〈京王線“ジョーカー”事件〉初公判が6月26日に開廷。「死刑になりたくて」「人を殺せなくて悔しい」と語った服部被告は何を供述するのか

2021年10月、乗客18人が重軽傷を負った京王線刺傷事件で殺人未遂や現住建造物等放火などの罪に問われている服部恭太被告(26)の裁判員裁判初公判が6月26日に開かれる。事件が起こったのは東京都調布市を走行中の京王線車内。服部被告は70代の男性の右胸をサバイバルナイフで刺したほか、車両を移動しながらライター用のオイルをまいて火をつけるなどした。公判では殺意の有無が争点になると言われているが、初公判前に、今一度事件のあらましを振り返る。
2021年10月31日のハロウィーンの夜、映画『バットマン』の悪役であるジョーカーの扮装をした服部恭太被告は新宿行きの京王線に調布駅から乗り込んだ。電車が発車するとすぐに座席に腰かけていた乗客の70代男性の顔に向かって殺虫剤を噴きかけ、右胸にサバイバルナイフを突き立てた。突如、始まった凶行に「ヤバイ」「助けて」「早く逃げろ」と車内では悲鳴や怒号が飛び交い、乗客はパニック状態に陥った。服部被告のいる車両から逃げ出そうと一斉に乗客が走り出す。車両の連結部分にはあっという間に人だかりができて通行するのもままならない状態になったという。当時、そのときの様子を乗客の男性はこう語っていた。
犯行を起こした直後に車内でたばこを吸う服部被告
「私は服部被告が乗り込んだ車両の後方車両にいたのですが、人だかりが襲いかかってくるようになだれ込んできました。その後ろに金髪の若い男性が威嚇するように刃物を振り回して歩いているのが見えましたが、最初は何がなんだかわかりませんでした。とっさに私も逃げ出しました」服部被告は車両を移動しながらライター用のオイルをまいて火を放った。炎が立ち上がり「ボンッ」と爆発音が響き、逃げ惑う乗客は混乱をきわめた。ほどなくして複数の非常通報装置が作動し電車は国領駅に緊急停車したが、ホームドアと列車のドアがずれて停車したため、隙間から線路への転落の危険性から乗務員がドアを開けなかった。身に迫る危険から逃れるため多くの乗客が列車の窓から脱出する事態となった。それをあざ笑うかのように服部被告はひとり車内で足を組んで座席に座り、タバコをくゆらせていた。のちにそのときの動画はSNS上に拡散され、緑のシャツと青いスーツを着た服部被告の姿は人々の記憶に深く焼きつけられた。
国領駅にかけつけた警察に逮捕された服部被告は「人をやっつけるジョーカーに憧れていた」と供述している。また、犯行動機については「仕事で失敗したことや、友人関係がうまくいかないことから死にたいと思った。人を2人以上殺して死刑になろうと思った」と語った。映画『ジョーカー』では社会的弱者だった主人公のアーサーが、勤めていた小児病棟をクビになり、悪のカリスマになるまでが描かれており、服部被告は自らの境遇と重ね合わせたのかもしれない。事件当時の服部被告の状況について社会部記者が語る。
ネットカフェ勤務時代の彼女とのツーショット(本人facebookより)
「服部被告は地元である福岡市の高校を卒業したのち、しばらくして福岡市のネットカフェに勤めだしました。そのときは彼女もいて、うまくいっていたようでした。ですが、彼女と破局し、ネットカフェで利用客を盗撮するトラブルを起こしてクビになっています。その後、いくつかの仕事を経て福岡市の大手携帯電話の関連会社のコールセンターに勤めるようになりました。コールセンターでは3年ほど働いていましたが、顧客からクレームを受け、会社から配置転換を打診されて自ら退職しました。退職を決めた直後に凶器のナイフを購入しており、このころから事件を起こすつもりだったと考えられます。退職後、地元を離れて神戸市へ行き、9月は名古屋市で過ごし、9月末に八王子市のビジネスホテルにたどり着きました。そして10月31日に事件を起こしました」当時「ジョーカー事件」は連日メディアを賑わせ、服部被告の地元である福岡市にも多くのマスコミが訪れ、取材が行われた。近隣商店の店主が当時のことを振り返る。
6月26日、東京地裁立川支部で初公判が開かれる
「10社以上だったかな。入れ替わり立ち代わりマスコミが取材にきたよ。当時も話したけど、服部くんは公団住宅で母親と妹と暮らしていたけど、事件のずいぶん前に引っ越していたから、よく知らないんだ。父親についても離婚しているのかどうかもわからない。中学までしか知らないけど、おとなしい普通の子という印象しかないな」
また、子供が服部被告と中学校時代の同級生だという母親はこう肩を落とした。「初公判ですか。もうすぐ2年経つんですね。どうしてあれだけおとなしかった子があんな残酷なことをしたのかわからないというのが率直な思いです。服部くんはみんなの輪に加わって誰かの冗談にいつもニコニコ笑っている印象で、成人式の写真でもみんなと一緒に笑顔を浮かべています。ニュースで見た電車で座っている服部くんは痩せすぎていて、雰囲気も印象も以前とは違いすぎて最初は誰かわかりませんでした。それくらい服部君とジョーカーが結びつきませんでした」
成人式のときの服部被告(知人提供)
どこにでもいるおとなしそうな青年が起こした事件は想像以上に大きな傷跡を残した。刃渡り約30㎝のナイフを右胸に刺された70代の男性は、一時は意識不明の重体で生死の境をさまよい、退院するまでに約1ヵ月かかり、退院後もリハビリに励んでいたという。放火によって充満した煙を吸い込んだ乗客や逃げる際に転倒した乗客など被害者の数は多い。また、電車に乗ると当時のことがフラッシュバックしてしまい、電車に乗れなくなるなど心に傷を負った乗客も多数いた。世間に大きな影響を残した“ジョーカー”事件の初公判がまもなく始まる。判決は7月31日の予定で、計12回の期日が指定されている。「人を殺せなくて悔しい」などと供述していた服部被告の口から何が語られるのか、注目が集まる。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班