという。
同校は年間2200~2300人が免許取得で通い寮生は400人ほど。2001年放送のドラマ「ちゅらさん」以降の沖縄ブームでは関東地方の大学生が夏休みに多く訪れ、9割は県外の利用者だったという。
現在、寮生の割合は県内と県外が半々。飲酒運転の厳罰化による免許取り消しなどで県内利用者が増えたことも一因とみられ、仕事を休んで入寮する人も少なくないという。寮生で千葉県

の高校3年生、星竣亮(しゅんすけ)さんは「免許を取るなら旅行も兼ねたかった。経費も千葉県で取得するのと変わらない」と沖縄行きを決断した。
兵庫県出身でブライダルカメラマンの松嶋璃奈さん(24)は、糸満市内の会社に就職が内定し、車社会の沖縄では免許が必要だからと入寮。「自校支給の食券があり周辺で食事し、お酒を飲めることも楽しい」と話す。市内のイベントに参加し、楽しむ人もいる。
地元の市民などほとんどの生徒は通学で取得する。糸満自校の玉城卓専務(44)は「寮は年間を通してほぼ満杯。通学者と寮生のバランスを見ながら運営していきたい」と話している。

県内3校が設置
県指定自動車学校協会の加盟校は21校があり、寮があるのは北丘(うるま市)、宮古、糸満の3校だ。
北丘は1998年ごろに寮を開設した。地元利用者だけでは生徒数が足りず「県外から呼び込もう」との狙いがあった。関東地方の大学生ら年間300~400人ほどが利用。コロナ禍以前は、寮生を美ら海水族館に案内し、海水浴にも連れて行った。宮古は地元高校生らの利用が増える繁忙期を避けて4~7月、9~11月に寮を開けている。
かつては今帰仁、名護、普天間、浦添(現・第二波之上)、壺川、馬天、三和(宮古島市)にも寮が存在した。だが、プライバシー重視で相部屋を嫌う風潮や、新型コロナ感染予防、施設の老朽化、地元高校生の優先対応などで廃止された。