中央線「昭和グルメ」を巡る 第191回 中野サンプラザを見上げるロケーション「中野満点食堂」(中野)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、中野の食堂「中野満点食堂」をご紹介。

○昔ながらの「お役所の食堂」を満喫できる場所

端的にいえば公共機関の食堂に”おしゃれ感”は不要であり、むしろ純然たる「食堂」であってほしい。それ以上は望まず、望みたくもない。

もちろん異論もございましょうが、個人的には強くそう感じているのです。

なぜなら、お役所の食堂には、そこにしかない魅力があるから。入り口でプラスチック製のトレイを受け取って、厨房のカウンターに食券を出して順番を待つ……みたいな感じの。

とくにおいしいわけでもないんですけど(失礼ですねえ)、味よりも”素っ気ない雰囲気”と、そこに身を置く”気分”が重要なんですよ。

なのに気がつけば、昔ながらの「お役所の食堂」は減ってしまっていたのです。もちろん中央線沿線も同じで、たとえば杉並区役所のようにカフェがその役割を代行している施設もあるしなー。

しかし、そもそもお役所の食堂にカフェ的なものは求めていないわけさ。

ところがそんな状況下にあって、しかも都心に近いロケーションでありながら、いまなおそんな「お役所の食堂らしさ」を残しているのが、今回ご紹介する「中野満点食堂」。先ごろ閉館してしまった中野サンプラザ横に位置する、中野区役所内の食堂です。

欲をいえば名称も「中野区役所食堂」とか、あるいはシンプル & ストレートに「食堂」だったらさらに理想的なんですけどねえ。とはいえ、ここが中央線沿線に残された数少ない昭和食堂のひとつであることは事実。

区役所の正面玄関を入ると、すぐ目の前に地味で小さな階段があり、壁に「中野満点食堂 上がって右へ→」という表示が出ています。

だから当然、上がってちょっと右に進めばそこに食堂があるんだろうと思うじゃないですか。

ところがどっこい。階段を上がるとそこには、「高齢者総合窓口」などがあるんですよ。だから戸惑ってしまうのですけれど、不安を抱えながらそのまま右へ進んでいけば、やがて「中野満点食堂」に行き着くのです。

おしゃれ感のようなものは皆無なのですが、それはむしろほめことば。お役所の食堂たるもの、やはりこうでなければいけないからです。

ちなみに僕はここを利用するとき、いつもおそばをいただいてたんですよ。食堂ならではの安っぽい(これもほめことばです)おそばが好きなもので。

だから他のメニューはあまり意識していなかったのですが、改めてチェックしてみれば、意外とバラエティ豊かで、よく考えられていますね。

たとえば、「一汁三菜定食」なんていうネーミングにも引かれるものがあるじゃないですか。

でも、ここはオーソドックスに、2種が用意された「日替わり定食」のAでいくことにしましょう。

この日のA定食は牛肉のオイスターソース炒め。「小鉢付き」と「小鉢なし」があるそうなので、前者を選びました。

トレーを持って食券を出して待っている間、背後の冷蔵ショーケースから小鉢をひとつチョイスするスタイル。

冷奴、納豆、ミニサラダの3種のなかから選んだのはミニサラダです。

全品が揃ったらトレーを持って移動し、中野サンプラザを見上げることのできる窓際の席へ。

テーブル席もたくさんあるんですけど、窓の外に三角形の建物がどどーんとそびえるロケーションが大好きなんですよ。

でも、もうすぐ取り壊されて、この景色も見られなくなっちゃうんだな。

さて、まずはミニサラダからいただきましょう。キャベツ、トマト、コーン、ワカメ、マカロニなどオールスター状態で、とっても食べごたえがあります。ミニとはいえ、なかなか量があるぞ。

メインの牛肉のオイスターソース炒めも牛肉、ピーマン、キャベツ、もやしなどたくさんの具材が入っており、食べごたえは文句なし。

濃い味つけなので、ごはんもどんどん進んでしまいます。

味噌汁の具は大根とわかめで、こちらも普通においしい。すべての料理にいえることでもあるのですが、この普通さこそ、お役所の食堂の魅力ですよ。

てなわけで、しっかり満足できたのでした。

あとね、すごく気持ちがよかったのは、スタッフの女性が大きな声で「いらっしゃいませ」「ありがとうございます。お気をつけて」とこまめに声がけしていたこと。

たまにそうしているのではなく、常に誰かしらに声をかけていたのですが、それってなかなかできることではないと思うんですよね。これはかなりの高得点だと思います。

●中野満点食堂
住所: 東京都中野区中野4-8-1 中野区役所2F
営業時間: 11:00~15:30
定休日: 土、日、祝

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら