財政審でサ高住の囲い込みが改めて問題視。その実態とは?

5月29日、予算編成などを検討する財務省の審議会が、政府への提言をまとめて財務大臣に提出しましたが、その中には介護分野に関する問題提起も含まれていました。
その介護分野で示された問題の一つが、「囲い込み」と呼ばれるサ高住(サービス付き高齢者向け住宅の略称)における介護保険サービスの提供体制のあり方です。要介護認定を受けた入居者に対して、画一的なケアプラン、過剰なサービス提供など問題のあるケースが多々見つかっていると指摘。対策を講じるべきとしています。
そしてその対策として提示されているのが、「同一建物減算」の強化です。同一建物減算とは、介護事業者が同一の建物または敷地内で生活する利用者にサービスを提供する場合、あるいは特定の集合住宅で生活する利用者に集中してサービスを提供する場合、介護報酬を安くする制度のこと。これまですでに訪問介護、通所介護のサービスで導入されています。
今回の財政審の提言では、この同一建物減算を居宅介護支援にも適用し、既存の訪問介護、通所介護の減算度をさらに高めるべきとの内容となっています。
これまでも問題視されてきた囲い込みですが、2024年度の介護報酬改定においても、注目すべきポイントとなりそうです。
サ高住における囲い込みとは、サ高住に併設(もしくは敷地内に立地)する介護事業者が、入居者に対して「区分支給限度額」のギリギリまでサービス利用を求め、多くの介護報酬を得る行為のことです。
この場合、サ高住に併設する事業者とサ高住の運営元は、同じ系列の企業であるのが通例です。サ高住に入居する利用者に対し、必要以上に介護サービスを利用させるようなケアプランを作成し、系列グループ全体として多くの利益を得ようとするわけです。
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区分支給限度額とは、要介護認定の段階ごとに定められ、「この金額分までのサービス利用については、介護保険適用になりますよ」という限度額のことです。
特別養護老人ホームなど介護保険施設の場合、月額定額の施設サービス費の負担です。また、介護付き有料老人ホームであれば月額定額の「特定施設入居者生活介護」のサービス費を負担します。そのため、これら介護費用が毎月同じになる施設の場合、区分支給限度額などを気にせずに介護サービスを利用可能です。
一方、サ高住の場合、特定施設入居者生活介護の提供施設として指定を受けている場合は別ですが、そうではない一般的なサ高住であれば、介護サービスの利用は在宅介護の場合と同じです。つまり、在宅者向けの訪問介護や通所介護などの介護サービスを利用した分だけ、自己負担額(1~3割)を支払います。その際に適用されるのが、先に挙げた「区分支給限度額」です。
そして囲い込みでは、サ高住の入居者に対して、区分支給限度額ギリギリまでサービス利用をさせようとします。
例えば、要介護1で自己負担1割の入居者であれば、区分支給限度額は月あたり1万6,765円です。その金額分までは1割負担で利用でき、それ以上になると10割負担となってしまうわけですが、囲い込みでは「必要がなくても1万6,765円ギリギリまで介護サービスを利用してもらう」という形にして、少しでも事業者が多くの利益を得ようとするわけです。
不必要なサービス利用を求めるわけですから、入居者は無駄に費用負担をしていることになります。
では、サ高住において囲い込みがどのくらい行われているのか、その実態を見てみましょう。
厚生労働省の委託により日本総研が実施した『サービス付き高齢者向け住宅等における適正なケアプラン作成に向けた調査研究』ではサ高住に対するアンケート調査(n=336)が行われています。その中に、「利用者本位のケアマネジメントが行われているか」との質問が行われていて、それに対して「あまり実践されていない」「まったく実践されていない」と回答したサ高住の割合は約35%に上っていました。
利用者本位のケアマネジメントではないということは、事業所側・施設側都合によるケアマネジメントが行われている、ということです。この点、利用者本位を旨とする介護保険法の理念にまったく合致しない行為であるといえます。
さらにケアマネジメント・ケアプラン作成において問題となり得ることを問う質問(複数回答)では、「画一的なものになっている」が40.2%、「限度額いっぱいまで設定したケアプランが多い」が37.2%、「利用者にとって必要な介護保険サービスをケアプランに位置付けるのが難しくなる場合がある」が31.8%の回答割合でした。これらの調査結果からは、4割近いサ高住が、いわゆる「囲い込み」行為を行っている実態が明らかにされています。
もともとサ高住は2011年施行の高齢者住まい法によって導入が開始され、その設立目的は、自宅での生活に不安を感じているある程度自力で生活できる地域在住の高齢者に、安否確認・生活相談のサービスを備えた安心・安全の住まいを提供することにありました。
この設立目的の通り、本来は自立~軽度者向けの施設です。軽度者であっても要介護認定を受けている場合は、介護保険サービスの提供が必要となります。そのため、契約およびサービス利用がしやすいとの理由から、同一建物内に同系列の訪問介護・通所介護の事業所を併設することが、業界内で一般的となっていきました。
しかし、軽度の要介護者への介護サービスでは、併設事業所は介護報酬を多くは望めません。介護報酬は、重度者向けのサービスが高報酬になる傾向があるからです。サ高住に併設された介護事業者は、利用者に軽度者が多いと、そのままでは介護報酬がそれほど得られない経営難の状況にも陥ります。
そうした状況の中で囲い込み行為をすることで、軽度者に不必要なほど介護サービスを利用してもらい、より多くの介護報酬を得ようとするわけです。このようなある種の構造的な要因により、サ高住を運営する企業・法人に、囲い込みをする動機を生じさせている面があります。
サ高住で囲い込みが発生しやすい要因の一つとして、自治体による実態把握が難しいという状況も指摘されています。
囲い込みに対しては、厚生労働省も十分に問題視しており、これまで同一建物減算をはじめ、囲い込み行為を見つけ出すための取り組みに注力してきました。2021年には介護の利用記録を解析して問題のあるケースを特定し、自治体の立ち入り調査や是正指導などにつなげる仕組みも導入しています。
ところが、実際に現場で実態把握をしようとすると、スムーズに作業が進まない事態が起こりやすいです。例えば、同一法人がサ高住と訪問介護・通所介護などを併設しているとき、自治体が実態を把握しようとしても、「利用者に勧めただけで、強要していない」と回答されると、それ以上は追求できない面があります。また、入居者自身からの強い不満も出ていなければ、踏み込んだ囲いこみの実態把握が難しい面もあるでしょう。
また、サ高住によっては、囲い込みによる入居者からの不満を無くすために、併設事業所の介護サービスを多く利用すれば、家賃を引き下げるという料金設定を導入しているケースもあります。つまり現行制度では抜け穴が多く、囲い込みを実現できる仕組みを施設側が作りやすいのです。
今回、財政審の提言による「同一建物減算」による囲い込み対策は、「報酬」の面から行為を抑制しようとする試みと言えます。「囲い込みをしても介護報酬は低い」という形で、止めるように促すという方法です。
しかし、各種介護サービス事業所を併設しているからといって、悪質な過剰サービス提供をしているとは限りません。むしろ良質な運営をしているホームの方が多いでしょう。併設していること=囲い込みではないわけです。同一建物内に介護事業所が併設していることには、端的に利用者にとってもメリットは多いです。契約しやすく、通所介護であれば送迎車による移動負担が発生しません。
同一建物減算による対策は、そうした健全運営をしているホームにもマイナスの影響が発生する恐れもあります。「利用者に過剰なサービス利用を要求しない」「画一的なケアプランを作成しないようにしてもらう」ということに、より適切に的を絞れる施策が必要ではないでしょうか。
今回は財政審が提言した、いわゆる「囲い込み」の問題について考えてきました。この提言を受け、2024年度の介護報酬改定に向けて具体的にどのような議論が重ねられていくのか、引き続き注目していきたいです。