JAL、ANAも発注し、導入を待ち続けたMSJこと「三菱スペース・ジェット」は、実用化することなく開発打ち切りとなりました。2社はこの機のかわりに、どのような新型旅客機を導入する可能性が考えられるのでしょうか。
2023年2月7日、三菱重工グループの三菱航空機が手掛けるジェット旅客機、MSJこと三菱スペースジェット(旧称:MRJ)の開発終了が正式に発表されました。日本初のジェット旅客機を製造するプロジェクトは、実用化することなく終わったわけです。
このMSJは日本の航空会社からも受注を獲得。この機の開発の後ろ盾となる初期発注者「ローンチカスタマー」のANA(全日空)グループだけでなく、JAL(日本航空)グループへの納入も待たれていました。三菱重工の泉澤清次社長は今後について「引き続き丁寧にお話を進めていきます」としていますが、2社はそれぞれ、次世代旅客機の納入計画が破綻してしまったのです。この穴埋めには、どのような方法が考えられるのでしょうか。
MSJ開発中止、導入待ち続けたANA&JALはどうする? 日…の画像はこちら >>三菱航空機「スペース・ジェット」(画像:三菱航空機)。
JALでは2023年現在、MSJと同じカテゴリに入る、100席以下の地方間輸送むけジェット旅客機「リージョナル・ジェット」として、ブラジル・エンブラエルの「E-Jet」シリーズ、「E170」「E190」を使用しています。
MSJは2020年時点で、すでに6度の納入延期をしたのち開発を一時停止しました。このあいだにエンブラエルは、派生型である「E-Jet E2」シリーズを実用化させ、2018年にデビューさせています。
そのため、もし88席を標準とするMSJと同クラスのサイズ感をもつ機体が必要であれば、それより少し大きいものの、最大90~146席となるE-Jet E2シリーズの導入で、十分にその役割を果たすことができるという見立てが有力です。
その一方で、より大きな方向転換を求められるのが、ANAです。同社はエンブラエル機の導入実績がありません。
ANAグループはMSJのローンチカスタマーとして、開発当初からユーザーの立場として参加してきました。それだけに、今回の開発中止や「いったん立ち止まる」より前に、先行きへの予測もついていたでしょうし、替わりの機種への“あたり”は付けている可能性もあります。
もちろん現在公式での発表はありませんが、その可能性について探っていきます。
ANAグループではこれまでMSJを待つ間、ターボプロップ機のDHC8-Q400やMSJより少しサイズの大きいボーイング737を使用してきました。また、このうちの一部の機体は、MSJの度重なる納入遅延によって、急遽調達したものもあります。
737についてANAは2022年7月、162~210人乗りの737-8を導入すると発表。現在同グループで運用されている737-800の後継機になる予定です。ただ737-8は、MSJと比べるとあまりに大きすぎます。となると、737-8より小さく、MSJのサイズに近い126人乗りの姉妹機、737-7も有効かもしれません。
Large 02
エアバスA220(画像:エアバス)。
一方で、2022年に来日したエアバスA220や、エンブラエルE-Jet E2シリーズもとうぜん選択肢に入るでしょう。
A220は100~145人乗りと、E-Jet E2より更に大きめです。ただANAでは既にA320、A321をはじめエアバス機を多数導入しており、交渉は比較的スムーズにいきそうです。一方、E-Jet E2はANAグループでの導入はありませんが、エンブラエルにとってANAは、リージョナル機でより日本に確固たる足場を築くべく、ぜひ売り込みたい相手でしょう。
一方、74席をもつDHC8-Q400の後継を、ターボプロップ機で考えると、フランスのATRが手掛ける「ATR72-600」が最有力でしょう。72席を標準とするATR72-600は、ANAとコードシェア便を運航するORC(オリエンタル・エアブリッジ)でも導入されています。
また、ATRはエアバス社とレオナルド社が共同パートナーシップを結んだ事業体で、エアバス系の航空機メーカーということができます。さらに現実として、旅客機市場で現在選べる70席級ターボプロップ機となると、ATR72の一択になります。
Large 03
ATR72-600(写真:ATR)。
ただ、世界の航空需要予測はロシアによるウクライナ侵攻やコロナ禍で、下にブレている最中です。今後需要の回復が見込めなければ、新たな機種はMSJより小型にならざるをえなくなり、そうなるとターボプロップ機を増備する方向も大いに考えられます。ここに関しては、今後どのように航空需要が変動するのかという、各社の読みも問われることになるでしょう。
それだけに、今回の開発中止は、JALとANAにとっては、先行きの読めない、厳しい状況での発表だったといってもよさそうです。しかし、いずれにせよ、「いったん立ち止まり」続けた結果として挫折したMSJを気にする必要はもうなくなったため、JALとANAの新機種選定は、多くの注目を集めそうです。