〈四谷大塚・児童盗撮〉「ハードディスクを保管してくださるかたはいらっしゃいますか?」「グループは廃止するつもりはありません」猛省していたはずの盗撮講師が所業発覚後にロリコン仲間に送ったドン引きメッセージ。塾側の再発防止策は?

中学受験進学塾「四谷大塚」(本部・東京都中野区)において、女子児童の盗撮や個人情報の漏えいが横行していた問題で、“犯行”を全面的に認めて反省していたはずの20代の男性講師M(懲戒解雇済み)が、盗撮動画の押収をおそれて「ロリコン仲間」にハードディスクの保管を要請していたことがわかった。いっぽう、被害児童の保護者は同塾に対し、個々の講師が塾生の個人情報に簡単にアクセスできることを憂慮し、早急な改善を求めた。同塾の夏期講習は続いており、児童や保護者たちは不安な夏を過ごしている。
Mは集英社オンラインが8月9日夜に行った直撃取材に“完落ち”し、保護者への謝罪などについて「どうしたらいいですか」などと反省の色を見せ、帰宅後には取材班にこんなメールを送ってきた。
直撃取材で座り込んでしまったM(撮影/集英社オンライン)
<この度は、私の身勝手な感情により、守るべき生徒を売り、危険に晒してしまったことを大変申し訳なく思っております。脅迫がきっかけとはいえ、その後の行動は私の意思で動いており、言い訳はできません。申し訳ない気持ちでいっぱいです。○○様と▽▽様(記者の実名)には昨晩声をかけてくださり、そんな私の行動を止めてくださったことを感謝しております。社会人として、本来なら自らもっと初期に気づくべきでした。大変恥ずかしく思っております。授業をし、面談も実施することになる私としましては、どなたの保護者様がこの事実をご存知なのか、知りたい気持ちも強くありますが、相手方のお気持ちも考えますと、ご教示いただけないのは当然のことと存じます。今回の加害者にあたる私がお願いするのは大変恐縮なのですが、1つお願いしてもよろしいでしょうか?相手方に謝罪をしたいと強く思っておりますが、仕返しが怖く特定されたくないという理由などで謝罪が叶わなかった場合は、校舎長にのみ相手方のお名前をお伝えし、謝罪をすることは可能でしょうか?校舎の総意としましては、まずは動画や情報を流してしまった生徒とその保護者方に謝罪し、全力で守りたいと思っております。お忙しいところ大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。>多少視点と文脈にピントのずれが見受けられるが、全体的には「殊勝な心がけ」を感じさせる内容であり、あくまで私信として送られてきた文章なので、本来は公開する筋合いのものではない。ところが、である。Mはこのメールを送るのとほぼ同時に、自らが主宰してロリコン仲間たちを集めたグループSNSに、記者から直撃取材を受けたことを報告、メンバーに向けて「(記者が知ったことに)心当たりのある方がいらっしゃいましたら、個別で教えてください」と“犯人探し”を開始。さらに、翌10日朝にはこんなメッセージを送っていたのだ。<東京都にお住まいの方で、どなたか私の動画が全て保存されているハードディスクを保管してくださる方はいらっしゃいますか? この5日間は休みなので>
MとSNS仲間のメッセージのやりとり(知人提供)
強制捜査を視野に入れての証拠隠滅が目的なのか、純粋に「趣味動画」を押収されて二度と見られなくなることを恐れたのかは不明だ。さらに、M(キッド)はこんな書き込みを残していた〈まだ(グループを)廃止するつもりはありません〉
MとSNS仲間のメッセージのやりとり(知人提供)
しかし、Mの願いもむなしく、SNS上の仲間たちの多くはMを心配しつつも「すみませんが怖いので一旦退出させてもらいます」「大変な事態になってますけど大丈夫でしょうか? 場合によっては全消しで解散でも構いません」などとクモの子を散らすようにグループから離脱。結局は、事実確認に動いた四谷大塚から相談を受けた警視庁が、同日中にMから任意提出を受ける形でこのハードディスクを押収した模様だ。Mの歪んだ欲望で恐怖のどん底に突き落とされた、児童の保護者たちの怒りは収まらない。Mが盗撮の標的にしたのは#1で報じたAさんだけではなく、わかっているだけで二桁は下らない。やはり教室の床に体育座りをさせられ、執拗に盗撮されていたBさんの父親Cさんは、深い怒りをにじませながらも、塾側に建設的な改善策を求めた。取材班が情報提供した動画を確認したCさんは、記者とともに10日、四谷大塚のMの勤務先の校舎に向かい、対応に当たった同塾の教育事業部本部長と校舎長の謝罪の言葉をさえぎるように、こう切り出した。「正直に言うと『ぶっ殺したい』ってのが本音ですけどね。けど、娘はこの塾が好きなんですよ。校舎長のことは家でも『いい先生だ』ってよく話しているし、何度か面談した私もそう思ってる。だからクレームをつけにきたわけじゃない。私にとって大事なのは四谷大塚が今後どうしていくのか、そういう話をしたい。この事態を受けてどう変わるのか教えてほしい」これを受けて校舎長は「本部と協議中ですが」としたうえで、教室内に防犯カメラを設置し、講師には授業中にスマートフォンを教室に持ち込ませないようことなどを検討していると説明し、Mの処遇についてはこう明言した。「M本人からの聞き取りで、住所を流出させた方、動画や画像を流出させた方など、あわせて被害者が11名いて、やったことについても認めました。なので、会社としては懲戒解雇とする旨を伝え、本人も納得して念書を書いております。ここから先のMのことに関しては警察に任せることになっています」
警察に同行を求められたM(撮影/集英社オンライン)
Cさんは懲戒解雇を即時に決めた四谷大塚の対応に安堵の表情を浮かべながら、こう質した。「懲戒解雇ですね? つまりMはもう二度と塾の講師はやれないと考えていいわけですね。彼はまだ若いと思うので他のことでいくらでもやり直したらいいとして、ひとまず他の塾にも立てないということには安心しました。それから先ほどの話に戻りますが、防犯カメラとか講師にスマホを持たせないとかそういう話ではないと思うんですよ。そこまでやるとこのご時世そっちが問題になったりもするでしょう。個人情報についてのアクセス権限はどうなっていますか?」
これについては同席した本部長が「社員になりIDを持っていれば閲覧できます。ただし、すべての学校の情報が見れるわけではなく勤務している校舎の情報しか見られません」と答えると、Cさんは驚いた様子でこう詰め寄った。「つまり、社員であれば誰でも個人情報が見られると。個人情報のうるさい今の時代にそれはどうなんですかね。だからこそ個人情報までも流出したんじゃないですかね? それは権限委譲させすぎじゃないですか?」
流出した個人情報(知人提供)
この疑念には校舎長が「どうしても欠席した際の確認や、郵便物などの配送で業務上のためにそのようになっていまして」と答えるが、Cさんはこう一刀両断した。「郵便物のラベリングなどはあらかじめシステムを組めばいいし、その辺はどうにかなると思います。せっかく本部長がいるんだから上申して、そういったことから変えていかないと、違った形で情報を売ったりする模倣犯が出てこないとも限らないでしょう。明日からはお盆休みかもしれませんが、そこは対応してほしい」本部長、校舎長ともに盆休み返上で対応を進めると頭を下げると、Cさんはこう締めくくった。「会社ですから、すぐになんでも決定できないというのはわかっています。そんな中、今日の今日で懲戒解雇という早い対応で驚いたくらいです。それに私はなぜ流出したのかというよりも、これからどこに目を向けていくのかを話していきたい。娘は校舎長のことを『悪いことは悪いときちんとしかるいい先生だ』と言っているんです。前に通っていた塾ではうまく馴染めず行きたがらなかった娘が中学受験に前向きになって勉強してる今、同じ轍を踏みたくない。もちろん今後もこちらに通うのか、娘にこのことを告げるべきなのか、そういったことは妻とも話していかないといけないと思ってはいるけど、できれば娘の気持ちを途切れさせたくないという思いが強いんです」
本部がある四谷大塚中野校舎(撮影/集英社オンライン)
「独立自尊の社会・世界に貢献する人材の育成」を理念に掲げる四谷大塚は、再び信頼を取り戻すことができるのか。
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