「40歳過ぎて自分の家がない」ギャンブル依存・借金・離婚を経験した六角精児、60歳になって痛感したことは?


「離婚して、借金しかなくて、住む家もない時があった。それが40歳過ぎくらいかな。振り返れば、一番苦しかったのはその時かもしれないですね。そんな時期を乗り越えて、今でもこうして俳優として活動できているのは、周りの人の支えが大きかったと思います」

そう話すのは、人気ドラマ『相棒』シリーズでの好演が印象的だった俳優の六角精児さん。ドラマや映画で多彩な役を演じる名バイプレイヤーなだけでなく、ラジオパーソナリティやミュージシャンとしても活躍しており、昨年6月には還暦を迎えました。

プライベートでは、ギャンブル依存による多額の借金や三度の離婚など、傍から見ればその人生は波乱万丈。しかし本人は微笑みながら「自分ではあんまり波乱万丈だと思ってないんだけどね」と、言ってのけます。

50歳を過ぎると、自分自身の健康や仕事、家庭問題、子どもの教育や親の介護など、この先の生活が漠然と不安になる人も少なくないはず。そんな人たちにぜひ読んでほしいのが、6月1日に発売された『六角精児の無理しない生き方』(主婦の友社刊)です。

六角さんは「人生は無駄な時間こそ大切」だと言います。その言葉の真意や、これまでに訪れた危機、今現在生きづらさを感じている人へ贈りたいメッセージなどを聞いてきました。
■ギャンブルにのめり込むきっかけ

パチンコ、パチスロをはじめとした公営ギャンブルが好きで、自身のことを”ギャンブル依存症”なのだと話す。振り返れば、その原点は小学校に上がる前に駄菓子屋さんでやったくじ引きや10円のガチャガチャ。

「当時から、そういうものが好きだったんです。未知数のものをお金で買って楽しむことが。ドキドキ感っていうのかな。依存症になる人とならない人がいると思うんだけど、自分の場合はなる人だった。ただ、仕事をほっぽりだしてまでのめり込むような重度ではないですよ。そこが僕の何よりの救いだったと思いますね。

この依存症は完全に治ることはないと思っていて、ひたすら”今日も1日(ギャンブルを)やらなかった”ことを積み重ねていくしかない。だから、仕事があって忙しくしているのがいいんですよね。働けばお金になるし、ギャンブルをやらなければお金は減らない。一石二鳥でしょ」

ギャンブル好きな理由を著書の中では「ヒリヒリ感が好き」だからだと語っているが、

「勝てばもちろん嬉しいんだけど、今となっては勝ち負けはどうでもいいんです。それにギャンブルって、結局は負けるから(笑)。昔は、”あそこでやめとけば良かった”ってよく思っていたけど、そんなことを考えても無駄なんだよね」
■人生は無駄な時間こそが大切

「人生は無駄な時間こそが大切なんだ」──これはさまざまな経験を積んだ六角さんが得た気づき。ようやく過去を振り返ることのできる年齢になったのだと言う。

「20代の頃は、劇団でお芝居をやっていた。30代は、誰にも必要とされないままずっとパチンコを打ちながら生きてきた。そんな中で出会ったのは、普通に働いていたら出会えなかった人たちばかりだったんです。例えば、競輪場の旅打ちで会った人とか。社会的には無駄かもしれないけど、自分の人生としては無駄じゃない。

無駄な時間こそが大切なんだって言葉は、その無駄なりに何かを得られてるはずってこと。その時の気持ちとか、出会った人の個性とか。この歳になって、そういうものを痛感するようになったんです」

冒頭で話した一番苦しかったと振り返る時期は、なんと主演映画、相棒シリーズ『鑑識・米沢守の事件簿』が公開された頃だそう。

「40歳過ぎて自分の家がないって、辛いですよ。その時は飲み屋のマスターの家に居候していましたから。家賃は払っていたけど、自分名義の家がない状態。借金を返しながら、その『鑑識・米沢守の事件簿』の映画の舞台挨拶に行ってました。映画の主演やってるのに自分の家がない奴って、あんまりいないでしょうね(笑)」

そんなギリギリとも言える生活すら無駄じゃなかったと話せるのを、すごく羨ましいとすら感じさせる六角さん。出会ってきた人たちに支えてもらえるのも、彼の人柄なのだと思う。著書では、自身のことを「用心深い楽観」と表現していたのも印象的だった。

「”なんとかなるだろう、自分のやってることなんだからしょうがねえ”そう思うタイプだけど、実はそんなに世の中を信用してなかったりもする。世の中は甘いもんじゃないし、最悪なことも絶対あるだろうってことを、どこか頭の中に入れながら楽観的に過ごしているんです。

僕が言う『明日どうなってもいいや』って言葉の中には、明日どうなってもよくないって気持ちも存在している。自分に失うものなんかないって言っても、やっぱり失うものはあるんですよ」


■夫婦円満の秘訣とは

プライベートでは三度の離婚、そして四度の結婚。今の奥さまは、二度目に結婚と離婚を経験した、再婚相手。約25年前に「劇団扉座」の劇団員と研究生として出会った二人だが、本の中で奥さまは、六角さんのことを「とにかく話していて面白い」「小学生みたいに無邪気で可愛い」と言う。

「僕から見たら、奥さんは中学生みたいで可愛いですよ(笑)。あんまり感情を出さないし、言葉も多くない。どういうことを考えているか、分かりにくいんですよ。非常に奥ゆかしい人なんでしょうね。世の中ではそういう人が損をしがちだけど、何年かちゃんと付き合ったり一緒に暮らしてみると、良さが分かってくるんです。

そういう人と結婚して、思いを知り得たことは僕としてはうれしい。長く付き合ってこそ素晴らしさが分かる人なんですよね」

恥ずかしがることなく、淡々と奥さまのことを話す姿が素敵だった。離婚を経て再婚した六角さんだからこそ考える、夫婦円満の秘訣とは?

「お互いに気を遣うことと、あんまり相手に多くを望まないことですね。夫婦といえども他人だから、自分の思うことだけを主張してはいけないし、主張しすぎないのもいけない。別の人間が生活しているってことを頭の中に入れながら過ごしてます。相手のいいところと悪いところを知っていき、差し引きした時に、少しでもプラスが残る関係だったら、それでいいんじゃないかな。

プラスばっかり残るっていうのは、人間としてあり得ないと思うしどこか無理がある。最終的にプラスがほんのちょっとっていうのが理想。すごいプラスなんだったら、相手が我慢している可能性もあるからね」
展望なんてものはない
これから先の俳優人生についても尋ねてみた。

「展望なんてものはないです。これをしないかと誘われて、自分ができそうなものだったらできる限りやりたいとは思ってるくらい。あとは、大好きな音楽かな。ちょっとずつ音楽活動を全国展開できたらいいなって。地方のライブハウスを回ったりできたらうれしいですね。

これから先、何かを望んだりとかっていうこともない。この本だって、『出しませんか? 読みたいと思う人はきっといます』って言われたから、じゃあ出してみようかって思ったんだもの(笑)」

飾ることなく、等身大の言葉で答えてくれる六角さんから、最後に読者へ向けてメッセージをもらった。

「一生懸命に働いてらっしゃる方は、今以上にリラックスできる時間をとってください。自分を楽に置ける時間を今以上に見つけられたら、よりしぶとく生きられるんじゃないかなって思うから。僕の場合は、ギャンブルとお酒と旅。いろんなリラックスがあるんですよ。

僕は歳をとるのがけっこう楽しみだけど、嫌だっていう人も多いかもしれない。自分なりの楽しく生きる方法を見つけていけば面白くなるだろうし、死ぬのも怖くなくなるんじゃないですかね。まぁ、分かんないですけど(笑)」
○六角精児の無理しない生き方(1,430円/主婦の友社)

(撮影/曳野 若菜)

高橋もも子 たかはしももこ 雑誌編集部、WEB編集部勤務を経てフリーランスのライターに。エンタメ系のインタビューを中心に、生活に関する時事ネタや単発企画など多ジャンルで執筆中。芸能人の顔と名前を覚えるのが得意です。 Twitter:@m152cm_ この著者の記事一覧はこちら