宮内庁関係者になりすまし「皇室献上」を持ちかけた“桃ジイさん”の虚言と余罪

桃ジイさんは「宮内庁の関係者のカトウ」と名乗り、福島市の桃農家に「皇室に献上できるかもしれない」と持ちかけ、桃の提供を依頼していた。
宮内庁関係者に成り済まし、皇室への献上品名目で生産者から桃をだまし取ろうとしたとして、職業不詳の加藤正夫容疑者(75)が先月28日、詐欺未遂の疑いで福島県警捜査2課に逮捕された事件。加藤容疑者はあの手、この手を使って桃農家を信じ込ませ、桃を「献上」させていた。
2020年ごろ、加藤容疑者は桃の生産が盛んな同市飯坂町を訪問。「樹木園芸研究所所長」の名刺を持ち、「東大大学院農学部の客員教授として農業指導を行っている」「献上品の桃を選定している」などとかたって桃農家に献上を依頼した。
「加藤は宮内庁職員から『陛下の健康に良いものを紹介して欲しい』と頼まれたと説明し、21年ごろ、複数の桃農家から桃を集め、お礼として『皇室献上桃生産地』と書かれた『木札』を届けていた。さらに『美智子さまからのお礼』として、上皇后が作ったとされる大福餅を数十人に配っていた。桃農家たちは大喜びし、本人も皆から感謝されていた。加藤は献上の確認を求められると、宮内庁大膳課の名前が入った架空の献上依頼書を作成し、ごまかしていた」(捜査事情通)
今年5月下旬、飯坂町の70代男性がこれまで同様、加藤容疑者から桃の献上を求められたが、知人から「宮内庁関係者ではないかもしれない」と忠告されたため、提供を取りやめ、7月、県警に被害届を出していた。
加藤容疑者が桃農家にバラまいていた木札を巡っては自治体まで便乗。福島市が木札の写真を市内の道の駅に飾り、地元の「献上桃」として宣伝に利用していた。1994年以降、県内で皇室に献上されている桃は、桑折町の「あかつき」のみだった。
献上被害は福島の桃だけにとどまらず、全国各地の農家に広がっていた。茨城県筑西市では、皇室や宮内庁に農産物を献上した農家4人の話を広報誌で紹介していた。
「今回の事件と同一人物かどうかは不明ですが、同じ手口でトマトやスイカを皇室に献上していたと思い込んでいた農家が4軒あり、県に確認したら、献上品は一つもありませんでした」(筑西市担当者)
■先祖代々農業を営む農協組員
加藤容疑者は02年、東京都練馬区大泉学園前の土地1000平方メートル超を父親から相続。妻と2人暮らしだったようだ。自宅に電話をしたところ、妻とおぼしき女性が出て「私には分かりません」と一言。
「土地持ちの一家で先祖代々農業を営み、父親の代から農協の組合員です。私が知る限り、おかしな言動をする人ではなかったんですが……」(近隣住民)
加藤容疑者は生産者に農作物を献上させていたが、金をだまし取ったり、転売していたわけでもなく、木札を送るなど、「持ち出し」もあった。
「今後、全国的な調査をすることになる。動機についてはまったく分かりません」(捜査関係者)
桃ジイさんの動機、目的は何だったのか。