「“法律知らなかった”は通用しない」電動キックボードのルール緩和に潜む大きなリスク

道路交通法の改正によって、7月1日から規制が緩和された電動キックボード。シェアリングサービスの普及などによって、現在は都内のいたるところで利用者を見かけるが、安全性を不安視する声も多い。規制緩和によって何が変わるのだろうか。
法改正により、電動キックボードは大きさや最高速度20キロ以下などの特定の要件を満たすことで特定小型原動機付自転車(特定小型原付)として扱われることに。大きく変わる点は、ヘルメットは努力義務、16歳以上なら免許不要(16歳以下は乗れない)で乗れるようになる点だ。
また、ナンバープレートやウィンカー、自賠責保険への加入は必須だが、時速6キロの“歩道モード”に切り替えれば、自転車専用通行帯や歩道も走行可能となる。大都市で普及しているシェアリング事業者「LUUP」の電動キックボードも同様の扱いとなる。
規制の緩和で、これまでより気軽に乗れて利便性が増すことが期待される一方で、弁護士ドットコム株式会社が今年4月に発表した弁護士109名を対象に行ったアンケート調査によると、規制緩和について、弁護士の半数超が「反対」、9割が「事故増加を懸念」するという結果となった。
今後ますます利用者が増えることが予想される電動キックボードだが、それは同時に事故のリスクも増えることを意味する。実際、7月の規制緩和以降に、電動キックボードの利用者が飲酒運転し、トラックと衝突するという事故も起きている。
法改正によってどのようなことが起きてくるのだろうか。交通事故案件に詳しいアトム法律事務所弁護士法人の狩野祐二弁護士に聞いた(以下、カッコ内は狩野弁護士)。
「そもそも、法改正の問題以前に、交通ルールを守らずに電動キックボードを利用している方がかなり多いと思います。よくあるのが“歩道走行”、“二人乗り”、“飲酒運転”などです。自転車でもダメなのですが、“自転車感覚”で乗っているように見受けられます。基本的には“原付感覚”で乗るべきです。
運転免許が必要だった法改正前の時から交通違反が目立っていましたが、今回の法改正で運転免許が不要になったことによって、さらに交通違反は増えると思います。道路交通法を含め、日本の法律は『知らなかった』は通用しないので、交通ルールを正しく理解して、それに従わなければ、容赦なく行政処分や刑事処分が下されます。それは運転免許を持っていても持っていなくても同じです」
今後増える可能性がある事故はどのようなものだろう。
「例えば、電動キックボード利用者が車道で車に轢かれるなど、利用者が被害者になるケース。逆に、(法改正によって一定の条件を満たせば歩道走行が可能になりましたが)電動キックボード利用者が歩道を走行し、歩行者に衝突するなど、利用者が加害者になるケースも想定されます。また、法改正によりサイドミラーの設置義務がなくなったため、電動キックボード利用者が後方確認をしない事による事故も増えるのではないかと懸念されます」
ただし、仮に電動キックボードによる交通ルール違反があった場合でも、基本的には事故が起きれば車側の過失割合が大きくなる可能性が高いという。
「電動キックボードは、今回の法改正で“特定小型原動機付自転車”という新しい車両区分に位置付けられましたが、電動キックボードの交通事故に関する裁判例は蓄積されていません。基本的には、原付に準じた形で扱われるのではないかと予想します。
交通事故の場合は、自動車>バイク(原付含む)>自転車>歩行者の順で、過失がつきやすいため、自動車と電動キックボードで事故が起きた場合は、原則として自動車の責任が大きくなります。また、電動キックボードは、ヘルメットの着用義務がなく、体がむき出しの状態で乗るため、自動車と衝突したときには大けがをする危険性が大きいです。電動キックボード利用者のけがの程度が大きい場合には、自動車の運転者が刑事裁判にかけられてしまうこともあるので注意が必要です」
また、原付の法定最高速度が30キロなのに対し、20キロしか出ない電動キックボードならではの危険もあるという。
「電動キックボードで大通りを走行するときも、基本的には車道を走行することになります。大通りでは、自動車は50キロや60キロで走行しているので、20キロ以下の低速度かつ運転者がほぼ生身の状態で電動キックボードが衝突された場合には、重大な事故になる危険性が高いです。
また、大きい交差点で、信号が青から黄色・赤に変わりそうなときに、交差点に進入してしまうと、電動キックボードが交差点を渡りきる前に赤信号に変わってしまい、周りの自動車と衝突してしまう危険もあります」
仮に電動キックボードによって事故に巻き込まれてしまった場合、保険はどのようになっているのだろう。
「国内で最も流通している電動キックボードであるLUUPに関しては、大手損害保険会社と提携して任意保険が自動的に付帯しているようなので、被害者には対人・対物の基本的な補償はされると思います。
ただし、個人で所有する電動キックボードの場合、必須なのは自賠責保険のみです。自賠責には対物補償はないので、加害者が任意保険に加入していない場合、自転車や車などを壊されても保険による補償はありません。加害者本人に資力がない場合には、損害額を回収するのは困難です」
利用者層に若者が多い点も、電動キックボードのマナー違反が目立つ要因のひとつだという。
「電動キックボードのメインユーザーが若者であること、都市部の市街地を中心にエリア展開をしていることから、若者×市街地という掛け合わせで、運転免許を持っていない人も多いでしょうし、交通ルールに対する認識が甘い方がどうしても出てきてしまうのかもしれません。利用者自身はもちろんですが、自動車運転者や歩行者の方も、事故を起こさないよう、事故に巻き込まれないよう十分に気をつけていただきたいと思います」
被害者にも加害者にもならないよう、安全に楽しんで欲しい。