ドイツ首相がサウジアラビアへのユーロファイター「タイフーン」戦闘機の納入について「当分はない」との見解を示しました。イギリスの要請に反し、拒否を続けるのには理由があるようです。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は現地時間の2023年7月12日、リトアニアのヴィリニュスで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議中、サウジアラビアへのユーロファイター「タイフーン」戦闘機納入について問われ「当分は納入の決定はしないだろう」と述べました。
「ユーロファイターはやらん」ドイツ首相がサウジへ頑なに拒否 …の画像はこちら >>サウジアラビア空軍が現在運用しているユーロファイター「タイフーン」(画像:サウジアラビア国防省)。
サウジアラビア空軍は現在、72機のユーロファイターを配備していますが、5年前の2018年に、イギリスのBAEシステムズから追加で同機の購入をする予定となっていました。
しかしこの件に関してドイツが難色を示しました。ユーロファイターはイギリス、ドイツ、イタリア、スペインで共同開発された戦闘機であるため、イギリス以外の承認も必要です。
ドイツは、サウジアラビアが隣国であるイエメンの内戦に2015年から介入し、反政府組織であるフーシ派と戦うため、ハーディー政権に協力する形で空爆を行ったことを批判。イエメンの国民数万人が死亡し、数百万人が飢えに苦しんでいるとしました。
さらに、2018年10月2日に発生したサウジアラビアのジャーナリストであるジャマル・カショギ氏がトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館を訪れた後、行方不明となり、その後殺害されたとされた事件も、ドイツの態度を硬化させる原因にもなったようです。この事件以降、ドイツはサウジアラビアへの武器売却に厳しい制限を課すことになりました。
サウジアラビアがイギリスへ追加発注した機体数は48機と言われており、追加分としてはかなりの数です。同国は、軍拡を続ける対立国であるイランへの備えとして、空軍の強化を図っていますが、5年もユーロファイターの輸入が保留にされており、既に計画に大きな乱れが生じています。
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式典でのF-15とユーロファイター「タイフーン」(画像:サウジアラビア国防省)。
なお、イエメン内戦で、サウジアラビアが攻撃しているフーシ派は、イランが支援を受けており、イエメン内戦は代理戦争的な要素もありましたが2023年3月には両国間の和解が一応成立。ひとまず外交関係も正常化することとなりました。
イエメンでの内戦は継続中ですが、サウジアラビアの影響力が弱まったことを理由にイギリスは、ドイツの反対だけではユーロファイターの輸出は阻止できないとして、輸出への準備を進めています。ただ同機の部品の3分1はドイツから供給されている関係もあり、独断で動くというのはほぼ不可能の状況です。
なお、ドイツ国内の報道によると、ドイツの現政権であるドイツ社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、緑の党の連立政権の合意内容には「イエメン内戦で直接関与していることが証明できる限り、各国に武器の輸出許可を発行しない」という項目があり、解釈によってはサウジアラビアにユーロファイターを送ることも可能ですが、緑の党が強く反対しているようです。一部報道では、少なくとも2025年の連邦議会選挙終了後までは許可が下りないのではと見られています。