世界最大の軍用機ショーにて、サーブの「グリペンE」を操ったパイロットが優れたデモフライトを披露しました。世界でシェアを伸ばす同機、そのコスパは維持しながら、ますます進化しているようです。
2023年7月14日(金)から16日(日)までの3日間、イギリスのグロスターシャーに所在する、イギリス空軍のフェアフォード空軍基地で、「ロイヤル・インターナショナル・エア・タトゥー」(以下RIAT)が開催。そこでサーブ「グリペン」戦闘機の最新仕様「グリペンE」が会場を沸かせました。
飛行能力を見せつけた!最新型の「グリペンE」はどれだけ凄いの…の画像はこちら >>RIATに持ち込まれた単座型の「グリペンE」。奥はAEW&Cの「グローバルアイ」(画像:サーブ)。
RIATはほぼ毎年7月に開催されている、世界最大級の軍用機ショーです。残念ながら今年は参加していませんが、航空自衛隊も2016、2017年、2019年にKC-767空中給油・輸送機、2018年と2022年にC-2輸送機を、それぞれ参加させています。ちなみに「タトゥー」は刺青ではなく、軍用機の行進を意味しており、今年のRIATは「ロイヤル」の名前通り、14日にイギリスのウイリアム王子一家のサプライズ訪問を受けています。
RIATでは連日、参加した世界各国の軍隊や民間組織が持ち込んだ航空機による地上展示に加えて、おおむね7時間以上のデモフライトも実施されており、優れたデモフライトには賞が授与されます。
最も優れたジェット機による単独デモフライトに贈られる、RIATの共同創設者の名前を冠したポール・ボーエン・トロフィを、2023年はサーブの持ち込んだJAS39「グリペン」戦闘機の最新仕様の単座型「グリペンE」を操縦した同社のテストパイロット、アンドレ・ブレンストロム氏が受賞しました。
ブレンストロム氏は受賞後、「RIATに参加した航空ファンに、グリペンEが空中でどのような能力を発揮するのかを示すことができて本当にうれしく思いました」と述べています。
「グリペンE」の原型であるJAS39「グリペン」は1980年代に開発された国産戦闘機で、1993(平成5)年からスウェーデン空軍で運用が開始されています。
「グリペン」はほぼ同時期に開発されたダッソー「ラファール」やユーロファイター「タイフーン」と同様、水平尾翼を持たない三角形の主翼(無尾翼デルタ翼)と、機首部の揚力をもたらすカナード翼を組み合わせたデザインを採用しています。
「ラファール」と「タイフーン」は2基のターボファン・エンジンで飛行する双発機ですが、「グリペン」は1基のターボファン・エンジンで飛行する単発機です。
このため「グリペン」の航続距離や兵装搭載量は「ラファール」「タイフーン」の半分程度ですが、複合材料を多用して機体を極限まで軽量化したため、最大速度は両機を上回るマッハ2.2に達しています。
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RIAT2023のポール・ボーエン・トロフィをグリペンEで受賞したパイロットのアンドレ・ブレンストロム氏(画像:サーブ)。
「グリペン」は高い運動性や速度性能、搭載できる兵装の種類が多いわりに価格が安く、またスウェーデン政府とサーブは資金に余裕が無い国にはリース契約による貸し出しを行ったり、「グリペン」導入国への見返りとして、その国で部品製造を行ったり、あるいはその国の特産品を購入するといった柔軟なセールスをしています。
このためスウェーデン製の戦闘機としては輸出も好調で、チェコ、ハンガリー、南アフリカ、タイの4か国に輸出されたほか、テストパイロットとエンジニアの養成を行っているイギリスの王立テストパイロット学校でも1機が運用されています。
なお、2022年のRIATでも、「グリペン」を操縦したハンガリー空軍のデビッド・センテンドレイ大尉が、ポール・ボーエン・トロフィーを受賞しています。
今年のRIATでポール・ボーエン・トロフィーを受賞したブレンストロム氏が操縦した「グリペンE」は、「グリペン」の基本設計を流用して開発されました。
このため外観は大差無く見えますが、全長は「グリペン」の14.9mからF-16を若干ながら上回る15.2mに、全幅も約20cmそれぞれ拡大されており、拡大によって生じたスペースには燃料タンクを増設して、航続距離の延伸と、兵装搭載量の増加を図っています。
「グリペン」はF/A-18「ホーネット」戦闘機と同じ「F404」ターボファン・エンジンを搭載していますが、「グリペンE」はF/A-18E/F「スーパーホーネット」と同じ「F414」ターボファン・エンジンを搭載しています。軽量な機体に「F404」よりもパワーの大きな「F414」エンジンを組み合わせたことで、「グリペンNG」はF-22などと同様、アフターバーナーを使用することなく超音速で飛行する「スーパークルーズ」能力を備えています。
また、「グリペンE」は電子戦装置なども「グリペン」に比べて強化されており、AWACS(早期警戒管制機)や地上のレーダー施設を妨害し、さらには電子的に自機の囮を作り出す機能も備える「AREXIS」の搭載も計画されています。
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RIATで飛んだ「グリペンE」。迷彩柄が異なる2種類が持ち込まれていた(画像:サーブ)。
2023年7月の時点で「グリペンE」はスウェーデン空軍に60機、ブラジル空軍に28機(ブラジル空軍での呼称はF-39E)採用されています。
ブラジル空軍は複座型のグリペンF(同F-39F)8機の採用も決めており、サーブはブラジル最大の航空機メーカーであるエンブラエルらと協力して、グリペンE/Fのブラジルでの製造にも着手。サーブはブラジルで製造したグリペンE/Fを、コロンビアやエクアドルなどの中南米諸国に提案する意向も示しています。