遠すぎない? 大西洋のフリゲートをインド太平洋に派遣 カナダ海軍が“そうせざるを得ない”理由

カナダは日本との軍事的な関係を見た時、アメリカの影に隠れがちですが、海軍はフリゲートなどをインド太平洋地域へ派遣し、連携強化を図っています。その中には大西洋艦隊の軍艦の参加も。遠路遥々なぜでしょうか。
中国や北朝鮮、ロシアといった国際的なルールの枠組みに挑戦する姿勢を見せる国々――それらに囲まれている日本にとって、国際的な協力体制の構築は、自国のみならず地域の安全を維持するために今や欠かすことができません。現状唯一の同盟国であるアメリカはもちろんのこと、イギリスやオーストラリア、さらにフランスといった地域内外の国々との連携は、この数年間で劇的に進展しました。
そして、こうした文脈の中で無視することができない国があります。それが、アメリカの隣国であるカナダです。
遠すぎない? 大西洋のフリゲートをインド太平洋に派遣 カナダ…の画像はこちら >>補給艦「アストリクス」から洋上補給を受ける「モントリオール」(手前)。奥はアメリカ海軍の駆逐艦「スタックストン」(画像:アメリカ国防総省)。
カナダは、自国も太平洋に面する「太平洋国家」であり、インド太平洋地域の安全や海上交通の自由などが、安全保障や経済など自国の国益にとって最も重要な要素のひとつとなっています。そのため、2022年には同国初となる「インド太平洋戦略」が策定され、その中で日本を含めた各国との連携を強めることが明記されるなど、この地域におけるカナダの存在感は年々大きくなってきています。
カナダは具体的にどのような形でインド太平洋地域への関与を強めているのでしょうか。ここでは、軍事的な動きに限定してその概要を見ていきたいと思います。
まず、カナダ軍は海軍艦艇や空軍に属する対潜哨戒機をこの地域に定期的に派遣しています。艦艇の派遣に関しては、これまでカナダのプレゼンス(存在感)を示すためにカナダ軍のグローバルな展開を行う「オペレーションプロジェクション(Operation PROJECTION)」の一環として、年間2隻のフリゲートなどを展開してきました。
さらに、各国海軍や海上自衛隊との共同訓練や親善寄港のほか、台湾海峡における航行の自由を示すための通航なども実施。その一方、核兵器や弾道ミサイルの開発を進める北朝鮮に対し、国連安全保障理事会(安保理)決議に基づく経済制裁を実効的なものとするべく、カナダ軍では2018年から「オペレーションネオン(Operation NEON)」を実施しています。
このオペレーションネオンでは、オペレーションプロジェクションの下で派遣されている海軍のハリファックス級フリゲートに加え、空軍の対潜哨戒機「CP-140」が日本の沖縄県に位置するアメリカ空軍嘉手納基地に展開し、北朝鮮船籍の貨物船などへの瀬取り(洋上での物資の積み替え)を監視しています。
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アメリカが主導する、世界最大規模の軍事演習に参加するカナダ空軍の哨戒機「CP-140」(画像:アメリカ国防総省)。
これらのうち、オペレーションネオンについては今後も継続されることが決定しましたが、残るオペレーションプロジェクションについては、よりインド太平洋地域に特化した新たな作戦行動である「オペレーションホライズン(Operation HORIZON)」に置き換えられることとなりました。
これは、2023年6月にシンガポールで開催された「アジア安全保障会議(シャングリラ会合)」において、カナダのアナンド国防大臣が発表したもので、艦艇の追加派遣など、この地域に対するより積極的な関与を行うものになるとのことです。
ところで、これまでカナダ海軍では2018年以降、毎年2隻のフリゲートをインド太平洋地域に派遣し続けてきました。2023年以降は、その数が3隻に増強されます。今年3月には「モントリオール」および補給艦「アストリクス」が展開を開始したほか、8月には「オタワ」および「バンクーバー」がそれぞれ派遣されます。
なかでも「モントリオール」はほかのフリゲートとちがい、大西洋方面に配備されている艦艇であり、遠路遥々インド太平洋までやってくるのです。
カナダ海軍では、太平洋方面に配備されている「太平洋海上部隊(エスカイモルト海軍基地)」と、大西洋方面に配備されている「大西洋艦隊(ハリファックス海軍基地)」という2つの部隊があります。基本的に、これまでインド太平洋方面に派遣されてきた艦艇はこのうちの太平洋海上部隊に所属するものでしたが、「モントリオール」は大西洋艦隊に所属しているのです。
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駐日カナダ大使館の駐在武官であるロバート・ワット海軍大佐(2023年8月、稲葉義泰撮影)。
なぜ大西洋方面に配備されている艦艇が、わざわざインド太平洋方面に派遣されたのでしょうか。先述したインド太平洋方面に派遣される艦艇が3隻に増強されることが発表されたのは2022年11月のことですが、追加される1隻は必ずこの大西洋艦隊から派遣されることが明言されていました。
駐日カナダ大使館の駐在武官であるロバート・ワット海軍大佐によると、太平洋海上部隊だけでは艦艇のローテーションが組めず、一方、部隊規模の拡大には大規模な基地の増強が必要なことから、しばらくは大西洋艦隊から艦艇を派遣することになったとのことです。
8月28日には、先述した「オタワ」「バンクーバー」さらに「アストリクス」が、展開後最初の訪問先として日本の海上自衛隊横須賀基地に寄港します。さらに、2024年の1月に実施が予定されている陸上自衛隊第1空挺団による「降下訓練始め」には、カナダ特殊作戦軍の参加も検討されているとのことです。今後、日加関係のさらなる深化が見込まれます。