「車は必要ない」と考えていた人であっても、結婚を機に「……やっぱり車はあったほうがいいのかも?」と思い始めることはあるでしょう。しかし、買うとしても“どんな車”を“いくらぐらい”で入手するのが正解なのかがわからない――というビギナーも多いはず。そこで、自身も2回の(笑)結婚経験を持つ中古車評論家の伊達軍曹さんに、「結婚が決まったら買うべき車」について聞いてみました。
○「家庭を築く」となれば…
内閣府が2022年6月に発表した「男女共同参画白書 令和4年版」によれば、20代男性の約7割が「恋人なし」であり、20代独身男性の約4割は「デート経験もなし」とのことではあるが、それはそれとして、近々ご結婚される予定の方もいらっしゃるだろう。おめでとうございます。
そして、結婚するすなわち家庭を築くとなれば、この20年間で10代・20代の運転免許保有者数が650万人以上減っている時代にあっても、やはり「家に車はあったほうがいいかも」と考えはじめた人も多いはずだ。
では、「結婚することになりました」という男性または女性が近々買うべきなのは、果たしてどんな車種なのだろうか?
遺憾ながら2回の結婚経験を持つ自動車ライターである筆者が、ズバリご提案申し上げたい。
○結婚を控えた人が車選びで重視すべきポイントは7つある
結婚を機にどんな車を買おうがご自由であるのは当然だが、経験者(しかも2回)として言わせていただくなら、結婚前から後にかけての2~3年間は、とにかく出費が多い。お札に羽根が生えたかのごとく、家の中からお金が消えていく。
であるならば、「結婚したらキラキラした輸入SUVを買って、子どもが生まれるまでは2人でキラキラアーバンライフを楽しみたい!」などというのは夢物語でしかない。結婚生活においては車以前にお金をかけるべき分野があまりにも多いため、よほど高収入ダブルインカムのパワーカップルでもない限り、「支払総額100万円ぐらいまで」をおおむねの目安とするべきだろう。
また結婚生活というのは決してキラキラしたものではなく――いやキラキラしている部分もなくはないのだが、基本的には「雑事の積み重ね」である。日々の米や醤油を買い、役所へ行って諸手続きを行い、IKEAなどで組み立て式の家具を買い、それを組み立てる。そしてまた米と醤油、味噌などを買いに行く。寝る。起きる……といった繰り返しこそが、言ってみれば結婚生活の実像である。
そうであるならば、車はやはり「キラキラした輸入SUVや輸入オープンカー!」などではなく、以下のような日々のニーズに確実に応えるものでなければならない。
ある程度モノが載せられる。
想定外の早さで第一子が爆誕したとしても、その子を乗せることができる。
燃費がいい。というか、少なくとも悪くはない。
あんまり壊れない。
つまり結婚を機に買うべき車とは、「総額100万円ぐらいまでの中古車で、人と荷物がそれなりに載せられる、低燃費であんまり壊れない車種」ということだ。
だが人間の暮らしには「勢い」というか「潤い」というか、そういった要素も当然ながら必要ではある。そのため前述の条件に加えて下記の2条件も、ある程度はクリアする必要があるだろう。
デザイン的にいい感じである。
運転自体が楽しい(少なくとも苦痛ではない)。
……次章以降、こういった諸条件にばっちり合いそうな3車種をご紹介する。
○おすすめ1:現行型ホンダN-WGN – これはもう本気で素晴らしい実用車!
現行型ホンダ「N-WGN」は、2019年8月に発売された軽トールワゴン。現在、軽自動車で一番人気となっているのは、かなり背が高いボディにスライドドアを付けた「軽スーパーハイトワゴン」というカテゴリーだが、N-WGNが属する軽トールワゴンは、そこまで極端に背が高くはなく、後席のドアも、スライド式ではなくヒンジ式(ちょうつがいでパタンと開くタイプ)が採用されている。
で、キラキラしているはずの新婚生活に向けて、いきなり「軽自動車」がおすすめとして登場したことでテンションが下がっている方もいるかもしれないが、まあ話を聞いてほしい。
ちょっと前の軽自動車と違って「最新世代の車台」を採用し、なおかつ一番人気である軽スーパーハイトワゴンと違って中古車価格もそこまで高くない現行型ホンダN-WGNは、けっこう本気で素晴らしい実用車なのだ。
まずは、筆者が挙げた条件のひとつである「ある程度モノが載せられる」には完全に合致する。
軽自動車なので「超絶バカでかいモノ」はさすがに積載できないが、「けっこうデカいモノ」であれば、後席をたたんでしまえば余裕で収容可能だ。車の後席というのは、実は人を乗せる機会が少なかったりもするので、たたんでしまっても大勢に影響はないことが多い。たたまないとしても、現行型N-WGNの荷室の「2段ラックモード」は死ぬほど使い勝手良好だ。
そして「想定外の早さで第一子が爆誕したとしても、その子を乗せることができる」という条件もクリアする車であり、燃費もまずまず良好。中間グレードである「L」のFF車はカタログ燃費23.2km/Lであり、ハイブリッド車ほど良好なわけではないが、まあ普通に十分と言っていいだろう。そしてもちろん、新しい世代の国産車なので「あんまり壊れない」という条件にも完全に合致する。
さらには内外装デザインも意外と気が利いているというか、センスと質感が(軽自動車の割には)良好であり、前述した新世代の車台により、走行フィールも非常によろしい。実際に運転してみれば「軽自動車離れした安定感と剛性感」みたいなものを、誰もが感じるはずだ。
それでいて中古車価格は、走行1万km台までの個体であっても支払総額80万~100万円ぐらいのゾーンで収めることが可能。……結婚を機にとりあえず買う車としては、これ以上のモノはなかなかないだろう。
○おすすめ2:先代スズキ ソリオ – デザインはさておき実用性と走行性能は抜群!
筆者は軽自動車というものに大して何ら抵抗感がないのだが、なかには「軽はちょっと……」というカップルもいらっしゃるはず。まぁ気持ちはわからなくもない。
そんな場合に選びたいのは先代のスズキ「ソリオ」だ。
3代目にあたる先代ソリオは、2015年に「そこそこ背が高い普通車のコンパクトカー」という新ジャンルを発明し、スマッシュヒットを記録した一台。その新ジャンルに後乗りする形でトヨタから「ルーミー」という類似車が登場し、売れ行きはぶっちゃけルーミーのほうが上なのだが、車としての出来がいいのは断然ソリオである(と、筆者は思っている)。
2列5人乗りのシートを備える先代ソリオのボディは全長3,710mm×全幅1,625mm×全高1,745mmとコンパクトだが、車内は十分に広く、積載性もまずまず。そして燃費も大いに良好だ。もっともベーシックな「G」というグレード以外にはマイルドハイブリッド機構が採用されており、それによって「27.8km/L」というなかなかのJC08モード燃費をマークする。
正直「デザイン的にいい感じである」という部分において若干弱いのだが、まぁ実用性の高さと走行フィールの良さはずば抜けているため、「比較的低走行な物件も総額80万~100万円ぐらいで買える」という安さに免じて、そこは不問としたい。
○おすすめ3:先代フォルクスワーゲン ゴルフ – 実用性と走行性能、そしておしゃれ感が見事に調和している!
結婚生活の相棒としての車には「実用性」や「経済性」を求めなければならないことは言うまでもない。だが本稿の最初のほうで申し上げたとおり、人生では「勢い」や「潤い」のようなものも同時に重要であるため、軽自動車であるN-WGNや、いかにも実用車然としたソリオには今ひとつ引かれない……という方もいらっしゃるはずだ。
そんな場合には、先代のフォルクスワーゲン「ゴルフ」(通称ゴルフ7)をぜひ検討してほしい。
ご承知のとおりゴルフは「実用車の世界的な規範」とも言われているハッチバック車。その初代モデルは1974年に誕生し、現在は2021年6月に上陸した8代目が現行型新車として各地のディーラーで販売されている。
で、ここで提案する先代ゴルフ(ゴルフ7)は、2013年から2021年5月まで販売された7代目のゴルフである。やたらとスポーティーで強力なエンジンを搭載するグレードもラインナップされたが、基本となる普通のグレードが搭載するのは1.2Lまたは1.4Lの直噴ターボエンジン。排気量は小さめだが、普通にパワフルなエンジンである。またJC08モード燃費もおおむね19.9~21.0km/Lと、やたら良好なわけではないが、普通に良好である。
ボディサイズは全長4,265mm×全幅1,800mm×全高1,460mmとまずまずコンパクトであるため、デカいミニバンほど積載性に優れているわけではないが、5人乗車時でも荷室容量は380Lが確保されており、後席をたたんでしまえば最大1,270Lという、ちょっとした引っ越しにも使えるぐらいの(?)容量になる。若いご夫婦には十分といえる積載性および居住性だ。
そして「フォルクスワーゲン」という、ある種のブランド性みたいなモノも備わっていて、内外装デザインもまあまあ美しい。さらには「ゴルフならではのシュアな走り」みたいな部分も存分に堪能できるわけだが、それでいて中古車は、走行4万km台までの物件に絞ったとしても、総額80万~100万円付近のゾーンにて楽勝で見つけられる。「DSG」というトランスミッションの調子を崩していない個体であれば、かなりの満足感が期待できる選択肢だ。
このほかにも現行型「ミニ」の3ドアハッチバック(予算目安90万~120万円)やトヨタ「プロボックス バン」(同70万~90万円)あたりもおすすめしたい選択肢ではあるのだが、さすがにこの原稿も長くなった。「結婚後は車が家にあると、やっぱりなんだかかんだでウルトラ便利で快適ですよ!」ということを結婚2回の経験者として強く断言しつつ、今回の道場破りはおしまいとさせていただきたい。
伊達軍曹 だてぐんそう 1967年東京都出身。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、大手自動車メディア多数に記事を寄稿している。中古車選びの流派「伊達心眼流」の創始者(自称)。 この著者の記事一覧はこちら