ニジェールでクーデター サヘル地域ではワグネルを手先にしてロシアがプレゼンス高める

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アフリカ大陸の北部サハラ砂漠の南で、半乾燥地域のことをサヘルという。セネガル、モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、チャド、スーダン、南スーダン、エリトリアが位置している。多くの国がフランスの植民地であった。
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私はパリ大学で勉強し、フランス語に不自由しないので、セネガルやコートジボワールの大学で授業をしたことがある。また、フランスでは、旧植民地のサヘル地域からの留学生とも交流があった。
そのサヘルのニジェールで7月26日、軍事クーデターが起こり、親欧米派のモハメド・バズム大統領が失脚した。首謀者のアブドゥハーマン・チアニ大統領警護隊長は憲法を停止し、自ら国のトップに就任したと宣言した。
ニジェールは旧フランス植民地であるが、人口2525万人の世界最貧国の一つで、大多数がイスラム教徒である。ウランの有数な産出国でもある。
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首都ニアメーにある大使館を破壊されたりしたフランスのマクロン大統領は、フランスに対する攻撃は容赦しないと警告した。
また、ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体…ナイジェリア、ガーナ、セネガル、コートジボワールなど西アフリカ15カ国から成る)は、7月30日に緊急会合を開き、クーデターを非難するとともに、1週間以内にバズム大統領を復権させなければ、軍事力を含むあらゆる手段を行使すると警告した。
実は、隣国のマリ(2190万人)やブルキナファソ(人口2210万人)でも、同じような軍事クーデターが起こっている。マリでは2020年8月に軍部が反乱し、民主的選挙で政権に就いたケイタ大統領を追放し、首謀者のゴイタ大佐が2021年5月に大統領に就任している。ブルキナファソでは、2022年1月に軍部が反乱し、民主的に選ばれたカボレ大統領を追放した。
隣接するこの3国ともECOWASの加盟国(ただし、資格停止中)である。そして、旧仏植民地であり、最貧国グループで、イスラム教国である点でも共通しているが、なぜクーデターが起こったのか。実は、その理由も共通している。
この地域では、国際テロ組織のアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」などが活動しており、新型コロナウイルス流行で職を失った若者をリクルートして、勢力を拡大してきた。そのために治安が悪化し、国民の不満が高まった。
軍部は、民主派政権が過激派テロ組織の鎮圧に失敗し、統治能力がないとして、クーデターを起こしたのである。
旧宗主国のフランスの軍隊と、EUの混成部隊の約2万5千人(うち仏軍は約4千人)が西アフリカに展開し、治安の維持に当たってきたが、犠牲になる兵士が増え、戦費も嵩んできたため、マクロン仏大統領は昨年2月にマリから仏軍を撤退させることを決め、西側の支援部隊も撤収を決めたのである。
マリやブルキナファソやニジェールでは、かつての宗主国フランスへの反感が強い。とくにクーデターで政権に就いた軍部は、マリでフランス大使を追放するなど反フランスの動きを強めてきた。
イスラム過激派の活動強化、軍事クーデターを絶好の機会として、介入してきたのがロシアである。プーチン大統領は、ワグネルを傭兵として派遣する。ワグネルは雇用国から報酬(たとえば、マリからは2億ドル)を受け取るのみならず、天然資源にも手を伸ばす。
ワグネルは、国連が2013年からマリに派遣しているPKO(国連平和維持活動)部隊を撤退させるように軍事政権に要求してきた。その結果、6月30日に国連安保理事会は、PKO部隊を今年末までに撤収させることを決めた。PKOは受け入れ国の同意が必要だからである。軍事政権は、PKOがいなくても、自国で治安を維持できるとして、PKOの撤退を求めたのである。要するに、ワグネルの力を使うということである。
ブルキナファソでもニジェールでも、ワグネルを介してロシアの影響力が強まっていく。7月26~28日に、サンクトペテルブルクでロシア・アフリカ首脳会議が開かれたが、プーチンはロシア産の農産物を無償で提供する用意があるとして、アフリカ諸国の取り込みを図った。
親欧米派の拠点だったニジェールもロシアの影響下に置かれそうである。欧米がウクライナや台湾に関心を集中させている間に、プーチンは、アフリカや中東に拠点を拡大している。

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今週は、「ニジェールのクーデター」をテーマにお届けしました。