兵器は、誰にでも操縦や運用ができるよう作られるはず。ただ創作物の世界では、尖った性能で他を圧倒する主人公機などが登場します。現実でもそういったことはありえるのでしょうか。
よく創作物の世界では、「じゃじゃ馬だが操縦できるパイロットがいれば最強」「危険な機体だが特定の任務達成のためにやむを得ず」といった機体が登場し、読者や視聴者の気分を盛り上げる要素のひとつとなっています。
しかし、現実の軍隊では大体の場合、誰でも扱い易いことが前提に機体が設計されています。しかし、ときに必要に駆られ、限定的な任務で限られた人材が使う兵器というのも登場しました。まさに「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ」を現実にやってしまった第一次世界、第二次世界大戦で運用されたドイツの軍用機2機を紹介します。
選ばれしパイロット向け「あまりに特殊で伝説になったドイツの飛…の画像はこちら >>「フォッカー Dr.I」のリヒトホーヘン機レプリカ(画像:Michael Dolan [CC BY 2.0] https://www.flickr.com/photos/141509577@N05/40635517803/ )。
おそらく戦場で登場した最初で最後のエース専用戦闘機と言ってもいい機体が第一世界大戦中の1917年にドイツ軍が開発した「フォッカー Dr.I」です。見た目は3枚の翼を持つ三葉機で、これでも航空機としては異様なフォルムなのですが、主脚間に板を渡して4枚目の翼を通しており、実質的に四葉機に近い構造をしています。
射界に相手を捉えるために機動しながら行う空中戦闘、いわゆるドッグファイトで敵機を凌駕する機動力を発揮することに主眼が置かれた機体で、厚みのある3枚の主翼により、抜群の上昇性を発揮。旋回能力も高く当時の戦闘機の中でもかなり機敏でしたが、厚い3枚翼により視界が悪いうえ、4枚も羽があるせいで空気抵抗も高く速度を確保するのも難しい状態でした。
ただこのデリケートすぎる機体を優先的に与えられた当時のドイツ軍のエースパイロットたちは巧み操作し、次々と敵機を撃墜していきました。同機の搭乗者で一番有名なのは、「レッド・バロン」の愛称で知られるドイツ軍の撃墜王、マンフレート・フォン・リヒトホーヘン男爵でしょう。
「レッド・バロン」の通り名の通り、機体を赤く塗装し、戦場ではかなり目立ったそうです。通常機の3倍早かったかどうかは定かではありませんが、敵機撃墜機数80機と第一次大戦中の戦闘機パイロットの中で最多のスコアを誇り、第1戦闘航空団の指揮官としても多くのエースを輩出し、伝説的な活躍を残しました。またのちにナチス・ドイツで空軍司令官になるヘルマン・ゲーリングも白く塗装した同機に搭乗していました。
実は『ガンダム』などで、各エースが愛機にパーソナルカラーを付けるというネタは、この「フォッカー Dr.I」をはじめとした第1次世界大戦中のパイロットにその源流があるともいわれています。
第二次世界大戦で運用されたドイツ軍の「カノーネンフォーゲル」ことJu87 G-2は、創作物によく出てくる「ワンオフ機」に限りなく近い機体になっています。急降下爆撃機Ju87「スツーカ」の両翼に37mm砲とガンポッドを搭載したもので、1943年7月に始まった独ソによるクルスクの戦いで初投入されたといわれます。その初投入時はドイツ軍の地上攻撃のエースパイロットとして高名なハンス=ウルリッヒ・ルーデルしか使用していませんでした。
Ju87が低速で照準しやすいことを活かし、ソ連軍が大量に投入してくる軍用車両や装甲車、戦車などを上空から効果的に撃破するために開発されたとされています。たとえ相手が重戦車でも、装甲が薄い上部を狙い砲弾を叩き込むことで容易に撃破することが可能でした。
Large 230826 pi 03
Ju87 G、ルーデル乗機(画像:Bundesarchiv[CC BY-SA 3.0 ])。
しかしこれはあくまで理論上の話です。両翼に不釣り合いなほど大型の砲を搭載したため、発射時の反動をコントロールするのは大変でした。あのルーデル自身も「操縦が恐ろしく難しい」と言ったほどです。しかも、ドイツ空軍が制空権を取れなくなった時期から投入された機体ということで、重い荷物を背負って戦場を飛ぶだけでもかなり大変なのに、少しでも弾を無駄にしないよう、目標にかなり接近する必要もありました。
そのため、機体の特性を完全に理解しているパイロットのみしか扱えない超ピーキーな機体となりましたが、ルーデルらベテランの「スツーカ乗り」は同機を操縦し、戦果を挙げ続けました。同じ運用法で、敵であるソ連空軍が使用していた「シュトゥルモヴィーク」ことIl-2が新米パイロットでも安定した飛行ができたことと比べると対照的といえます。
ドイツのピーキーすぎる機体はパイロットの能力の高さもあり、創作物のような活躍ぶりも残しました。しかし、局地的な優勢を得られたとしても、大局で満足な兵力が確保できなくては、いずれ覆されてしまいます。結局、生産性も信頼性も高い量産機を数多くそろえてこそ、大局的勝利は得られるのです。