どれだけ知ってる? 教習所で教わらないバイクTips 第25回 重いマシンも右手だけでピタリと止まる! バイク用ブレーキ解説・前編【ディスク式】

安全なライディングに欠かせない部品のひとつが「ブレーキ」。メカに詳しくない初心者でも、愛車についているブレーキの種類や特長を知っておいて損はないはずです。

バイクに使われるブレーキには「ディスク」と「ドラム」の2つがあります。今回で解説する「ディスクブレーキ」は、その名の通り円盤状のディスク(ローター)がむき出しでついているタイプです。
■今や主流! ディスクブレーキの仕組み

ディスクブレーキシステムは、ホイールと一緒に回転するディスクと、このディスクを挟む形で車体側に取り付けられたキャリパー、その中にあるブレーキパッドのほか、レバーやペダルの入力を油圧でキャリパーに伝えるマスターシリンダーなどで構成されています。

高速で回転しているディスクを両側から挟んで止めるには強い力が必要です。そのため、バイクのディスクブレーキでは油圧式を採用しています。レバーの部分では「てこの原理」、油圧の部分では「パスカルの原理」を用いて強力な制動力を生み出すという仕組みです。

ディスクを挟みつけるブレーキパッドも自転車のようなゴムでは持たないため、さまざまな材料を配合した摩擦材が使われています。一般的にはコストも安く、ディスクへの攻撃性も少ない「レジン系」か、高速・高温域や雨天時も安定した性能を発揮する「メタル系」に分別されます。

ブレーキシステムにとって最大の課題は摩擦で発生する熱をいかに冷却するかです。一般的にディスクブレーキがドラムブレーキよりも高性能と言われるのは、一番加熱する部分に走行風が当たって冷却しやすいためです。実はこのアイデアは19世紀はじめから考案されていたのですが、油圧システムの確立やディスクやパッドの素材開発が進むまで時間を要したため、レーシングマシンでも1970年代まではドラム式が主流でした。また、過渡期には油圧を使わない機械式ディスクブレーキも登場しています。

■多ければ良いわけでもない? ディスクの枚数

近年はスポーツバイクのほとんどがフロントにディスクブレーキを採用しています。左右に2枚なら「ダブルディスク」、片側に1枚なら「シングルディスク」で、いわゆる「トリプルディスク」はフロントがダブル、リアにシングルを備えたタイプです。

パワーと重量のある大型スポーツはダブルディスクが一般的ですが、中型以下ではシングルディスクのモデルもあります。ダブルディスクの方が見た目もかっこよく、いかにもブレーキが効きそうに思えますが、実は良いことだけではありません。

確かにダブルディスクは制動力を上げられますが、ディスクだけでなくキャリパーも2つ必要になるため重量は増加します。メンテナンスの煩雑さやコストの増加だけでなく、重いフロント廻りがステアリングのレスポンスを低下させるといったデメリットも出てきてしまうわけです。

また、いくらディスクを挟む力が強くできたとしても、軽く握っただけでタイヤがロックするようでは繊細なブレーキコントロールが難しくなります。ダブルディスクでもあえて外径を小さくしたり、シングルディスクを採用しているモデルの中には、コストではなく軽快なハンドリングやブレーキのコントロール性能を重視したものもあります。

■ディスクを挟むキャリパーの種類

ブレーキキャリパーにもいくつかの種類があります。ひとつは左右のピストンで挟む込む「対向型」で、もうひとつは片側だけに組み込まれたピストンを押し付け、キャリパー自体をスライドさせる「浮動型」や「片押し」と呼ばれるタイプです。

対向型は左右から挟み込むため安定性やコントロール性が高く、浮動型は小型・軽量でコストも安いといったメリットがあります。スポーツユーザーは対向型を好みますが、一般のライダーが公道で使った場合、浮動型でも性能面で不満は出ないはずです。

また、パッドをディスクに押し付けるピストンの数もモデルによって異なります。浮動型なら最低でも1つ、対向型の場合は2つ必要ですが、中型以上のスポーツバイクでは前後に異形のピストンを2つ並べ、合計4つのピストンを持つ対向型4ポッドが一般的になっています。ピストンを増やすのはディスクに圧力をかける面積を増やし、制動力やコントロール性を高めるのが狙いです。

一時期は巨大な6ポッドを装備した大型スポーツバイクも登場しましたが、ディスクブレーキのキャリパーやマスタ―シリンダーも大きく進化したため、現在は4ポッドが主流になっています。

■フルードの不足と汚れは要注意! ディスクブレーキ車で気をつけたいこと

ディスクブレーキを点検する場合、まずはマスタ―シリンダータンクの窓からブレーキフルードの量や汚れをチェックしましょう。フルードは空気中の湿気を吸ったり、熱によって劣化していくので2年に1度は交換が推奨されています。新しいブレーキフルードはサラダ油のように透明ですが、劣化が進むと茶色く濁り始めて性能が落ち、内部が腐食してシールの破損や引きずりなどのトラブルを引き起こします。

厄介なのは劣化したフルードでも冷えているうちは効いてしまうことです。しかし、フルードの沸点は大幅に下がっているため、ブレーキの繰り返しで加熱されると気泡ができてしまうこともあります。こうなるとレバーを握ってもブレーキは効かなくなるので大変危険です。(ベーパーロック現象)

ブレーキパッドの残量確認はフロントフォークとキャリパーの隙間などから目視で確認します。パッド交換は残量1mmほどが推奨されていますが、もったいないからとギリギリまで使うのはおすすめできません。摩擦材は均等にすり減るとは限らず、金属のバックプレートがディスク版を削ってしまうことがあるからです。ブレーキをかけた時に異音がした場合は無理に走らせず、必ず点検してください。

ブレーキディスクは硬いものに強くぶつけると変形することがあります。小さな歪みでもブレーキをかけた時に不快な振動が発生するのですが、叩いたり曲げて直すのはとても難しく、高額なディスク交換が必要になってしまいます。また、走行直後のディスクは高温になっているので、ガソリンスタンドなどで空気圧をチェックする際は火傷に注意してください。

津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら