「いずも」が旅に出る理由 インド太平洋への展開で見せる日本の“姿勢” 注目度は実際高い?

海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が今年もインド太平洋地域に展開しています。他でもない海自の虎の子、いずも型が毎年のように同地域へ長期展開するのはなぜでしょうか。今年はさらに“歴史の皮肉”も起こりました。
2023年6月20日、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が、ベトナム中南部のカムラン湾に寄港しました。
「いずも」のカムラン湾への寄港は2019年6月以来、4年ぶり2度目のことで、23日までの寄港期間中、ベトナム海軍との意見交換などを行っています。これは「令和5年度インド太平洋方面派遣」の一環です。
「いずも」が旅に出る理由 インド太平洋への展開で見せる日本の…の画像はこちら >>SH-60Kヘリコプターを載せた「いずも」(画像:海上自衛隊)。
海上自衛隊のインド太平洋方面派遣は、故安倍晋三氏が首相在任時に提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」の理念を実現するため、2018(平成30)年から毎年行われています。
派遣部隊は数か月間、インド太平洋地域に展開します。同盟国であるアメリカや、同志国のオーストラリアなどの海軍との共同訓練のほか、地域の各国の海軍・国境警備隊などとの意見交換や友好親善訓練を行い、海上自衛隊の技量の向上と、各国海軍等との相互理解の増進、信頼関係の強化及び連携の強化を図り、地域の平和と安定に寄与する事を目的としています。
今年度のインド太平洋派遣で「いずも」は、護衛艦「さみだれ」「しらぬい」、艦載機のSH-60K 4機と共に第一水上部隊を編成して、4月から9月までの約5か月間、インド太平洋地域に展開中です。
このインド太平洋方面派遣の前身である、2017年の護衛艦「いずも」「さざなみ」の長期行動も含めれば、海上自衛隊は6年連続で「いずも」と姉妹艦の「かが」からなる、海上自衛隊にとって虎の子と言うべきいずも型ヘリコプター搭載護衛艦を派遣しています。
他でもなくいずも型ヘリコプター搭載護衛艦が、6年連続で日本の近海を離れてインド太平洋方面に長期展開する理由。それは、インド太平洋方面の国々に、日本がこの地域を重視し、地域の安定に責任を負う事を示すためであると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
日本政府は2018年12月、必要に応じて航空自衛隊のF-35B戦闘機をいずも型に搭載することを決定し、いずも型を「空母」とするための改修作業を進めています。
2019年のインド太平洋派遣訓練に参加した「いずも」は、同年5月にシンガポールで開催された海洋防衛装備展示会「IMDEX ASIA 2019」で一般公開されました。筆者はこの取材を行いましたが、約半年前に空母化が発表された事もあって、参加者の「いずも」に対する注目度は高かったように記憶しています。
IMDEX ASIA2019にはベトナム海軍のゲパルト級フリゲートとその乗員の方々も参加していましたが、「いずも」の艦内見学をしていたようです。日本の「将来空母」として、その艦名はインド太平洋地域に一定の知名度を有しているからこそ、毎年のように展開し、日本の姿勢を体現しているともいえます。
今回の「いずも」のカムラン湾寄港から2日後の6月25日、アメリカ海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」も、ベトナム中部のダナンに寄港しています。アメリカのラーム・エマニュエル駐日大使は両艦のベトナム寄港について、自身の公式ツイッターで「(両艦が)相次いでベトナムを訪問したことは海上安全保障協力に関する歴史的なこと」だと述べました。
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シンガポールで開催されたIMDEX ASIA2019で一般公開された「いずも」(竹内 修撮影)。
もちろん念頭にあるのは中国です。中国は南シナ海にある南沙諸島の領有権を主張していますが、ベトナムも同様の主張をしており、南沙諸島の岩礁を埋め立てて軍事基地を建設している中国に対して神経を尖らせ、中国の力、すなわち軍事力を背景とする現状の変更を容認しない姿勢を明確にしています。
ベトナムは中国の支援を得てベトナム戦争に勝利しましたが、そのときの敵国だったアメリカの原子力空母と、ベトナム戦争で事実上アメリカを支援した日本の「将来空母」である「いずも」の寄港を受け入れ、日米両国などと結束して、中国の力による現状の変更を容認しない姿勢をいっそう明確にしたのです。これは歴史の皮肉のようにも、エマニュエル大使が言う「海上安全保障協力に関する歴史的なこと」だとも、筆者には思えます。