[マスクの下 こころとからだ 子どもたちの今](6) 部活動(上)
バレー部にサッカー部、ハンドボール部も-。薄暗い校内のあちこちで、部活生が泣いている。本島中部の中学3年生でバレー部員のアカリさん(15)=仮名=が、1年生だった2020年7月31日に見た光景。試合もできないまま、先輩たちは突然引退が決まった。
アカリさんの学校は、3年生にとって最後の舞台となる県中学総体の地区大会の会場だった。開幕を前日に控えたその日は夕方までに会場設営を終え、玉城デニー知事の記者会見を待っていた。
焦点は、県独自の緊急事態宣言が出されるかどうか。会見は夜にずれ込み、息をのむ時間が続く。午後8時ごろ、職員室から戻ってきた顧問の言葉は「あしたは中止です」。
関連記事思い描いていた引退試合との落差が… コロナ禍で部活制限 先輩としての実感持てず【部活動・・・[マスクの下 こころとからだ 子どもたちの今](7) 部活動(下) 観客がいない体育館に、シャトルを打ち合う音だけ・・・www.okinawatimes.co.jp 先輩たちは皆うつむいている。痛々しくて直視できなかったが、泣き声が耳に響いた。自分が出場するわけでもないのに、アカリさんも気付けば頬がぬれていた。
中止を伝えたユウコ先生(仮名)は、当時を思い出すたびに胸がぎゅっとなる。自他共に認める「鬼顧問」。涙を見せたのは40年近い指導歴で数えるほどだったが、「生徒と一緒に泣きました。大泣きですよ」と振り返る。
コートに張られたネット、ベンチのいす。目の前には使われない「夢舞台」が広がっていた。「週明けに片付けようね」。やっとのことで言葉を絞り出した。
関連記事約半数は部活に入らず…沖縄の中学生「部活離れ」が加速 加入率63.9%→53.3%に減・・・[マスクの下 こころとからだ 子どもたちの今] 沖縄県内の中学校で「部活動離れ」が加速している。2022年度の部員・・・www.okinawatimes.co.jp 「ここまで頑張ったことは無駄じゃない」。あの日、生徒に伝えたメッセージを、今も自分に言い聞かせている。
■感染で失格 戦々恐々
新型コロナウイルスの感染者数が人口比で全国最多の時期が続いた沖縄。部活動がどうなるかは深刻な問題だった。バレー部員のアカリさん(15)にとっても初めてのことばかり。中学進学前に父が奮発して買ってくれた「上等なシューズ」は、長引く休校と部活制限で、初夏になっても新品の箱で眠っていた。
大会では出場メンバーに選ばれないと会場に入れない。先輩たちの試合は、2人だけ入場を許可された保護者が中継するインスタグラムのライブ機能が頼りだった。映像は粗く、遅延もある。「あっ、先輩の誰かがスパイクを打って得点したな」。もどかしさを感じながら、小さな画面に一喜一憂した。
上級生になっても出場機会が限られる中、アカリさんは数少ない大会で活躍できた。「親に褒められるかな」と期待したが、会場近くに車を止めて中継をスマートフォンで見ていた両親は「あれ、あんただったの?」。肩透かしな反応に「あんなにサーブを決めたのによ」と、へこみそうになった。
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大会では、一人でも感染者が出たチームは失格になる。会場に張られたトーナメント表には、〈0-25、0-25〉とストレート負けの表記。「あの強豪校もか、って感じ」。対戦相手よりも、見えないウイルスと闘っていた。
■消化不良の3年間
小学校の時から憧れていた先輩が部にいた。技術に優れ、コート全体をよく見て皆を鼓舞する。なのに、心ゆくまで共にプレーすることがかなわなかった。「消化不良の3年間」だったとの思いが拭えない。
アカリさんは4月から、その先輩がいる本島中部の強豪高校に進学することを目指す。「今度こそ一緒に、思いっ切りプレーしたい」。失った時間を取り戻そうと、受験勉強に励んでいる。
(「子どもたちの今」取材班・松田駿太)