創業100周年を迎えた八海醸造(新潟県南魚沼市)はこのほど、都内で次の100年に向けた記者発表会を開催。八海山といえば日本酒をイメージする人も多いと思うが、実は焼酎、ビール、ウイスキー、ジンなどさまざまなお酒をつくっている。甘酒の科学的研究にも長年取り組み、その効能についても発信している。
○八海山が考える「良い酒」とは
代表取締役の南雲二郎氏は、「八海山が創業された1922年当時、すでにその土地で数百年前から存在していた酒蔵もあり、思うように業績が上がりませんでした。既存の酒蔵が市場を押さえていた中、2代目の南雲和雄が関東方面への市場開拓にかじを切ったところ、全国への販路が拡大、その後の八海山のブランド拡大のきっかけとなったのです」と振り返る。
また、ブランドの考え方について次のように語った。
「私どもが目指す『良い酒』とは、淡麗でバランスの取れた食中酒としての役割を担った酒です。とにかく良い酒を、とただひたむきに酒造りと向き合い品質を向上させて販路を切り開いてきた結果、2000年頃には約100倍の規模に発展することができました。こういった取り組みの根底の原動力になっているのが、初代から続く『現状に満足せず、常に挑戦の心を持ち続けること』という考えです。弊社は永遠に終わらない会社を目指し、挑戦と成長、変化に積極的に取り組んでまいりました。それはこれからも変わらないことです」(南雲氏)
○コーポレートロゴを制定、100周年記念酒も
八海山は100周年を機にコーポレートロゴを制定。多様な酒を製造するブランドへと成長していることを表し、どのラベルやパッケージに用いても違和感なく機能するデザインを採用した。このロゴが使用されるのは2023年9月に発売される100周年記念酒「八海山 百」から。
八海山 百は100年の技術の集大成としてつくられた日本酒で、2017年に仕込み氷点下3度で6年間貯蔵。八海山の中でも最先端の醸造設備が用いられる「浩和蔵」で厳選した原料を使用し、最高水準の蔵人が特別に作った大吟醸だ。全国の百貨店や酒販店で9月末頃から販売される予定で、価格は750ml12万円(税別)!
ほかにも、2016年からライスグレーンウイスキーづくりに挑戦しており、7年貯蔵を経た2024年4月に発売予定。「米を主原料とするライスグレーンウイスキーを製造したのは八海山が初だと思う」と南雲社長も自信をのぞかせる。新しい挑戦にもどんどん挑むのが八海山なのだ。
○ニューヨークのメーカーと業務資本提携、世界へ
さらに八海山では、日本酒文化をさらに発展させワインやウイスキーのような世界飲料へと広げていくことを目標に、2021年12月にブルックリンクラとの業務資本提携を結んだ。
ブルックリンクラは米国でニューヨーク州初のクラフトサケメーカーとして創業し、ブルックリン地区のインダストリーシティでその場で飲めるタップルームを併設した製造所を有する。
今後は両社で協業し、日本酒をニューヨークから世界へ広げていくことを目指すという。ブルックリンクラでは八海醸造ブランドアンバサダーであるティモシー・サリバン氏による啓発コンテンツ展開を予定、ニューヨークでも日本酒づくりやその楽しさを学ぶ場をつくっていく。
○「麹だけでつくったあまさけ」が初の機能性表示食品に
八海山は甘酒の研究にも定評がある。
甘酒の研究は、他の発酵食品に比べて格段に少ない。世界の論文を確認できる医学系データベースに存在する発酵食品の論文では、チーズ・ヨーグルト・ビール・ワイン・味噌・醤油・清酒は1万件以上の論文が存在する一方で、甘酒はたった15本とかなり少ない。その中の5件の論文は八海山が提出したものだというから、甘酒業界で八海山の存在感は大きい。2016年から甘酒の科学的研究に取り組んでいることもあり、甘酒のリーディングカンパニーとして甘酒の機能性について研究と発信を行ってきた。
そしてついにこのほど八海山が発売する「麹だけでつくったあまさけ」が初の機能性表示食品として受け付けられたという。機能性表示食品となったのは2つ。
ひとつは「肌の潤いを守るのを助ける」こと。
「麹だけでつくったあまさけ」118gには1.3mgの麹由来のグルコシルセラミドが入っており、この成分が肌の保湿に影響を与えることがわかっている。麹由来のグルコシルセラミドを摂取し続けると肌の水分量が維持され、保湿されるというエビデンスが取れているのだそう。
もうひとつは「腸内環境を整え、便通を改善する」こと。
「麹だけでつくったあまさけ」には麹菌Aspergillus oryzaeHJ1株が存在し、この影響で腸内環境が整い、便通が改善される。
機能性表示食品となったことから、2024年3月からはリニューアルパッケージへと変更される。
○八海山のお酒でペアリング体験!
発表会後には八海醸造の4種の酒を使用したペアリング体験が実施された。「和食といえば日本酒」という固定概念を外すラインナップとなっており、4種類のお酒に合う料理が登場。ぜひ日本酒を楽しむ際の食事の参考にしてほしい。
○瓶内二次発酵酒 白麹あわ 八海山
まずは「瓶内二次発酵酒 白麹あわ 八海山」。日本酒を作る際の麹のもろみの発酵によって出る炭酸ガスをボトルに閉じ込めた日本酒で、繊細な泡のきめ細やかさと発酵によって作られる爽やかな酸味が特徴。5月に開催された財務相・中央銀行総裁会議の財務省主催の夕食会の乾杯酒としてもふるまわれたことでも話題の日本酒だ。
通常は焼酎をつくる際に使用する「白」が使われ酸味を感じることから、「赤万願寺唐辛子とフルーツトマトのガスパチョ キャヴィア 焼き鱧と加茂なす」が提供された。トマトの酸味と白麹がマッチし、そこに炭酸の爽やかさが駆け抜けていく。夏にぴったりの組み合わせだ。
○純米大吟醸 八海山 浩和蔵仕込
続いては「純米大吟醸 八海山 浩和蔵仕込」。前述の12万円の100周年記念酒「八海山 百」と同じ浩和蔵でつくられた日本酒で、甘みと辛みのバランスがよく、しっかりとした麹の味わいが感じられる。
注がれたのは八海山が純米大吟醸 八海山 浩和蔵仕込を味わうためにつくった「サケマスト」というオリジナルグラス。広さのある下半分で酒の香りを溜め、飲み口が狭まっていることで香りを閉じ込める形状だ。飲む際には顎が上がるため口に含んだ酒が口の中の全体に行き渡り、より味わいを感じやすくなっている。
ペアリングしたのは「カンパチの香味野菜巻き 胡麻醤油 酢橘 レモンバーム」。濃醇な麹の風味をガツンと感じる酒に対し、ごまとレモンバームの強さが対等に戦ってくれる感じがして心地よい。
○大吟醸 八海山
続いては「大吟醸 八海山」。選び抜いた山田錦と五百万石を45%にまで精米した大吟醸で、八海山ファンの中でも定評がある。会場内でも「これは美味しい!」とあちこちで歓声があがったほど。
合わせるのはなんと「牛頬肉とパルマンティエのクロメスキ トリュフのクーリ」。クロメスキとはコロッケのこと。雑味がなく甘味と酸味のバランスが良い大吟醸 八海山がコロッケの味わいを引き立てているのがわかる。トリュフのようにクセが強い味わいのものは、味わいが反発しがちなので日本酒とは合わせるのが難しいと思っていたが、不思議と馴染むことに驚いた。大吟醸 八海山はどの料理にでも合うポテンシャルがあるのかもしれない。
○八海山本格粕取り焼酎 宜有千萬
最後は「八海山本格粕取り焼酎 宜有千萬」。八海山の日本酒を製造する過程で生まれる酒粕のみを原料に使用し、減圧蒸留したのちに貯蔵したもの。焼酎でありながら吟醸香が感じられるのが特徴だ。合わせるのは「三種の自家製唐墨のひとくち焼きおにぎり」。
華やかな「八海山本格粕取り焼酎 宜有千萬」に、からすみの塩味が合う。酒粕と相性の良いバターも使用されており、幸せなオイリー感を焼酎が奪い去っていく様はまさにペアリングの醍醐味といった感じ。
日本酒、焼酎、甘酒……酒好きには幅広い提案をしてくれる八海山。次の100年もその発信と提案に期待が高まる。
松本果歩 まつもとかほ 恋愛・就職・食レポ記事を数多く執筆し、社長インタビューから芸能取材までジャンル問わず興味の赴くままに執筆するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり、店長を務めた経験あり。Twitter: @KA_HO_MA この著者の記事一覧はこちら