電化してもアルファロメオらしさは健在? 新型SUV「トナーレ」のPHEVに試乗!

あのアルファロメオが電動化に本気をだしてきた。日本では2023年1月にSUV「トナーレ」のマイルドハイブリッド車(MHEV)を発売。このほど同モデルのプラグインハイブリッド車(PHEV)も導入した。優美なエンジン音で多くのファンを獲得してきたアルファは、電化しても魅力を失わないのか? トナーレPHEVに試乗して確かめた。

○トナーレPHEVってどんなクルマ?

イタリア車のアルファロメオから登場したミドルサイズSUVの「トナーレ」(Tonale)。日本では2023年1月にマイルドハイブリッド車(MHEV)が発売となり、このほどプラグインハイブリッド車(PHEV)が追加となった。

アルファロメオには「ステルヴィオ」(Stelvio)というSUVがあるが、トナーレはひと回り小さな車体寸法なので、より日本で扱いやすい車種という位置づけになる。

このほど日本に登場したのはアルファロメオ初のPHEVとなるトナーレの「Plug-In Hybrid Q4」だ。「Q4」は4輪駆動車であることを意味する。排気量1.3Lのガソリンターボエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド走行に加え、容量15.5kWhの車載リチウムイオンバッテリーを充電しておけばWLTCモード値72kmのモーター走行ができる。

車体の骨格となるプラットフォームは、ジープの「コマンダー」「コンパス」「レネゲード」およびフィアット「500X」と共通性があるという。PHEVのシステムは「レネゲード4xe」と同様だ。ただしトナーレでは、走りながらバッテリーを充電できる走行モードが使える。ちなみにアルファロメオはステランティス傘下のブランドであり、ジープやフィアットも同じグループに属している。

他ブランドの兄弟車種と共通性があるので、トナーレは他のアルファロメオ車よりも身近に感じられる。同ブランド初のPHEVではあるものの、日本では先にレネゲード4xeがデビューしているので、性能面でも安心感がある。

ステランティスジャパンのアルファロメオ担当者によると、トナーレは同ブランドの次世代スポーティネスを求めた車種として、効率(環境適合性)とドライビングプレジャーの融合を目指したモデルであるとのこと。環境に配慮しつつ、アルファの伝統といえる情熱的な走りを実現することは可能なのか。実際にPHEVを運転してみた。

○電化してアルファらしさが増幅?

車載バッテリーに十分な電力が蓄えられていれば、モーター走行で走りだす。その走りを十分に楽しみたければ、アルファロメオ特有の走行モード「DNAドライブモードシステム」(Dはダイナミック、Nはナチュラル、Aはアドバンスド・エフィシェンシー)の「A」を選択すると、最高時速135kmまでモーター走行を維持できる。ただし、アクセル全開加速をすると自動的に「N」モードに切り替わり、エンジンを併用したハイブリッド走行になる。

アルファロメオはフィアットの競合としてミラノに誕生し、第二次世界大戦前にレースで大活躍して無敵の王者となった。その標章はミラノ市の記章と、ミラノの支配者スフォルツァ家の紋章を組み合わせたものだ。そうした原点を持つアルファロメオの魅力は、高性能エンジンとそれが放つ優美な音色、そしてイタリアならではの美しく情熱的な造形である。しかしモーター走行となれば、アルファロメオを特徴づけてきたエンジン音がなくなることになる。

ところが、トナーレPHEVのモーター走行は、静かで滑らかな走りのなかにも壮快な運転を楽しませる俊敏さが感じられ、かつてレースで活躍したことを思い起こさせる切れ味鋭い身のこなしに心躍らされるのであった。運転していると、これは間違いなくアルファロメオだと思わせてくれる。俊敏さは車格が上のステルヴィオ以上に自然で、素直に体内に染みわたる。それはなぜか。

モーターはエンジンの1/100の速さで応答する。運転者がアクセルペダルを操作した通り、寸分の遅れなく速度を加減できる。これが、俊敏さを特徴とするアルファロメオらしい操縦性と絶妙に調和しているのだ。すべての運転操作に対する遅れのない反応が、アルファロメオの目指すドライビングプレジャーをもたらしている。静寂のなかで感じるクルマとの一体感は、エンジン音のことを忘れさせるかのようだ。

トナーレの車体寸法も、手の内にあるという運転感覚を増幅する。ステルヴィオは車体寸法がやや大柄なため、例えば山間の屈曲路で攻めた走りをする際に躊躇させるところがあった。しかしトナーレであれば、目一杯の攻略が叶うかもしれない。そんな嬉しさがある。

この先、アルファロメオのラインアップは電気自動車(EV)だけになっていく。これまで、アルファロメオらしいエンジン音に胸を轟かせてきた人は、一抹の寂しさを覚えるかもしれない。しかし、官能的なエンジン音は高回転域まで回したときにしか耳に届かない。逆にEVであれば、低速から高速まで、思い通りに操れる運転の喜びが感じられる。それが、新しいアルファロメオの価値になるだろう。

これまでアルファロメオがエンジン車でこだわってきた前後重量配分の均等化や低重心な設計、そしてハンドル操作への素早い応答などは、EV化することでより理想に近づけられる可能性がある。電動化では後発組のアルファロメオだが、EVの魅力を極める姿勢のなかに伝統(ヘリテージ)を織り込む努力を怠ってはいないようだ。かつて競合であったフィアットは「500e」を開発し、エンジン車時代の「500」(チンクエチェント)ならではの楽しさや外観の魅力をEVで創造した。こんな未来をアルファロメオにも期待したい。

ところで、トナーレPHEVは200ボルト(V)の普通充電口のみの装備となる。これは他の輸入車PHEVと同様だ。それが世界標準でもある。

一方、日本市場においては、マンションなどの集合住宅あるいは月極駐車場での200Vコンセント、200V普通充電器の設置が進んでいない。このため、トナーレPHEVを購入するに際しては、自宅で充電できるかどうかが検討材料のひとつとなる。自宅で充電できなければ公共の普通充電設備で充電することになるが、急速充電ではないので30分ほどで充電が完了するわけではない。普通充電器の出力にもよるが、バッテリーの減り具合によっては3~5時間の充電を外出先でしなければならない。日々の利用を考えた場合、それはあまり現実的ではない。

もちろん、充電できなくてもハイブリッド車として乗ることは可能だが、上記のモーター走行の味わいは得にくい。

トナーレPHEVは走行中にバッテリーを充電するチャージモードを備える。だがこれは、長距離移動をする際、目的地の市街地で再びモーター走行を行うための準備として役立つ機能であり、自宅で充電できない人が日常的に使用する走行モードであるとは考えにくい。

ここが、日本でPHEVを購入する際のひとつの課題となっている。

PHEVはEVと違い、遠出のときでも移動途中の経路充電を心配する必要がなく、ハイブリッド走行により低燃費で移動し続けられるのが特徴だ。自宅で充電しておけば、日々の運転はモーター走行でまかうこともできる。ただし、この恩恵を受けるには自宅で普通充電ができる環境を整えなければならない。トナーレに限らず、PHEVの購入を検討する際には自宅の充電環境を考慮しておく必要があるだろう。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら