強力だけど後始末が… 飛行機の「ドラッグシュート」廃れたワケ ただ逆の理由で今も重宝?

戦闘機などが着陸した際、機体後方に開く「ドラッグシュート」。アメリカ製の戦闘機では見かけなくなりつつありますが、実は意外なところで重宝されているとか。意外にも巨大な戦略爆撃機などでも使用されています。
航空自衛隊のF-2戦闘機や、退役したF-4EJ改「ファントムII」が着陸した時には、機体後部にパラシュートのようなものが開きます。これは「ドラッグシュート」、日本語では「制動傘」といいますが、近年アメリカを始めとした西側製の戦闘機では、あまり見かけない装備です。
しかしドラッグシュートには、緊急時に役立つ「裏ワザ」が存在します。開発試験の現場でしかほぼ使われない、特別なドラッグシュートもあります。
強力だけど後始末が… 飛行機の「ドラッグシュート」廃れたワケ…の画像はこちら >>ドラッグシュートを展開したロシア空軍のSu-35(画像:ロシア国防省)。
そもそもドラッグシュートは機体後方から展開し、着陸滑走の距離を短縮するための装備です。1950年代から1960年代の戦闘機に広く採用され、戦略爆撃機であるB-52にも、大きなドラッグシュートがついています。
その原理は、展開したパラシュートの抗力(ドラッグ)によって「後ろに引っ張る力」を発生させ、ブレーキを補助するものです。
引っ張る力は意外と強力で、もし着陸時に横風が吹いていたら、飛行機を滑走路から逸脱させてしまうほど。このためドラッグシュート搭載機には、一定以上の横風時(機種によって異なる)にはドラッグシュートを使わないようにと、マニュアルの注意事項に記載されています。
横風時に使えない点、そして使った際には回収が必須なほか、さらには整備して再装填する手間がかかることなどから、1970年代以降に登場した西側の戦闘機では、ドラッグシュートの採用例が減りました。
例外的に採用しているのは、航空自衛隊のF-2戦闘機のほか、冬季に滑走路が凍結してブレーキが効きにくくなるノルウェー仕様のF-35A戦闘機、ほかにはロシア製の戦闘機や爆撃機くらいでしょう。
実用機としては採用例が減ってしまったドラッグシュートですが、展開すると「機体を後ろから引っ張る」という特性から、飛行機の開発試験現場ではまだ現役なのだとか。試験飛行中の緊急事態用に重宝されています。
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ドラッグシュートを展開したF-4EJ改(咲村珠樹撮影)。
飛行機、特に激しく機動飛行する戦闘機の場合、操縦操作によってはスピン(きりもみ)状態に陥ってしまうことも。このため、開発段階では飛行特性を調べる目的で、どのような操作をするとスピン状態に入ってしまうのか、またどうしたら脱出できるのかを確認すべく、あえて「スピン試験」というものが実施されています。
パイロットの操縦によって回復可能なスピンであればまだいいのですが、操縦不能になってしまうと墜落につながります。この時、ドラッグシュートを展開すると「機体を後ろに引っ張る力」が発生し、姿勢が変化することによって、スピンから回復させるチャンスが生まれるのです。
スピン試験のため、特別に装着されるドラッグシュートは「スピンシュート」と呼ばれています。こういった用途を鑑みると、ドラッグシュートは着陸時には使われなくなっても、同じ原理で飛行中の緊急事態から脱出できる装備として、まだまだ役に立ってくれるでしょう。