地震や台風などの自然災害への備えが日々重要視される中、大阪府堺市の堺市総合防災センターでは、地域住民の防災意識を高めるための施策を展開している。その一環として、「段ボールジオラマ」を活用した防災授業が実施された。
堺市総合防災センターは、さまざまな実災害に近い体験を通じて、市民への防災啓発や防災意識の醸成を目的に、2022年4月に開設した施設。消防局の最重要施策として、2004年に計画が立ち上がって以来、20年近くの歳月をかけて取り組んできた事業であり、堺市消防局 予防部 総合防災センター 副所長の梅崎晋吾氏は「この施設を活用しながら、さまざまな体験を通じて市民の方への啓発活動を頑張っていきたい」と強い意気込みを語ってくれた。
堺市総合防災センターは、消防局が直接運営を手掛けており、センター内に啓発施設と訓練施設が併設されているのが特徴。防災啓発を通じた人づくりに加えて、最新鋭の設備を備えた訓練施設として消防力を強化することも大きな目的であり、さらに、有事の際は、備蓄倉庫として活用されることも想定。まさに堺市の防災拠点としての役割を担った施設となっている。
特に啓発活動においては、市民の防災意識を高めるための体験コースが常設されているほか、年に5回、時節に応じた防災関連イベントも実施されている。昨年1年間でおよそ5万人が来場しており、「今後もさまざまなニーズを捉えつつ、それに沿った活動、運営をしていきたい」と梅崎氏。なお、今回実施された「段ボールジオラマ防災授業」もその一環として開催されたものとなっている。
堺市の場合、大阪湾に面する沿岸部は、やはり津波に対する不安が大きくなるが、泉北ニュータウンがある南区などの丘陵地は土砂災害、内陸部は河川の氾濫など、地域によって警戒すべき災害が異なるため、一言で防災啓発と言っても、その内容は多岐にわたる。その中でも現在は特に、南海トラフ地震や、堺市を南北に通る上町断層による地震への警戒を強めており、啓発活動はもちろん、実際に起った際の避難行動などを中心に、防災活動が行われている。
○■段ボールジオラマを使った防災授業
「段ボールジオラマ防災授業」は、段ボールジオラマを作ることによって、堺市の地形を把握し、地域特性を理解し、防災に役立てることを目的とした防災イベント。イベント当日には、およそ40人の家族が参加し、段ボールジオラマを通した防災授業に耳を傾けた。
段ボールジオラマは、等高線に沿って切り抜かれたパーツをパズル感覚で積み重ねて、子供でもカンタンに組み立てられるオーダーメイドのジオラマキット。「平面の地図ではなく、立体のジオラマを使うことで、実際の理解度が高まる」という防災ジオラマ推進ネットワークの細谷真紀子氏は、「出来合いのジオラマではなく、実際に自分たちの手で作り上げることで、楽しさの上に気づきがあり、より学びが深くなる」と、段ボールジオラマのメリットを紹介する。
授業ではまず、堺市総合防災センターの梅崎副所長が挨拶に立ち、津波災害などの可能性を示唆しつつ、災害はいつ起るかわからないので、しっかりと堺の地理的な特徴を学んでほしいと参加者に話しかけた。続いて登壇した協賛のJT 大阪支社 部長の濱村雅人氏も、「家族の中でも防災の意識を高めていただいて、その意識を継承し、周りの方にも伝えて言ってほしい」との言葉を送った。
段ボールジオラマ防災授業では、まず堺市の地形などを見つつ、警戒すべき災害を確認。それを実際に確かめるべく、参加者を6つのグループに分け、各グループで6分割された堺市の段ボールジオラマを作成していく。
完成した6つの段ボールジオラマをつなぎ合わせると堺市の全体像が浮かび上がる。そこであらためて、堺市の高低などをチェックしつつ、ハザードマップを重ねながら、危険地帯を把握する。
「防災というのはすごく幅広い」という、防災ジオラマ推進ネットワークの細谷氏。災害が起きる前の防災教育から、災害が起きた後のボランティア活動まで、すべてが防災活動になるが、その中でも、事前の防災教育に力を入れており、段ボールジオラマのように、より楽しく防災を学んでもらうことをコンセプトに活動しているという。
「防災の知識は決して重いものではないので、とりあえず頭の中に入れてほしい」と話す細谷氏は、「日々の暮らしにおいて、その知識がどこかで交わることがあるので、そのときに防災を思い出してもらいたい」と続けた。自分の生活を防災のために変えるのではなく、日常生活に防災をなじませることで、防災を日常化し、「防災が当たり前になれば良いですね」と、防災に対する意識の持ち方への希望を語った。
○■南海堺駅前には防災喫煙所を設置
また、地域貢献活動の一環として、今回の「段ボールジオラマ防災授業」を協賛したJT 大阪支社の濱村部長は「南海トラフや上町断層の地震などが懸念される中、防災への取り組みを強めている堺市さんに何とか協力したい」と協賛の理由を話し、「地域の課題に寄り添って、一緒になって少しでも解決に繋がれば」との想いを語った。
JTでは、地域の防災活動に協力する一環として「防災喫煙所 イツモモシモステーション」を設営しているが、南海堺駅前の喫煙所も、2023年1月に防災機能を備えた喫煙所としてリニューアルした。
喫煙所の用途は“たばこを吸う場所”という限定的なものになるが、そこに付加価値を加えたいという想いから生まれた「防災喫煙所」。平時に環境美化へ繋がるものだけではなく、災害時にも役立つ場所としての活用が期待されている。
南海堺駅前の防災喫煙所は、「ソーラーパネルによる屋外LED照明」「防災倉庫機能」「防災啓発」の3つの防災機能を備えており、特に「ソーラーパネルによる屋外LED照明」は、防災喫煙所プロジェクトにおいては初めての取り組みとなっている。
今後も、防災活動に限らず、環境美化の保全活動などを堺市をはじめるとする自治体と協力していきたいと話す濱村部長。「地域の方が抱える課題やニーズを把握しながら、我々のできる範囲でサポートさせていただき、一緒になって盛り上げていきたい」と今後のさらなる協力体制を約束した。
○■正しい知識を持って、正しく恐れてほしい
南海トラフや上町断層による地震だけではなく、台風被害なども大きな問題となりつつあるなが、「災害に対して正しい知識をもってほしい」と話す梅崎副所長は、「もちろん、恐れるべきところは恐れないといけないのですが、無駄に恐れないでほしい」と続け、「きちんと備えることで被害は軽減できます」と強調。堺市総合防災センターはそのための施設であり、日々のイベントや活動を通じで、「すこしでも考えるきっかけになれば」と、今後の活動への意気込みをあらためて語ってくれた。