〈四谷大塚盗撮事件でどうなる日本版DBS〉「生徒との距離感を縮めるため、ハグは日常」という学習塾は「講師の性犯罪歴をわざわざ確認する必要はない」と危機感が薄いが…

大手中学受験塾「四谷大塚」に勤めていた元講師が、生徒として通っていた女児を盗撮し、その動画や個人情報をSNS上のグループに投稿したとして逮捕された事件は、保護者や塾業界に大きな衝撃を与えた。政府は、子どもと接する職場に性犯罪歴がある人物が就職できないよう、採用時に性犯罪歴を確認する「日本版DBS」制度の導入も進めるが、学校や保育所と違い、塾やスポーツクラブなどでの確認は「任意」とされる方向だ。だが、ある非大手の塾の講師からは「うちの塾にとって四谷大塚の事件は他人事で、生徒へのハグも日常。義務でなければ性犯罪歴を確認することはせず、また同じような事件が起きてしまうのでは」と危惧する声も出ている。
娘が小学生だったときに性被害に遭った経験をもつ、関東地方の男性は、性犯罪者が子どもと触れ合う職場に就職しないよう、「日本版DBS」制度の創設を強く望んでいる。「2021年11月、隣に住んでいた大学生の男に、小学6年生だった娘の入浴を覗かれました。警察によると、盗撮した動画が携帯電話に残っていて、男は覗きをしながら自慰行為までしていたそうです。本人の供述では、数えきれないくらい盗撮をしていたそうなので、ひどい常習犯だったのだと思います。判決は懲役10ヶ月、執行猶予3年でした」
四谷大塚中野本校(撮影/集英社オンライン)
この男は、子どもと関わるアルバイトをし、教員免許も取得できる環境にいたという。「男は大学でスポーツ関係の学部に通っていて、調べたら教員免許も取れる学部でした。事件のことは大学も知っているはず。大学での措置までは知りませんが、おそらく退学はしておらず、もしも教員免許を取らせていたらと思うと怖いですよね。また、彼はスポーツ施設でバイトもし、小学生にスイミングを教えていました。通報されてからも、しばらくの間そこで働いていたようです。性犯罪を職場に告白したのかはわかりませんが、性犯罪者が子どもにスイミングを教えているなんて信じられないですよね」男性は、性犯罪歴がある人物が子どもに接する仕事につくことができる現状に憤る。「性犯罪者がスポーツクラブや、教員免許を取れる環境にいるのは、おかしいと思います。小学6年生の女の子を盗撮しながら自慰行為をしていた犯罪者でさえ、キッズスイミングのコーチをできてしまうのは、危険でしかない」こうした性犯罪歴のある人物が教育現場に潜り込まないよう、こども家庭庁が導入を検討している「日本版DBS」制度とは、性犯罪歴がないことを証明する書類を提出しなければ、子どもと関わる仕事に就くことはできない「ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス(Disclosure and Barring Service)」という、イギリスの制度を参考にしたものだ。
「日本版DBS」では、学校や保育所、幼稚園、児童養護施設などにおける採用の際に、事業者に対し、政府の犯罪照会システムで性犯罪歴を確認することを義務づける方向だ。ただ、義務づけの対象に民間の塾やスポーツクラブなどは入っておらず、あくまで、一定の条件を満たし、認定マークを受けた塾やスポーツクラブが性犯罪歴を確認するといった方策にとどまりそうだ。塾やスポーツクラブについては法律で職務を定められていないうえ、日常的に行政が指導・監督することがないためチェックが難しく、義務づけが困難とされている。教育業界関係者はこう懸念を示す。「これまでも、学童でわいせつ事件を起こした男が別の学童に就職する、問題を起こした教員が名前を変えて別の県の教員になるなど、性犯罪者が執拗に子どもと関わる仕事に就こうとしていた例が多くありました。制度に穴がある限り、いたちごっこが続いてしまうのではないでしょうか」
ハグOK、他教室の個人情報も閲覧可だという某学習塾の講師は、「日本版DBS制度が始まっても、塾が性犯罪歴の確認の義務づけ対象にならなければウチは絶対、確認しないでしょうね」と断言する。「塾内では、四谷大塚の話はするなという雰囲気。この事件を受けて、防止のための対策がとられたこともありません。塾の社員に『日本版DBSが導入されたら、うちも性犯罪歴を確認することになるんですかね』と話を振ってみたら、『義務でもないなら、わざわざやる必要はないでしょ』と言われました。確認の手間が面倒なのでしょう。義務化されなければ、絶対にやらないと思います」
森容疑者が盗撮した教室
この男子大学生は、勤務先の塾の意識があまりに低く、性犯罪の温床になるのでは、と危機感を覚えている。「友人が勤務している大手塾では、教室に行く前にポケットの中にスマホなどが入っていないかチェックされると聞きました。でも、うちの塾では授業中もズボンのポケットにスマホを入れている先生がいます。個人情報の管理もゆるく、講師は、他教室の生徒も含め数百人の子どもの住所や家族構成などをパソコンで見られます」さらには、この塾では生徒とこんな身体的接触もあるという。「生徒が塾に来たときに、講師がハグをするのが日常風景。セクハラじゃないかと思い、社員に『まずいのでは』と言いましたが、『距離感を縮めないと、仲良くなれない』『こうしたことをしめつけるのは簡単だけど、性犯罪を犯す一部の人のせいで、しめつけが厳しくなるのはおかしい』などと取り合ってもらえませんでした。小学校~高校まで男女問わず、生徒に対してそんなことをやっています」男性は、塾の無策ぶりに、四谷大塚のような事件がいつ起きてもおかしくないと感じている。「うちの塾では講師が生徒にハグするのが普通で、数百人の個人情報にもアクセスできると性犯罪者が知ったら、うちに講師として働き始めようとする可能性だって十分ありますよね。塾にも絶対、性犯罪歴の確認は義務づけたほうがいいと思います」「日本版DBS」を導入するための法案は、秋にも開会する臨時国会への提出が見込まれる。四谷大塚のような事件を繰り返さぬよう、子どもの安全を第一に考えた対応が求められている。
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