若き学生襲う「オワハラ」 過去にはコンプラ無視の内定者“風俗…の画像はこちら >>
就活まっさかりだ。自由化を通り越して、無法化とも言えるような早期化が進んでいる。
就職情報会社ディスコが発表した24卒学生の2023年1月1日時点で「内定を得た」という学生は14.9%となっており、前年同期の13.5%より1.4ポイント上昇した。「本選考を受けた」という学生も51.1%おり、前年同期の49.2%より1.9ポイント上昇している。
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早期化の理由は、2018年に経団連が就活時期に関する「採用選考に関する指針」を2021年卒以降は策定しないと決めたことや、人材不足、採用活動のオンライン化などが影響している。
政府は、経済団体などに採用広報活動開始を卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動開始を卒業・修了年度の6月1日以降、正式な内定日を卒業・修了年度の10月1日以降にするよう要請している。ただ、形骸化が甚だしく、上記のような早期化が進んでいる。そもそも、就活の歴史は早期化と時期論争の繰り返しだ。約100年、このような議論が続いている。
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私は勤務先の大学で学部のキャリア委員長を務めている。進路選択に関する相談が日々寄せられる。中でも多いのが「オワハラ」関連である。オワハラとは何か? 説明しよう。就活終われ・終わらせろハラスメントの略だ。つまり、内定を出した学生に他社を断らせ、就活を終了させるハラスメントだ。
オワハラは耳を疑うようなひどいものから、ライトなものまで多様である。人事担当者の見ている前で内定先すべてに内定辞退の電話をかけさせる、入社を決めるまで何度でも選考プロセスを設定するなどのものである。内定承諾書、入社同意書にサインさせるという手口もある。
これは必ずしも法的拘束力を持たないのだが、とはいえ入社せざるを得ない雰囲気にはなる。内定後に教授からの推薦状を提出させるという手口もある。これも、その後、内定辞退しても問題はないものの、やはり断りにくい雰囲気にはなる。人事担当者からしつこく電話がかかり続けることもある。教え子の一人は、着信拒否に踏み切った。
内定者に他社に行かせないために、内定後にインターンやアルバイトをさせるという手もある。企業側からすると、互いに理解を深めるという意図はあるものの、行動の監視のようにも見えてしまう。
さらに、内定者SNSというものも20年近く前から存在する。内定者と社員の交流を深めるためや、企業側から内定者に通知を行ったり、提出物のやり取りをするプラットフォームにもなっているのだが、アクセス状況をもとにどの内定者が積極的かどうかの判断や、辞退リスクがあるかを見極めるツールともなっている。
あくまで体感値ではあるが、このオワハラの相談は2010年代後半の売り手市場でよく見られたが、さらに新型コロナウイルスショックにより拡大したと感じる。
コロナ前は「内定者合宿」「研修」「懇親会」などのように呼び出して、飲み食いもセットしてもてなすなど、リアルな接点を活かした囲い込みが行われていた。ただ、新型コロナウイルスショックではそうもいかない。さらに、オンライン就職で内定を多数獲得できる一方で、入社の決め手がないという状態になる。そのため、オワハラが横行する。
歴史を紐解いてみると、オワハラは今に始まったわけではない。以前も過激な内定者拘束、内定辞退の強要は行われていた。
特に80年代後半のバブル期などは、加熱っぷりが伝えられていた。当時のリクルート『就職ジャーナル』には、リクルーターに映画館に連れて行かれる、東京~新大阪間の新幹線に乗って往復をさせられるなどの様子が描かれていた。
極めつけは、寿司・ステーキ、サウナ、ソープランドという「3S(スリーエス)」接待である。何人、このような想いをした人がいるかは不明だが、バブル期の過剰なまでの採用熱が感じられる例である。
今ではコンプライアンス的に問題がある。景気がいい話にも聞こえる。ただ、採用活動は常にコンプライアンスすれすれのことが行われ、しかも景気が良いときや、人材採用難の局面ではどんどん過激な囲い込みが行われていた。
バブルが弾けたあとも、就職氷河期を経て、何度かの売り手市場があった。そのたびに、旅行代理店には内定者研修旅行の相談が舞い込む。都心のホテルでの派手な接待も目立った。
コロナ前は海外インターンシップを行う企業もあった。学生に無料で楽しい体験を提供するものだし、学びも大きいのだが、一方、この期間に学生は他社を受けられなくなる。巧妙な手段である。
人手不足、採用難は今後も続くだろう。今後、オワハラは加熱するし、コロナの5類化により内定者接待も復活する。どのような内定者囲い込みが行われるのか。学生よ、職業選択の自由を忘れるな。学生生活を侵害する企業に抗え、たてをつけ。
Sirabeeでは、労働社会学者、働き方評論家である千葉商科大学国際教養学部准教授・常見陽平(つねみようへい)さんの連載コラム【過去から目線】を公開しています。
現代社会で今まさに話題になっているテーマを、過去と比較検討しながら分析する連載です。今回は、この時期の風物詩である「現代の就活と企業の囲い込み」をテーマにお送りしました。
(文/常見陽平)