生活苦にあえぐ72歳の女が、社会問題となっている「闇バイト」に応募し、同世代の女性相手に特殊詐欺未遂事件を起こしていた。
「還付金を取るために必要」とウソをつき、70代の女性からキャッシュカードをダマし取ろうとしたとして、静岡市葵区牧ケ谷の無職、吉村和美容疑者が10日、詐欺未遂の疑いで警視庁本富士署に逮捕された。
吉村容疑者はSNSで「日雇いアルバイト」と検索し、ネット上で募集していた「闇バイト」に応募。特殊詐欺の指示役とみられる男と知り合った。10日、詐欺グループの「かけ子」が東京都文京区の被害女性宅に「救済措置の還付金があり、その手続きをするためには古いキャッシュカードを新しいキャッシュカードに替える必要がある」とウソの電話をかけ、「受け子」の吉村容疑者が同日午後、女性宅を訪れた。
吉村容疑者は郵便局の委託業者に成り済まし、マンションのエントランスで女性宅のインターホンを鳴らした。被害女性は事前に、かけ子からの電話の内容を隣人に相談。隣人が110番し、駆け付けた本富士署員が吉村容疑者を現行犯逮捕した。調べに対し、吉村容疑者は「借金があった。生活費のためにやった」と話しているという。
吉村容疑者は男の指示に従い、事件の1週間ほど前に静岡から上京。男から指定された都内の公園の個室トイレに行き、ドアをノックし、個室の下の隙間から連絡用のスマホとイヤホン、モバイルバッテリーを受け取った。スマホには、あらかじめ匿名性の高い通信アプリ「シグナル」がインストールされていた。
■都内のマンガ喫茶を転々としながら…
「金のない吉村は上京後、約1週間にわたって都内のマンガ喫茶を転々としながら生活を続けていた。その間、指示役から渡されたスマホでキャッシュカードの受け取りや詐取金の引き出しを指示され、『受け子』だけでなく、『出し子』もするなど、複数の事件に関与していた。指示役は吉村が72歳と知った上で採用したかどうかは不明だが、吉村はシグナルを使いこなしていた」(捜査事情通)
警視庁によると、昨年1年間に特殊詐欺で摘発された793人のうち、10~20代の若者が63%を占め、高校生や中学生が逮捕されるケースもあった。10代の犯行理由で最も多かったのは遊興費の58%、次いで生活困窮の10.7%だった。一方、50代以上の検挙者も7.6%いて、男の割合は91.3%だった。
生活苦で犯罪に手を染める若者や高齢者は少なくない。物価は高騰し続けているのに給料は一向に上がらず、高齢者は年金を減らされ、仕事もなく、老後の人生をまともに送れない。72歳で「闇バイト」。なんとも、やるせない。